軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百八十二話 育む

とりあえず、甲板に正座して俺はエスピを説教していた。

「いいか、エスピ。ズルしたのはダメだ。でもな、それを誤魔化そうとして嘘ついたな?」

「……だって……」

「だってじゃねぇって」

俺と対面して正座しながらも、唇尖らしてそっぽむくエスピ。どうやら拗ねている様子。

だが、ここでちゃんと教育せねばと、俺は気づいたらこんなことをしていた。

「だっこぐらい……別に勝負に関係なくしてやったのに……」

「えっ!? そーだったの!?」

「ズルもウソもつかなければな……」

「うぁ、あ、うそついた! はいはい! うそついた!」

俺の言葉にビクッとして、顔をこっちに向けたエスピは焦って手を挙げて白状してきた。

「お兄ちゃん、わたし、ズルして嘘ついた! 念力でギュッと魚を絞めて持ち上げたの! 私正直に言ったでしょ? はい、だっこ!」

ギュッと締め上げてとか、随分と恐ろしいことをサラリと……しかもこんなデカい魚を。

『浮遊能力、念力、衝撃波、こやつの能力は魔法ではないうえに応用も利くからな……まぁ、これほどの巨大魚でもこやつからすれば朝飯前なのだろう……』

トレイナの言葉に頭が痛くなる。

両手を広げて、子供らしくだっこを求めてくるが……それでも七勇者の一人か~、と言いたくなるが、まぁここは……

「だめ。抱っこはしねーよ」

「なんで!? 正直に言ったでしょ! お兄ちゃんの方が嘘つき!」

「先に嘘ついた方がダメなんだ」

「う~、お兄ちゃんのイジワル! ぶっとばしちゃうよ?」

「ぶっとばすって言葉も、どうしても我慢できなくなったときに言っていい言葉だぞ!?」

「どうしてもだし!」

エスピはむくれてプンスカしているが、とにかく勝負は無効だ。

『今まで色々と我慢してきた分……貴様に優しくされて、ワガママを覚えて……今度はそれの加減が分からなくなったのだろうな』

『ったく……安物のリボン一つのプレゼントで物凄く戸惑ってたくせにな……』

なんつーか、ただエスピと一緒に行動するだけじゃなく、今後もこういうちょっとしたことも教えてやらねえとな。

子育てとまではいかねーけど……つーか、ベトレイアルの連中とか連合軍とか、親父と母さんとかもうちょっとちゃんと教えてやれってんだよ!

『まぁ……それもまた貴様にとっても一つの経験だと思ったらどうだ?』

『トレイナ……?』

と、そんな俺にトレイナが苦笑しながら囁いてきた。

なんだ? まさか、俺に子育てでもしろって言うんじゃねえだろうな?

『貴様はカクレテールで、モトリアージュたちと一緒にトレーニングしたりアドバイスすることで鍛えてやったな。まぁ、たった数か月なので中途半端に終わってしまったが、それでもいつも余から鍛えられるだけの立場から、他者を鍛える立場になることで見えてくるものがあったはずだ』

その言葉には確かにそうだと納得できた。

アドバイスを送る立場として、それなりに責任も感じたし、テキトーなことを言うわけにはいかないから、モトリアージュ、オラツキ、モブナ、ブデオたちの特性を見極めるために真剣にあいつらの動きや力と向き合った。

『それと同じだ。今まで甘やかされて育った貴様だ……今度は……育む立場になってみたらどうだ? それがどういうものなのか……貴様の父や母、あのメイドは改めてどうだったのか……そういうことも知る良い機会になるかもしれぬ』

『は……育むって……別にエスピは俺の子供ってわけでは……』

『メイドとて貴様と実の親子でもなければ、実の姉弟でもない。しかしそれでも貴様に対して愛情をもって育んでいたのだろう?』

『そ、それは……そうだけど……』

『そしてそれはある意味で……余が貴様に教えてやれぬ……余にもどういうものなのか分からぬものでもあるしな……』

子がいたわけではないみたいだし、トレイナがそう口にするのは間違っていないけど……まぁ、俺はトレイナに鍛えられて……十分、情を感じて育まれている気もしなくも……

『と、とと、とにかくっ!』

『あっ……』

『き、貴様も人を育てることの難しさでも学んでみろ! 甘やかすだけではなく、自分だけでなく他人の将来を真剣に考えて導く的な、あれだ! やってみろ!』

うぅ、また心を読まれて……トレイナが随分と早口でまくし立ててきたが、照れたんだろうか? って思うとまた睨まれるので、頭を切り替えよう……鍛えるだけではなく、育むこと……その難しさを学ぶと……

「お兄ちゃん? どうしたの? やっぱ、だっこしてくれるの?」

「ん?」

と、エスピが俺の顔を覗き込んできて期待するような目で……でも、ここで甘やかすのはやっぱダメだろう。

「いやいや、いーや」

「ぶーーーーっだ! ケチンボ!」

「ケチじゃない!」

しかし、これを育てるのは相当骨が折れそうだ。

しかも癇癪起こすだけで色んなものを破壊できそうな力を持ってる子供だしな。

先が思いやられるぜ……

「いや~、しかし大したもんだぜ、兄ちゃんも妹さんも、ほんとすげー兄妹だぜ!」

「「??」」

そのとき、向かい合って甲板で正座していた俺とエスピに、船員のオッサンたちが話しかけてきた。

「おうよ。こんなデッケー鮫を釣っちまうんだからよ」

「将来有望だぜ、お嬢ちゃん」

エスピは能力使ったんだが、それを知らないオッサンたちは実力で釣ったと……まぁ、ある意味で能力も実力ではあるけど、いずれにせよエスピが獲った鮫を眺めながら目を輝かせていた。

「漁港の漁師たちでもここまではいかねぇ……これはひょっとしたら……」

「あんたら二人ならもしかしたら……アレを……」

「ああ……『近海の主』も釣れるかもしれねぇ」

「「主??」」

そしてその話の流れで、オッサンたちはちょっと気になることを口にした。

「主? そんなもんがこの辺りにいんのか?」

行きの船の時にはまったく聞かなかった話だったので、ちょっと俺も興味を持った。

「ああ。『大海王イカ』って言ってな……船乗りの間じゃ有名な怪物よ。今までいくつもの漁船や、軍艦すらも沈めたと言われている凶暴な生物よ」

「い……イカ?」

「ああ。神出鬼没でいつどこで現れるか分からねえし、見たことあるってやつも少ねぇが、間違いなく存在してる。その証拠に、かなりの額の懸賞金が掛けられていて、数多くのハンターたちが今でも探してるって話だ」

「ふ~ん……イカねぇ……」

「それでこの船にも大砲とか色々装備してんのさ。まっ、単純に魔王軍対策でもあるけどよ」

念のため隣のトレイナの様子を伺ってみると……

『ああ、確かにそのような生物がいたというのは聞いたことあるが、余も見たことはないし、気付いたらどこかの誰かが仕留めたという噂は聞いたことがあるな……』

『え? そーなのか?』

『まぁ、この時代のこの時期にはまだ仕留められていないのだろうがな……』

『ふーん……意外と、俺が仕留めてたりしてな♪』

『ふっ、何を言って……とは言い切れぬな……』

と、俺はふざけて言ったつもりだったんだが、トレイナが意外と真剣にそう呟いたので、俺も「まさかな……」とは思いつつも、「でも、まさか」とも思ってしまった。

すると……

「よし、決めた!」

「ん? エスピ?」

エスピが急に立ち上がって拳をギュッと握りしめた。

「私がそいつを釣る!」

「……なに?」

「そしたら、今度こそ……だっこ! お兄ちゃん、もう一度勝負!」

普通の人間なら恐怖を抱くような話なのに、むしろ気合入れちゃってるエスピ。

まぁ、七勇者だし、単身で六覇に挑むほどの力の持ち主なんだから無理はないか。

これは意外と本当にそのイカを仕留めたのは……

「おーーーーい、前方に何か巨大な物体が浮いてるぞ―――――!!!!」

そのとき、急に船員の誰かの野太い声が響き渡った。

「いったい、なんだ?」

「分からねえ! でも、見てみろよ!」

「……う、うお、何だあれ!?」

船員たちが慌ただしく船首に向かい、俺とエスピも後を追ってみた。

そして、俺たちも見た。

「おぉ……なんかいるね、お兄ちゃん」

「ああ……デケーな……何だあれは?」

前方の海に浮かんでいる巨大な物体。遠目からでもその姿は見える。

この距離でもハッキリ分かるってことは相当なデカさ。

ひょっとしたらこの船よりも……?

『……巨大な……頭足類だな……』

『それって……』

『まさに今、話をしていた……』

『え!? それじゃぁ……』

思わず俺も身を乗り出す。

確かに、なんか触手みてーな……そんなのが数本見えるような気がする……。

ただ、一番気になるのは……

『あれって……もう……』

『うむ……死んでるな』

『ッ!?』

やっぱりだ。海に浮かんでいる謎の物体……いや、生物は既に死んでいる。

死骸が海に浮かんでいるんだ。

しかし、あれだけ巨大なものが何で……

『待て、見てみろ。あの死骸の近くに……小舟が……誰かが乗っているぞ?』

『なに?』

トレイナに言われて、俺はもっとよく見てみる。

すると、確かに小舟が一艘浮かんでいる……が、誰が、どんな奴が乗っているかはハッキリとは見えない。

だが、それが一体誰なのかは俺もトレイナもすぐに知ることになる。

そしてある意味で、俺がこれから育むことになるのは……

エスピ一人だけじゃなかった。