軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百八十一話 才能

周囲に神経を張り巡らせる。それはまさに言葉の通り。

マジカル・レーダーを広範囲に広げていく。

海上を進む船の上から釣り糸を垂らす俺。

これまでただ糸を垂らして魚が食らいつくのを待っているだけだった。それはもはや運だけの話。

でも、今は違う。

「見える……いや、感じる……海面の下にどんな世界が広がっているのか……」

自分の魔力を広範囲に広げることで、俺の魔力の広がる範囲内に存在するもの全てが手に取るように分かる。

魚の群れ……数……大きさ……泳ぐスピード……配置……全てをだ。

『で……分かったのなら、どうする?』

傍らのトレイナの言葉に頷きながら、俺は垂らした糸の針に取り付けている餌に意識を集中させる。

周囲を泳ぐ魚……その動きに合わせ、そして先読みし、魚が餌を視界に入れた瞬間、まるで誘うように俺は手首を軽くチョンチョンと動かして、まるで餌が生きているかのように見せる。

その瞬間、かかった。

「きた! くった! かんだ!」

手に伝わる振動、衝撃、重さ。そして魚が釣られまいと抵抗する力。

まさに、人と魚の勝負。

『そうだ。釣りとは運ではない。人と魚の読み合い、騙し合い、力比べ、そして技術……あらゆるものを詰め込んで向き合う……まさに、決闘だ!』

「フィーーーーーーーーシュッ!!!!」

しならせた竿を引き上げて、魚が海から飛び出して宙を舞う。

水しぶきをまき散らせながら甲板に飛び込んできた魚がピチピチ跳ねている姿を見て、俺はガッツポーズした。

「おっ、あの兄ちゃん、また釣ったみたいだぜ」

「ああ。これで何匹目だ?」

「海の男にゃ見えねぇが、大したもんだぜ」

釣り上げた魚をボックスに入れ、パンパンになっている状況に俺は気分が良くなった。

船員の男たちから感心の声が聞こえてきて、更に気分がいい。

現代での行きの船の時とは大違いだ。

「そして何よりも……」

「ああ、こんな不安定に揺れる船の上で……」

「片足つま先立ちで釣ってるんだからスゲーよ」

おう、もっと褒めてくれ。

そう、釣りをしながらマジカル・レーダーの他、もう一つのトレーニング。

それは、この揺れる船の上で裸足になって片足つま先立ちをしてバランスを崩さないようにする。時間を置いて逆の足でもやる。

ただレーダーを発動させるだけだったら意味がない。戦闘中で戦いながらも自然に発動できるようにならなければ意味がない。

そこで、他のこともやりながら、その上でレーダーも発動させる。それがトレイナが俺に与えた船上トレーニング。

そしてそれが今は身になっている。

『だいぶ、腕前も上がったではないか。初めの頃は、魚がヌルヌルして触れないとか、餌が気持ち悪いとか情けない坊ちゃんぶりを見せていたくせにな』

「う、うるせえよ……ちっちゃいころは、餌を付けるのも、魚を持つのも全部サディスがやってくれたからよ……」

確かに最初はトレーニング以外のことで手こずったりもした。

でも、もう慣れた。

独特の生臭さも漁港でバイトしたりして、今じゃ何とも思わねえしな。

『やれやれ、貴様は本当に幼いころからあのメイドに甘やかされていたのだな……』

「ま、まーな……」

『それはそれで不自由は無かったのだろうが、カクレテールで卒業できて良かったではないか』

「……ん……」

その通りだ。

帝都を家出してから山でサバイバル、不良たちと交流、鎖国の島でホームステイ、天空世界、船に乗って異大陸に行って、漁港でバイト、そして今は過去の戦時中に戻って、船の上で釣りをしている。

しかもその間に六覇とか冥獄竜王と戦ったり……濃いな……でも……

「こうやって過去の世界に飛んだ時も、どうしようって慌てたけど……なんだかもう慣れちまったかもな……」

『それだけ精神的にも逞しくなってきたということだ。良いことだ。山で捕まえたウサギに同情して逃がしていた頃に比べたらな……』

確かに、もし俺がずっと昔のままサディスに甘やかされていたら……サディスには感謝してるし、ずっと好きだったし……トレイナの言う通りそれはそれで幸せになれたのかもしれない。

でも、こうやって生魚を掴んで達成感を得る喜びもなかったかもしれねぇ。

自分に自信が持てるようにはなっていなかったかもしれねぇな。

「サディスを泣かせちまったのだけは……つらかったけどな……」

ただ、唯一俺の胸が痛んだのは、やっぱサディスを悲しませたこと。

トラウマを抉ったこと。

俺がトレイナと共に行くことを選んだこと。あいつはちゃんと送り出してくれたけど……でも、本音はきっと……

『それも考えようだ。あのメイドも貴様に構ってばかりで、才能があるのに自身の才をなかなか伸ばせていなかっただろうからな……まだ若い……あやつもまだ心意気次第で大きく化けるであろう』

「……え? そ、そうなのか?」

トレイナのサディスに対する評価を聞いて少し驚いた。

サディスってもう十分強いと思っていたけど、まだ成長する?

そりゃ、俺より年上とはいえまだ十代だから変じゃねぇけど……

『確かに今も十分強いかもしれぬが、それはあくまで今の平和の世での話だ。血の滲むような修練や、命をすり減らすような実戦経験もない……それゆえ、パリピに手も足も出なかった。だが、才能だけならば相当なものだ』

「そ、そっか……」

『それに何よりも……あの娘は見たところ、正当なシソノータミの血統……もしさらに成長することになれば、いずれあの力……『月光眼』を開眼させる可能性もあるだろうからな……』

「ああ…………ん?」

ん? あれ? 今、なんか随分すごいことをサラッと言われたような……え? サディスが……月光眼?

月光眼って三大魔眼の……え?

「おにーちゃん!」

「ッ、うお、ん?」

と、話に夢中になっていたところで、後ろからエスピに呼ばれた。

それは、なかなか魚が釣れずにイライラして……

――わ、わたし、集中するから、あっちで釣ってくる! お兄ちゃんがビックリするの釣るから!

と、俺と並んで釣るのを断って、少し離れた所で釣りしていたエスピ。

呼ばれて俺が慌てて振り返ると……

「わ、……私の勝ち……ダヨ?」

「……………」

「「「「「うおおおおおおおおおおお、す、すげええ!!??」」」」」

海の男たちからも歓声が上がる。

エスピが頭上にプカプカと……なんというか……巨大な……顔?

『メガトンハンマーヘッドシャーク……なかなか面白いものを……』

「お、おお……エスピ……」

勿論、俺が今まで釣ってた魚たちも小さくはないが、それでも大きさは比べ物にならない。

俺が釣っていた魚は、このサメの餌ぐらいの大きさだ。

でも……

『巨大で凶暴で……だからこそ、これをまともに釣るには……相応の釣り竿が必要になるなぁ……こんな安物のレンタル品ではなく』

だよな。俺はトレイナの言葉にうなずいて……

「……エスピ……ズルしたな?」

「ッ!? し、してないもん! うそじゃないもん! わたし、まじめに釣ったもん! 念力で締め上げたわけじゃないもん! だから、私の勝ち! お兄ちゃんは今日は私の言うこと聞くの! だから、今日一日、私をだっこするの!」

明らかに釣りではなく、きっと能力でバコーンと釣ったんだろうと、俺がジト目で尋ねると、エスピは目を激しく泳がせながらバレバレの嘘をついた。

つか、これどーすんだよ……

『まっ、能力と才能で言えば、こやつも特別だがな……』

と、トレイナは呆れたように溜息を吐いていた。