軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百八十五話 返してみろ

甲板に出たら、昼間の暑い日差しが嘘のように肌寒い。

見上げれば、空には多くの星が輝いており、思わず見入ってしまいそうになるほど奇麗だった。

そして、同時にあいつも見つけた。

「……なんであんなところに……」

『星の位置から方角を見ているのかもしれんな。もしくは趣味か……』

「でも、あんな高い所に立って見る意味ってあるのか?」

『……少しでも空に近い方がいいとか……あそこなら誰の邪魔も入らないとか……』

マストに取り付けられた見張り台……の更に上、というかマストの頂点に立って空を見上げていた。

何をやってんだ?

「……やれやれ……うるさいな……独り言? あなた……さっきの……」

俺とトレイナが甲板で上を見上げていたら、あいつが顔を下ろしてきて俺と目が合った。

『どうやら、後者……誰の邪魔も入ってほしくなかったようだな……』

「ったく……この時代は……ガキが平気でああいう目で人を見やがって……」

俺があいつやエスピぐらいのころは……ウルトラ勇者になるとかなんとか言ってたっけな?

そんな俺に比べて、どんな人生を送ったら、子供がああいう顔を出来るんだかな。

「おぉ、わりーな、邪魔をして。ちょっと話を……お前のことを教えて欲しくて……んで、俺に興味を持ってもらおうかなって思ってよ」

「……は?」

不機嫌そうに尋ねてくるスレイヤに答えると、スレイヤは案の定さらに不機嫌そうに俺を睨んできた。

しかし、俺では想像もできない人生を送ってきて、ああいう目をするようになったと思われるガキが相手とはいえ、それでもいつまでもそうやって睨まれるのは俺も気分が良くないので、ちょっとからかうつもりで……

「ボクが? あなたに? 興味? 自惚れるのも―――」

「マジカル・パルクール!」

「……ッ!!??」

そして、あいつが溜息吐いて一瞬だけ俺から視線が外れた瞬間、俺は少しだけ本気のパルクールでマストを駆け上がってあいつの背後に回り込んだ。

「…………あなたは……」

「おっ、いい反応だな……しかし、そんなにビビッて逃げられると、お兄さんはちょっと傷つくぜ?」

俺の動きに途端に目を見開いたスレイヤは、マストの端まで一瞬で飛び退いた。

なるほど。ガキのくせにいい反応だ。

エスピはどちらかというと能力を駆使して動くタイプだが、こいつは素の身体能力でコレか。

そして、今の一瞬で警戒心をむき出しに、俺を真剣に睨みつけていつでも動き出せるように身構えている。

「で、どうだ? 少しは俺に興味を持ってくれたか?」

「ッ……あなたは……一体……」

「くはははは、睨むな睨むな。別に取って食おうってわけじゃねえ。むしろ……」

これまで誰に対しても拒絶の態度を取って、興味すら持とうとしなかったスレイヤが、悪い意味ではあるが俺をようやく見てくれた。

だが、このままでは一戦始まっちまうかもしれないので、敵意はないと俺は笑って見せたうえで、ポケットの中からアレを取り出して、スレイヤに投げた。

「ほれ、ビックリさせたお詫びだ。だから、これをおこぼれだなんだと捻くれたことは思わなくていい」

「……え?」

警戒しながらも俺から投げられたものをキャッチしたスレイヤ。

俺はもう一本ポケットから同じものを取り出して、その袋を破く。

そして中から出てきたのは、小さな棒状のビスケットみてーな食べ物。

「……これは……?」

「ハンターなのに知らねえのか? 『カロリーフレンド』だ」

そう、現代のスレイヤが営んでいる道具屋で購入した、かつてトレイナが考案して魔王軍の兵士たちも所持していたという、携帯食だ。

怪しいものではないと、俺は試しに齧ってみた。

実は俺もこれが初だったりするわけだが……

「……ん、す、少し口の中がパサパサするな……」

『んな!? き、貴様、何を文句言っておる! これは相当試行錯誤して味にも工夫をだなぁ――――』

「あっ、でも、ふわふわして……味がしみ込んでくる……うん、十分うまい」

『そ……そうであろう。ちなみに、パサパサしているのは水分を抑えているからだ。水分が少ないので、軽くて携帯に便利ということなのだ』

あっ、一瞬機嫌悪くなるかと思ったトレイナだけど、嬉しそうにウンウンと頷いている。

つか、最近の俺は女だったり、ちびっ子たちだったり、師匠だったり色々と気を遣うな。

「……なにを……あなた……何者だい? 何の目的でボクに近づく?」

「そう身構えるなって。俺はお前に取り入って利益を得ようと思うほど、金に困っちゃいねぇ」

「…………」

「っていうか、人に二度も聞くのはバカだのなんだの言ってたけど、そういうのはお前も二回質問しないようになってから言えよ」

「む……」

「言っただろ? 俺はお前に興味持ったっていうか、ちょっと話をしてみてーと思ったんだ」

俺が渡したカロリーフレンドの袋を剥かずに、変わらず警戒心むき出しのスレイヤ。

「ボクは誰とも群れる気はない」

「はは、そうかい。……で、お前は昼間のあのでっかいイカをどうやって倒したんだ? 魔法か?」

「自分の手の内を晒すようなことをするわけないだろう? そもそも、ボクはあなたとお話する気なんてない」

う~む……こっちはエスピや師匠と違って、ガードが堅いな。

「とにかく、この携帯食とやらは返すよ」

「いいって、それはお前にやったというか、侘びの品なんだからよ。つーか、お前も腹減ってんだろ?」

「減っていない! それに、いらない!」

すると、スレイヤがカロリーフレンドを返そうとしてきた。

俺としては別に返してもらわなくてもいいが、スレイヤは頑なだ。

そこまで拒否するか?

いや、でも俺もガキの頃にサディスから「知らない人からお菓子とかもらってはいけません。誘拐されます」とか言われたし、怪しい奴からは受け取れねえってことなのかな?

「とにかく、いらない! だから……返す!」

「おっ……」

そのとき、目の前に居たスレイヤの姿が揺れた。

素早く飛んで、俺の背後に回り込もうとしているんだろう。さっき、後ろを取られたのが結構ムカついたのかな?

だけど……

「だから……返さなくていいって」

「っ……っ……!」

俺は俺の後ろに着地しようとしたスレイヤの更に後ろに回り込んでやった。

俺に後ろを取られたまま、何もない空間に俺に返そうとしていたカロリーフレンドを突き出した態勢のまま、スレイヤは固まった。

「……か……返すッ!」

「くはは、だからいらねえって」

「あっ……」

悔しそうにしながら、振り返ってムキになって俺に強引にカロリーフレンドを突き付けようとしてくるスレイヤ。

だが、その手はまた空を切った。

「くははは、残念でした♪」

「うっ、あ、あなたは……一体……」

俺に触れることもできないスレイヤは目を大きく見開いて俺を睨みつけてきたが、その目はもう俺に対して「何も興味がない」と無関心だったものとは違っている。

その目は明らかに「お前は何者だ?」と問いかけている。俺を何者か気になっている。ある意味、興味を持ってくれたと思ってもいいのかな?

そして同時に俺はもうちょっとこれで遊んでみようかなとも思った。

「なぁ、スレイヤ……悔しければ……俺を捕まえて、そいつを俺に返してみたらどうだ?」

「……なにを……」

俺に触れることが出来なかったスレイヤに対して、俺を捕まえてみろと挑発……それはまさに……

「おや? ハンターなのに、人間は捕まえられないか?」

「な、なに!?」

ハンティング……というより、鬼ごっこ。

そして、誰にも興味を持たない、関わる気も無いという態度だったはずのスレイヤも、この挑発には……

「ふ、ふん……どこの誰かは知らないけど……ちょっと腕が立つぐらいでボクを甘く見ているのかい? なら……すぐに捕まえて思い知らせてやる! ボクをなめるな!!」

簡単に乗ってくれた。

『ふはははは、やはりガキだな。簡単な挑発に乗るとは、チョロいではないか。なぁ? 童よ』

『あんたが言うか?! はい、ブーメラ―――――』

『あ゛?』

『いや、何でもねぇ……』

『まったく……しかし……子供の鬼ごっことはいえ、かなりスリリングになるから気を付けることだな……』

『ああ、分かってるって。こいつの力も不明だしな』

話をしに来て、スレイヤのことを少し知ろうと思ったんだが……これはある意味で……というか、これの方がむしろいいのかもしれない。

コジロウの時と同じだ。

「くははははは、ほら、捕まえてごらんなさいってな!」

「待て、逃がさない!」

無理やり話をするより、この方がもっと互いを知れるような気がする。

そんなことを思いながら、俺はマストから飛び降りて、甲板の上を走って逃げ、その後をスレイヤが追いかけてきた。