軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十四話 苦行ではない

俺は再び幻想魔法・ヴイアールの中に居た。

「では、これより先日見せた魔法技術の極意を教える……前の準備をするぞ」

相変わらずのラダートレーニングやファントムスパーリングで俺の体もかなりキテはいるが、それでも数日続けてやれば徐々に体も馴染もうと、トレーニングに慣れていっている気がする。

初日はラダーとファントムスパーリングだけしかできなかったが、今日は禁呪鍛錬も行えるようになった。

そして今は、ヴイアールを使っての禁呪鍛錬前のトレイナの授業のようなものが始まった。

「まず、基礎的な知識として……魔法は、空気中に漂う魔力を、肉体の魔力の出入り口『 魔穴(まけつ) 』を通じて『体内の魔力貯蔵タンク』に取り入れ、留め、必要に応じて魔穴を通じて魔力を放出する。これは分るな?」

禁呪を指導する前に、トレイナは俺の知識を確認するかのように、まずは魔法の基礎知識について語り始めた。

俺にも今更な内容ではあるが、俺は素直に頷いて聞いていた。

「一応アカデミー生だぞ? んなもん、ガキでも分るさ」

「うむ。なら、『魔力貯蔵タンクの容量=魔力容量』というのも分るだろう。しかし、『魔力容量=魔法の威力』は『成り立たない』ということも分るな」

「ああ。そこは、『魔力の放出量+魔法の練度=魔法の威力』っていう公式だろ?」

「そうだ。つまり、魔力容量に関わらず、威力のある魔法を放つことは、練度、そして『魔力放出量』さえ上げればできるということだ。その分、すぐにタンクが空になりやすくなるが、それはさておき……『魔力放出量を上げる』にはどうしたらいい?」

「そりゃ、……正確には、『全身の魔穴をどれだけ開放できるか』……だろ?」

「そうだ。袋に空気を入れて、一つだけ小さな穴を開けて空気を少し出すよりも、沢山の穴を開けたほうが多くの空気が出る。つまり、『魔力放出量=開放される魔穴の数』ということになる」

それはアカデミーでも習う魔法理論の基礎。そこまでは俺も理解できるので頷いた。

そして……

「では、貴様たち人間は開放の有無に関わらず、『全身の魔穴の数』はどれぐらいあるか分るか?」

その質問には正確には答えられない。というか、それはまだ現代の魔法医学でも明らかになってないからだ。

ただ、開放されている魔穴の数を平均すると……

「それは分からねえ。ただ、『開放されているもの』なら、常人で10。アカデミー生の平均は20で、俺は健康診断では30だった……フーは60だったな」

「まぁ、そんなところだろう」

ただ、魔力容量が多いだけでは強い魔法は放てない。

どれだけ開放している魔穴があるかによって、魔法の威力は左右される。

「魔法の練度でも威力の向上はできるが、それには限界がある。生命は自身の魔穴から放出できる魔力放出量以上の魔法を放つことは出来ない。そして、開放されている魔穴の数は人それぞれ……多ければ多いほど才能があるということになり、魔導士の家系などはそれが顕著だ」

「わーってるよ……」

「そして、魔力タンクの容量も人それぞれ。つまり、開放されている魔穴と魔力タンク容量……すなわち、魔力放出量及び魔力容量の両方が生まれながらに多い者……それは才能……つまり、天才と呼ぶのだ」

そう、それは覆せないことである。

そして、俺の魔穴の数はフーの半分。

姫でも50はあった。

「だがしかし、世の中には『魔力容量は多くても、魔力放出量が少ない者』、『魔力容量は少なくても、魔力放出量が多い者』という、少しバランスの悪い者も居る」

「ほぅ……」

「一旦、練度のことは無視して……体内の魔力容量を数値化し、魔穴の数を魔力放出量の数値としよう。その場合、例としてこういうのがある」

そして、話しはまだ続き、トレイナはそこからは想像でこの幻想空間に黒板を作り出し、チョークで何かを書き出した。

やべえ、ほんとに先生っぽいぞ?

●例1

・魔力容量:100

・魔力放出量:20

・使える魔法:ビットファイヤ(消費魔力量20)

●例2

・魔力容量:50

・魔力放出量:40

・使える魔法:ビットファイヤ(消費魔力量20)、キロファイヤ(消費魔力量30)

「この例の場合、例1の方が例2より魔力容量も多く、消費20の魔法を5回も放つことが出来る。一方で例2は魔力容量が例1の半分しかない。しかし、たった一回だけなら、例1より威力のある魔法を放てるということだ」

この説明も俺は分かっている。つまり、魔力を大量に持っているからといって、それを放出する力が無ければ意味が無い。

「さて、ここで貴様と先ほどのフーという小僧をザックリ数値化してみると……こうなる」

●フー

・魔力容量:200

・魔力放出量:60

・使える魔法:ビット級、キロ級、メガ級

●童

・魔力容量:100

・魔力放出量:30

・使える魔法:ビット級、キロ級

「と、まあ、こんな感じだ……」

まあ、そんな感じだろうな……と普通に納得しそうになったが、ちょっと待て!

「待てコラ! それじゃあ、放出量も魔力容量も負けてるから、どうやっても勝てねーってことだろうが!」

「そういうことだ。魔法合戦になれば、まず間違いなく今の貴様では勝てない」

「ッ……」

「今の自分では勝てない。まずはこの現実としっかりと向き合った上で、余の話の続きを聞け」

まずは俺の現在地を把握させる。

とはいっても、こうして数字にされると差がハッキリとしてつらいもんがあるが、これも強くなるために必要なことだと、俺に現実を突きつける。

その上で……

「魔力容量と魔力放出量に関しては、ある程度の訓練で増やすことは出来るが、短時間で両方を劇的に増やすことはできない。だが、余なら……『魔力放出量のみ』ということであれば、貴様を二ヵ月後にはこうすることができる」

●童(二ヵ月後)

・魔力容量:100

・魔力放出量:90

・使える魔法:ビット級、キロ級、メガ級、ギガ級

「どうだ?」

「ッ!?」

魔力の放出量が今の3倍に!? 一回こっきりだが、フーより強い魔法を放てる!?

てか、ギガ級ってほんとになに!?

「ば、ばかな、んなもんどうやって?! 魔力放出量もある程度の練度で増やせるが、魔力容量と同じで才能に寄るところが大きいって、さっきあんたも言ってただろうが!」

「できるさ。『魔力放出量=開放されている魔穴の数』という公式に乗っ取り、『開放される魔穴の数を増やす』という裏技がな」

開放される魔穴の数を増やす。確かにそれならば、理論的に魔力放出量を上げることはできる。

「開放されている魔穴の数は普通なら数十程度だが、人体の『閉じた状態の魔穴』の数は実際には数百以上存在する。本来は長い時間の鍛錬で少しずつ開放させていくものだが……余が協力すれば、それを強制的に短時間で開かせることが可能」

「そ、そんなことが……」

しかし、それは簡単ではないはずだ。

「……2ヶ月でできるのか?」

普通は長年の訓練。そしてまた才能も合わさって開放していくものである。

なのに、それを2ヶ月で?

「可能だ。強引に、閉じている魔穴を無理やりこじ開けるのだ」

「マジか……」

「余が居る今ならば可能」

可能と断言するトレイナの言葉に頼もしさすら感じた。

あの大魔王が「できる」ということは、本当にできるということなんだろう。

そして……

「で、童よ。初日に買わせた、『鍼』をここで使う」

「あ……そ、それってまさか……」

「余の全知全能の眼ならば……貴様の全身の閉じられている魔穴の位置も正確に把握できる。その閉じている魔穴に寸分の狂いも無く……鍼を突き刺していけ」

「ッッ!!??」

「そこに魔力を流し、閉じている魔穴を刺激し、無理やり開放させる。それが一番効果的だ」

提示された方法は体に鍼を突き刺していけというものだった。

なんか……自分の体に鍼を刺すとか……

「心せよ。貴様ら人間も東洋の方では鍼を使った医療などもある……だが……閉じている魔穴を無理やりこじ開けるのは、治療ではなく……改造だ」

「……痛いのか?」

「苦労なくして何かを得られると思うか? ましてや、努力をしている天才たちにな」

この程度、歯を食いしばって耐えろと言われているようだった。

「あまりの激痛ゆえ、一日1~2穴の開放が限界。しかし、これを一か月繰り返せば、理論上はこの数値通りに伸ばせるはずだ」

「だから! ……い、痛いのか?」

「まぁ、たとえば……爪と指の間に無理やり―――」

「聞きたくなあああああい!」

自分の体に鍼を刺す。しかも、かなり痛いと思われる。

「くそ、マジか……よ」

「しかし、最低限それぐらいの魔力放出量がなければ、余が見せたデビルスパイラルブレイクを扱ったような技術は使えない」

「……アレか……」

「そう、体内のタンクにある魔力を肉体に留めて自在にコントロールする技術……『大魔超進化・ブレイクスルー』はな」

痛いのか……しかし、耐えれば俺もあんなことができるように……

「か~、痛いのか……あ~……でもな~……」

「これもリスクの一つだと思え。近道といえども、安易に力を得られると思うな。その分、色濃い苦痛を超えなければならない。しかし、だからこそ、その苦痛に耐えたという事実が、後の自分を支える背骨となるのだ」

そう、分かっている。

短時間で力を得るには、当然相応の対価は必要ってことだ。

とはいえ、その苦痛は今日だけで終わるわけではない。

話では、一か月ぶっ通しでやり続けるわけか……

一か月か……

だが……

――えっと……あれ? ごめん……あんまり大したこと無くて、ガッカリしちゃったかな?

あの、フーの姿が頭に過ぎり……それが何度も頭の中で繰り返され……

――あるええ? ごめんね~、あんまり大したことなくて驚いちゃった~?

段々少しずつ改変され……

――へへ~ん、君ら雑魚は僕の魔法の凄さを見て驚くといいさ! さ~て、今日はどの女と遊ぼうかな~♪

「いや、そこまで大げさではなかっただろう。もはや原型を留めてないぞ?」

とにかく、あのベビーフェイスで天然ぶってキャーキャー言われているあいつがムカつく。

ちょっと凹ましてやりてえしな。

「やってやらあああああああ!」

「では、魔法を解いて起きろ! 余が指さして指示する」

「ぬおおおおおおおおおおおっ!」

だからこそ、俺は歯を食いしばって耐えることを決意し、ヴイアールを解除して再び現実へ。

『では、よいな? こことここ。ブスっといけ』

「……やっぱ、コエーな……」

『いいから、少しでもいい。先っぽだけ……少しずつ……』

「少しずつ……か……」

『わっ!!』

「ひぐっ! ……あっ……」

鍼を手に持って恐る恐る指示された箇所に鍼を当てた瞬間、後ろからトレイナが俺を脅かして、俺はビックリして根元まで……

「がぐぎゃぐがああああああああああああああああああああああ!」

突如弾ける肉体。

爆発したような内臓。

灼けるように熱い全身。

全神経が剥き出しになる感覚。

脈打つ血の流れが心臓の音のようにバクバクしている気がする。

先端の歪な刃物で傷口をグリグリと抉る?

眼球や股間にネズミ返しとなった棘を突き刺されているような感覚?

どれもが経験したことない痛みなのに、それぐらい痛いと言えるぐらいの激痛が駆け巡る。

「が、ぐぎゃが、ががぐあぎゃぐあああああああ!?」

口に手ぬぐいを猿轡のように噛ませて必死に悲鳴を抑えようとも、汗が、涙が、痛みが一向に収まらねぇ。

「ふぎーーー、ふぐううーー! ぐ、ぐうううううふふふふふふふう!!!!」

地獄……これは、地獄だ。

苦行だ!

『言っておくが、この程度は努力と呼ばなければ、苦行とも呼ばんぞ? 強くなりたい男が、強くなるために味わう苦痛を苦行とは呼ばん。ならば、これは必修科目のようなものと思って乗り越えろ! 強くなった自分を思い描き、そこへ辿り着くための対価と思え!』

そして俺は、結局……

「坊ちゃま? 変な声が聞こえますが何をなさっ……坊ちゃま!?」

庭で俺が絶叫している所をサディスが駆けつけるまで、鍼をぶッ刺してのたうち回った。