軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十三話 気持ちを上げる

優勝宣言の放課後

俺は久々に再会した幼馴染と茶でも……なんてことは一切せず、真っ先に屋敷へ戻って特訓を開始した。

何回殺されたかも忘れてしまったファントムスパーリングも、段々と抵抗できる時間は増えたものの、相変わらず殺される。

『左ジャブを打ってすぐに手を引き戻してガードしろ。打つよりも、戻して構えることを意識しろ! 肩に力が入りすぎだ。脱力しろ。相手の足、目線、肩の筋肉から相手の動きを予測しろ。見てから反応するようなやり方では、命がいくつあっても足りないぞ!』

「くそっ……」

『疲れて手打ちになっているぞ! 足が止まっている! 足は常に軽快に動かせ。縦横無尽なステップワーク、相手を翻弄するような究極のフットワーク……『マジカルフットワーク』は、疲れている時にこそ出せなければ意味がないぞ!』

「……だせえ……」

『常に間合いを意識しろ、貴様に蹴りはまだ早い! 素早いステップインで懐に入り込み、ボディ、アッパー、フック……状況に応じて有効な拳を選択しろ!』

減速加速を繰り返したステップでトレイナを翻弄しようにも、レベルが違いすぎて翻弄できねえ。

だが、それでも「一発でも入れてやる」、「一発でも掠らせてやる」、「一秒でも長く生き延びてやる」、と逃げることはせずに俺は、死んでも構わないと身を乗り出す。

我武者羅に。

しかし、頭はクールに。

結果、俺は命をすり減らすようなギリギリの攻防にも踏み込めるようにはなってきていた。

「ぜえ、ぜえ……疲れた……」

『いきなり腰を下ろすな。クールダウンしろ』

度重なるスパーリングを終えての小休止。

結局、一撃掠らせることもできず、目の色を変えさせることもできなかった。

かなり追い込んで俺もやっているが、本当に強くなっているかは分からない。

『安心しろ。貴様は自分が想像している以上に伸びる』

「ッ……」

俺の心を完全に共有しているからこそ、トレイナはハッキリとそう告げた。

『貴様の幼馴染は火竜を倒したぐらいで強者ぶっているが、所詮は地上世界の野生の竜。余はかつて史上最強の竜と呼ばれた、『冥獄竜王』と喧嘩して勝ったこともある。その余が言っているので、間違いない』

えっ!? 冥獄竜王って本当に居たのか? あれって、御伽噺の中に出てくる空想上の生物だと思っていたのに……

『とはいえ……少しずつこのファントムスパーリングも内容を変えていったほうがよいだろうがな』

「えっ!?」

これまで散々俺をぶっ殺してきたトレイナからの意外な言葉。

急にどういう風の吹き回しだ? やっぱ、俺が弱すぎて自分とやっても訓練にならないとか……

『このままでは、貴様は『相手を倒せるイメージ』を身につけることができない。実力が上の相手とばかり戦っていても、負けて殺されるイメージばかりしか身につかず、このままでは自分自身に自信を持てず、攻撃よりも逃げ回ることばかりを覚えるようになるだろう』

今の俺はただ闇雲に、我武者羅に立ち向かえているが、もう少ししたらそれもできなくなると予想しての指導。

『それは精神的なものではあるが、本能に染みつくと厄介だ。ここぞという場面で一歩が踏み込めず、早々に危険を見切って引いてしまうことに繋がりかねんからな』

先を見越しての説明に、俺は毎度かなり感心させられる。

「……あんた……指導者の経験あんのか?」

『いや。……ふん、なんだ? 余があまりにも優れた指導者であり、驚いているか? 子育てに手こずっているヒイロとは、やはりそこが違うのだ。勇者とは違うのだよ、勇者とは』

胸張ってドヤ顔するトレイナだが、俺は普通に頷きそうになった。

いくら全知全能とはいえ、ここまでできるものなのかと。

そして、こいつのすごいところは知識や理論だけではない……それは……

「なら、相手を倒すイメージを培うなら、アカデミーの模擬戦でテキトーな奴に相手してもらうさ」

『それはならん!』

「……は? なんで?」

『やれやれ、貴様は本当につまらんな。よいか? 貴様はギリギリまで……あえて言うなら勇者の子達と戦うまでは、体術を使うようになったことは伏せておくのだ』

「え? なんでだよ……? ひょっとして対策立てられるとか……」

『そうではない! よいか? 想像してみろ、こんなシチュエーションを……』

そう言って、トレイナが俺にあるシチュエーションを説明する。

――さあ、次は勇者の子同士の対決! 勇者ヒイロの息子・アース。そして、お待たせしました! その剣技は既に英雄と称され、次代を引っ張る英雄候補の筆頭! 剣聖後継者リヴァルの登場です!

――キャー、リヴァル様、がんばってー!

――うむ、やはり我の婚約者はリヴァルしかおらんな!

――まぁ、坊ちゃまごときではどうにもならないでしょうね

――やっぱ、俺らの息子もリヴァルみたいに優秀だったらな~

――アース、お前では俺には勝てん。瞬殺させてもらうぞ?

『こういう展開になる』

「ちょっ、かなりえげつないことになってるぞ!?」

『そして……』

――おっと、アースは武器を何も持っていないぞ? これは降参の意思表示か?

――くだらぬ。おい、リヴァルよ、そのハズレ2世をさっさと葬って、我とイチャイチャするぞ!

――私も坊ちゃまよりリヴァル様に仕えたかったですね

――ちっ、落ちこぼれ馬鹿息子

――容赦はせん、アース。そして、俺と姫様のイチャイチャを見ていろ。サディスも俺が側室でもらってやる!

「ごわあああああ、やめろおおおおおおおおっ! ごああああ、リヴァルの野郎、いや、この世のすべてをぶち殺してやる!」

『黙って聞け! そこで、こうだ! 貴様はニヤリとほくそ笑む』

――ニヤリ……ふぅ、……止まって見えるぜ……

――な、なに? アース、何だその動きは! お、俺の剣が当たらないッ!?

――その端正な顔をオークみたいにしてやるぜ! 大魔コークスクリューブロー!

――ぶへえええええええ!?

「……ほう……」

『そして、会場中が呆然し……少しの間を置いて、帝国が驚愕する!』

――アースすげえええええええええええええええええ!!

『どうだ? 魔法剣士をやめ、父や母と何も関係のない力を奮って、『勇者の子』ではなく『アース・ラガン』の戦いとその力を示すには……これがいいのではないか?』

そう、これだ。こいつのすごいところは知識や理論だけではなく、俺の気持ちをどこまでも上げてくれること!

「ワクワクするじゃねーか……なあ! トレイナッ!」

『だろう?』

ゾクゾクが止まらねえ。これまで俺にガッカリしてきた全ての奴らに見せ付けてやる。

トレイナが「どうだ?」とニヤリとして向けてくる笑みに、俺も溢れ出る高揚感を抑えきれずに笑っちまった。

『というわけで、貴様のスパーリングパートナーは余が『想像』して作り出してやろう。『ヴイアール』でな。ファントムスパーリングの後は、夢の中での『ドリームスパーリング』だ。ゴブリンや獣などを用意してやる!』

「ああ。どんどんかかって来やがれ! 野郎をぶちのめすために!」

やってやる。全員に見せ付けてやる! 俺の力を! 俺自身を!

そのためなら、スケコマシのリヴァルもクソ姫もブチ殺す!

『いや、さっきのはちょっと大げさにした例で……いや、構わんか。闘争に必要な殺意も身についたようだしな』

そうだ! ぶち殺してやる!

『では、今後スパーリングは色々とバリエーションを持たせることとして、今日は次のトレーニング……禁呪に入る』

「お、おお……それってこの間の……」

『そうだ。ヴイアールで見せた余の魔法技術……アレを貴様にできるようにしてやろう。これにはかなりの痛みが伴うだろうが……』

「おう、痛み? んなもん、屁でもねえぜ!」

『その意気だ。では……』

勝ちたい。いや、勝つんだ。そのためなら多少の痛みも……

『初日に貴様に買わせた、鍼があっただろう? アレを用意しろ。アレを後で体に刺す』

「……………ふぇ?」

い、痛みなんて……痛み……なんて……へでも……