軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百三十四話 出し抜く

「アマエ……」

俺を兄と呼んで慕ってくれたアマエ。泣かせたのは誰だ?

決まっている。俺だ。

「おにーちゃんの……うそつきぃ……ぐす……うそつき……」

優勝したらいっぱい遊んでやる。

ヤミディレを助けて、皆と一緒に帰ってくる。

あいつとは色んな約束をして、そのうえであいつはいつも、あの小さな体で精一杯の声を出し、体を動かして……

――フレーフレー、おにーちゃん! フレーフレーフレーガーンーバー!

俺を信じて応援してくれていたあいつを、俺が泣かせた。

なぜ、俺はあいつを思いやらなかった?

天空世界で旅立つ前に、もうちょっとあいつのことを思いやっていれば……誰よりも純真無垢なアマエを……あんなに悲しませるようなことはしなかったのに。

そして、あいつのあの顔を見てると、どうしても昔を思い出す。

俺も幼少期はあんな風に……

――いや~、ワリィなアース。今日のピアノの発表会を見に行けなくなってよ。どうしても急な仕事が入ってな……

――うわぁん、ごめんね、アース! お弁当作ってあげるはずだったけど、どうしても時間が無くて……サディスにお願いしとくから! ほんとごめんね!

二人は忙しい人だった。

――べ、別にいーよ。父さんも母さんも忙しいし……別に、寂しくなんかねーし! 母さんの弁当よりサディスの方が料理うまいし! そっちの方が好きだから、ぜ、全然悲しくなんかないんだからな!

――ああ、なんて優しい奴なんだ、アース! 今度休みの日に父ちゃんと買い物行くぞ! 好きなオモチャ何でも買ってやるから!

――母さん涙が出ちゃうわ! この埋め合わせは必ずするから! 母さんも何でも買っちゃう買っちゃう!

だから、スケジュールで最初は空いていたとしても、急な予定変更は珍しくなかった。

二人は本当に申し訳なさそうな顔して、何度も謝って俺を抱きしめた。

恥ずかしがって俺が逃げようとしても、しばらく離さずもみくちゃにした。

そして、二人はその穴埋めとして好きなオモチャを約束通り買ってくれた。

二人はサディスにお金だけ渡して、俺はサディスと二人で買いに行った……

あのとき、いや、それまでもそういうことは何度もあった。

ただ、その頃の俺はまだアカデミーに居た頃ほど捻くれてもいなかったから、幼少期は聞き分けの良い子供でいようとした。

でも、本当は……

「ぐしゅ、お、にーちゃん……だいしんかんさまぁ……めがみさまぁ……」

あんな風に俺も……

「……俺は……」

『童……』

「くそ、くそぉ! あのクソ親父どもが……どうして……この期に及んで……俺に……ブーメランさせやがる……」

あのとき、聞き分けの無い子供でいられたならば叫びたかった俺の本音を、今、アマエは叫んだ。

そして、それは俺に向けられている。

俺は、あの涙と叫びを振り切って……行けるのか? いや、行ってもいいのか?

『童……何かバカなことをする前に、一つだけ言っておこう』

『ッ!?』

そのとき、俺が心の中で迷いが生まれた瞬間、トレイナは後ろの親父たちを眺めながら俺に告げる。

『貴様は強くなったが……流石に貴様『一人』であの二人を出し抜くのは……不可能だ。たとえ、余の指示があったとしても、ヤミディレとパリピと同等……いや、それ以上……二人を相手に何かをやるのは無理だ。そう、貴様『一人』だけ……ではな……』

トレイナは常に冷静に現状を的確に分析する。

だから、トレイナが言うんだから、俺がこの後何をしようとしても、逃げる以外の行動を取ったら親父と母さんに捕まると言っているんだ。

そう、『俺一人』の力では無理なんだ。

つまり、もし『何かバカなこと』をするのなら……でも……

「ちっ……ヒイロ……マアム……おのれぇ。紋章眼を封じられたことで早速これほど歯がゆくなるとはな……」

紋章眼や魔力を封じられている今のヤミディレは戦力にカウントできない。

そもそも、これはヤミディレを逃がすための行動でもあるんだ。

そのヤミディレがここで親父たちに捕まったら元も子もねえ。

だが、そうなると……

『……これは……俺の家庭の事情だ……でもアマエは……しかし……』

そう、つまりトレイナはもし何かをやるのなら、クロンを巻き込むしかないと俺に言っているんだ。

すると、そんな俺に……

『このままあの小娘の涙や叫びに堪えて真っすぐ進むのは、間違っていない。そもそもの目的を達成するためにはな。たとえ、あの小娘との約束を違えて嘘つき呼ばわりされても、それはあくまであの小娘の気持ちだけの話だ……ただ……』

『……ただ?』

『せめて……別れの挨拶と謝罪だけでも……というのも間違っていないと余は思う。それに……たとえ約束を破ろうと、貴様の両親は一応貴様には謝ってきたのだろう? それに対し、貴様は約束を破ることに謝罪もせずにこのまま逃げるのであれば……それ以下になる……さぁ、どうする?』

あくまで決めるのは俺だとしたうえで、そんなの考えるまでもない選択を俺に問うトレイナ。

おかげで俺自身の答えは見えた。

だけど……

『クロンは巻き込めねえ……俺がここで止まって……アマエに話をする』

『……ふむ……ただし、そうなると貴様はヒイロとマアムに連れ戻されるだろうな……それとも……ヒイロとマアムともちゃんと腹を割って話し合うか?』

『それは嫌だ』

『なぜだ?』

『俺の気持ちの問題だ』

『ふん、やれやれ……』

『まだ、ガキの俺にはあの二人に大人な対応を……なんてできねーよ。でも……アマエに何も言わずにこのまま逃げる……そんな男にもなりたくねぇ……結果的に泣かすことになろうとも……言うべきことは言わねえと!』

まずは、親父と母さんに「黙ってろ」と言って、アマエと二人で話をさせてもらう。

許されないかもしれないし、もっと泣かれるかもしれないが、ちゃんと謝って、いつかクロンとヤミディレもまた会えるように……しかし、ハードル高いな……その約束まで違えたら本当に親父たちと一緒になるな……。

んで、仮にうまく話がいったとしても、そこから「じゃあ、俺はもう行くぜ! 親父たちと話? 何もねえよ」と言ってそのまままた逃げる。

できるかな? これに関しては自信がない。

でも、やるしかない。

流石にこの状況でクロンを巻き込むわけには……

「アース!」

「っ、あ、お? クロン?」

「アマエを連れているあのお二人は、アースのお父さんとお母さんのようですが……私たちが捕まったらダメなのですよね?」

「え? あ、ああ、まぁ……」

「本当ならアースの御両親にはちゃんと挨拶をした方が良いかと思いますし、アースが御両親と仲が悪い事情も教えて欲しい気もしますが、今はそういう状況でもないみたいですので、ちょっとそれは抜きにして教えてください!」

と、俺が覚悟を決めようとしたとき、クロンが親父たちに振り返りながら尋ねて来た。

「私たちを捕まえないで、そのうえでアマエとお別れをさせてくださいとお願いをすることはできますか?」

「多分……無理……」

「クロン様! それは流石に無理でしょう。何よりもあの二人が……私と……そして、あなた様を見逃すはずがない」

クロンの問いには俺もヤミディレも首を横に振った。

そう、それができれば苦労はない。

「そもそも、サディスやフィアンセイの話をゆっくり聞かずに飛んできた脳筋コンビだ……それに百歩譲って話を聞いてくれたとしても……今の二人の立場で見逃してくれるとも思えねーしな」

だから俺も……

「なら、こうしましょう。あのお二人からアマエを奪い取ってから逃げて、そして逃げ切った後でゆっくりとアマエと別れの挨拶と……ごめんなさいをしましょう」

「「……は?」」

「王子さん、その後はアマエをちゃんとカクレテールに送ってあげてくださいね?」

「な、あ、えっと……?」

『ほほぅ……そうきたか』

クロンのまさかの提案に俺もヤミディレも王子も呆けちまった。

唯一トレイナだけは、どこか嬉しそうにニヤニヤしている。

「いや、クロン? 何を……それに、二人からアマエをぶん取って逃げるって……」

「はい、そうです。アースの御両親ですから本気で戦うわけにもいきませんし、それにあのお二人はとてもお強いのでしょう?」

「そ、そりゃもう、世界最強かも……」

「でしたら、戦わず、あの二人を倒すのではなく、アマエだけを私たちの所へ。そして逃げましょう」

「は、はぁ?」

「ヤミディレは動けないかもですが、私とアースが力を合わせたら、それぐらいならできませんか?」

俺がクロンを巻き込むわけにはいかないと思っていたというのに、なんとクロンから自らを巻き込む提案をしてきやがった。

でも、それはあまりにも勝率が……

「クロン。でも、もしこれで捕まっちまったら……」

「分かっています。私はこれからもヤミディレと一緒に居たい。そのためにカクレテールから出て来たのです。でも……あの涙を無視して、自分とヤミディレだけ逃げられればそれでいいだなんて、私は思いません! たとえアマエと一緒に暮らせなくなり、結局またアマエを泣かせてしまうことになったとしても、その涙を正面から拭ってあげた上で、私はお別れをしたいのです」

何もかもが、いらない心配だった。

「ヤミディレ……あなたには申し訳ありませんが、でも……」

「クロン様……しかし……ここでクロン様が暁光眼の所持者だとバレると、奴らはより一層……」

「その時はその時です!」

「あぁ……クロン様……」

ヤミディレは不服かもしれないが、それでも今のヤミディレでは力ずくで止めることもできない。

クロンの言葉は本当にメチャクチャでご都合主義でワガママで……ヤミディレはほんとこれからも苦労するだろうな……だけど……

「ふっ、あの冥獄竜王すら唸らせた俺たちだぞ? あの三十路のロートル勇者共から、アマエだけを取り上げるなんてワケねーさ!」

「アース!」

俺は、「こいつ、いいな」と思った。

たぶんこいつ、子供が出来たらスゲー大切にする親になりそうだな……

「でも、攻撃は無しだぞ? あの二人がどうのこうのじゃねえ。ま、つか俺らの攻撃でどうなる相手でもねえが……ただ……アマエが怖がるからな」

「もちろんです! 二人で力を合わせてガンバです!」

ハッキリ言って、俺とクロン二人だけでもどうかとも思うが……でも……こいつが自分の意思でやると言ってるんだから、そこに俺が気を使うもんじゃねぇ。

そして……

「おやおや、二人? 坊や。女神様。少しそれは寂しいんじゃないかな?」

「王子?!」

「事情はよく分からないけど……ヤミディレの代わりの眼は……僕が補おう」

王子もまた、俺とクロンに力を貸すと微笑んだ。

二つの魔眼にさらに……

「僕もいるのん! アマエちゃんを泣かせたままなんて許さないのん!」

冥獄竜王の血筋までだ。

そして当然……

『ふふふ、暁光眼と紋章眼の二つが揃った……何よりも、ヒイロとマアムはクロンと王子が魔眼を持っていることを知らん。これは良いアドバンテージだ。戦闘では勝てないだろうが……ちょっとあの二人を出し抜いてみようぞ。余も……あの二人には私怨があるからなァ!』

最も頼もしい奴が力を貸してくれる。

相手は俺の両親。目的は妹をあの二人からブン取ること。

『とはいえ、あまり細かい作戦は立てん。童も連戦で疲れてるだろうしな。だからシンプルに行く。童と王子が気を逸らし……クロンの暁光眼で奴らを引っかけろ! 一瞬だけならば奴らも隙ができる!』

なんだろう……不謹慎だし……アマエ泣いちゃってるけど……ちょっとだけワクワクしてきたかも。