軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百三十三話 うしょちゅき

言っちまった。でも、仕方ねーか。

だって俺は今、俺のために必死で追いかけてくる親父の悪気のない行動に、物凄い不快な気持ちになったからだ。

それに……思い出しちまったな……

――まっ、お前はじっくり伸びるタイプだ。焦らずガンバレ

言われたな、そんな言葉。

ハッキリ言って、あんなテキトーに言われた言葉ほど、俺をイラつかせたことはねえ。

「アース……お前……」

「アース、あんた……何を……」

俺の問いに呆けた様子の親父と母さん。

そんな二人に対し、俺は振り返らないまま、ネチネチと……

「もちろん、親父も努力はしてきたんだろ? 苦しい思いをしてきたんだろ? 戦争で何度も修羅場を潜り抜けてきたんだろ? 悲しいこともあって、きっとそういうのも乗り越えて来たんだろ? 俺は親父の昔をそこまで分かっているわけじゃねーが、きっとそうだったんだろうと思う。親父の人生が楽勝だったわけじゃねーってことは、俺だって分かってる。俺も六覇と戦い、その圧倒的な力を感じたからこそ、アレと戦ってきた親父たちが苦労してたってことぐらいな……でも……」

でも、俺は言う。

「でも、やっぱり親父には俺の気持ちは分からねえよ」

「アース!?」

「親父に俺の気持ちが分かるか? 自分に合ってない魔法剣の努力を十年以上も続けていた俺の気持ち……俺たちの息子だからとか、ジックリ伸びるとかテキトーなこと言われて放置されていた俺の日々が……俺の気持ちが……」

「「ッッ!!??」」

そして、俺の言葉にハッとした親父と母さんは慌てたように声を上げる。

でも……

「なっ?! アース……何を……自分に合ってないって……そんな……そんなこと……っ……アース……俺は……」

「……アース……」

「なかった! 俺には無かったんだよ! 普通のレベルよりはあったかもしれない素質も……勇者のサラブレッドとしては物足りないレベルしかな!」

それは、あの御前試合でリヴァルと戦ったときにブチまけたことでもあった。

そのことを二人も思い出しているんだろう。

言葉を詰まらせている。

――俺には親父と同じ才能はない。親父のモノマネをしても、一生追いつくことはできない

あの時の俺の言葉を聞いていたからこそ、二人も強く否定できないんだ。

だが、俺が言いたいのはそこじゃない。

「見て感じて本能のままに動いて、たいていのことは何でもできちまう親父は、できないやつが『なんでできないか?』が分からない。だから、俺の今までのことも分かってなかったんだ」

「あ……アース……」

トレイナは物事を理論や理屈で語る。

――貴様は魔法剣士……というよりは、ヒイロの戦闘スタイルは向いていない。あいつは、後先考えずに一点集中の特攻型。魔法という火力を最大限に剣に纏わせて相手を打ち滅ぼす。それは、恵まれた膂力、半端な反撃では怯まぬ耐久力、そして人の身でありながら所持する膨大な魔力量があって成立する。それは、貴様には当てはまらない

だからこそ……

――貴様はヒイロの息子ではあるが、膂力や内在されている魔力量などは父とは違う。貴様ではどれだけヒイロの真似をしても、ヒイロは超えられん

出会ってすぐに俺が魔法剣に向いていないことを見抜き、『なんで向いてないのか?』もちゃんと説明してくれた。

さらに、カクレテールでは俺が目指すべきスタイルを……

――貴様は数値で見る限り、短所がない。貴様が目指すのは……すべてを広く深く身に着ける……器用裕福というものだと!

――……は……ははは……

――そして……余は……特出した一芸を持つものは、『スペシャリスト』と呼び、全てに秀でた者を『ジェネラリスト』と呼ぶ

ちゃんと、順を追って説明し、俺を納得させてくれた。

「親父、それに母さんも、十年以上も俺の何を見ていた? 何で俺ができないか分からなかったんだろ? いや、そもそもそこまで俺のことを見ていなかったんだろ?」

「「ッッ!!??」」

「俺がフィアンセイやリヴァルに勝てなかったのは何でだ? 俺はジックリ伸びるタイプ? でもいつかはできる? 二人の子供だから? 勇者の子供だから? 気合いだ? 人を馬鹿にすんのも大概にしろ!」

そのとき、振り返らなくても二人がショックを受けているというのが分かった。

だって、二人は言葉を失ってるし、親父も加速の魔法の手が止まっているから。

「でも、もういいんだ。そのことは、もういいんだ。だってもう……俺はもう……報われたから……」

そう、天空世界でそれはもう報われた。

自分に合わない努力を十年間も続けてきた。だけど、その日々は無駄ではなかった。

あのパリピに勝利する決め手となった。

俺の十年間はあの瞬間に繋がっていた。

だから報われた。

トレイナが俺にそれを教えてくれた。

「そして……もう今の俺の傍には……俺を見てくれる……アース・ラガンを見てくれる人がいる」

そう、今の俺の傍らには、そんな俺を分かってくれる、俺を見てくれる、トレイナが居る。

そして、俺の努力が実った成果を見てくれた、俺を俺として認めてくれたクロンが居る。シノブだってそうだ。

だけど、俺のことを分かるはずのない親父に、このことを話したくない。

あーあ……ちょっとは俺も成長できたはずなのに……こんなこと言うつもりはなかったのに……親父や母さんに対してだけは、まだガキのように反発しちまうようだな。

でも、今はそれでいいと思っている。だから……

「王子、今のうちに……加速してくれ」

「わ、あ、ああ……分かった……」

俺は王子の肩を叩き、ショックを受けているだろう二人から距離を離すように告げた。

だけど……

「……そう……だ……アース。俺たちは……親失格だ……何も見てなかった……」

「分かってる……私たちが何も分かっていなかった……何を分かっていなかったのかすらも、分かっていなかった!」

二人の声がまた聞こえ……

「「だからこそ、今度こそ見失わない! 今度こそ間違えたくない!!」」

そのままショックで呆然としている間に俺を見失う……ってことはないか……

だけど、同じだ。

今、二人に捕まる気はねえ。

たとえなんと言われようとも、俺は振り返ることは……

「女神さま! 大神官さま! ……おにーちゃんっ!!」

「ッッ!!??」

その、あまりにも予想外の声に……親父や母さんの叫びに一切振り返らなかったはずの俺は……その小さくて、でも大きな叫びに振り返ってしまい……

「え? あら? っ、こ、この声は!?」

「な、なんだと? なぜ、あいつが……!」

この状況でもポワポワしていたはずのクロンも驚愕したように、そしてヤミディレも同じように驚いている。

そうだ。

まさか……あいつが……

「まってよー! なんで? なんでいくの? なんで、行っちゃうの!?」

ちっちゃなあいつが……親父と母さん二人の間からひょこっと顔を出し、そしてその両目は潤んで……ああ……くそ……しまった……俺は……何であいつのことを……!

「ッ、あ……あのクソ親父共がッ……ッ! よりにもよって……!」

自分のマヌケぶりを棚に上げて、つい親父たちに八つ当たりをしちまった。

でも、まさかここにあいつが居るなんて……

「あ、嗚呼……アース! アマエです! アマエが……」

「なぜ、アマエがヒイロたちと……?」

「くそ……状況がまるで……」

「坊や、あの可愛らしい少女は?」

「んあ? アマエちゃんなのーん!」

親父たちはカクレテールに上陸してたみたいだから、そこでアマエたちと出会って、んで親父たちが俺を追いかけるときに「アマエも!」みたいな形で飛び乗ったか?

あのクソバカ親父のことだから、ノリで「よっしゃ、来い!」みたいなことを言ったかもしれねえ。

とはいえ、俺もあいつには何も言わずにクロンとヤミディレを連れてどこかへ行こうとしていたから……そんな俺たちの帰りを待っていたアマエを裏切っちまったのは……俺の責任……

「アース、どうするのです? アマエが……アマエが……」

クロンもアタフタしている。

そりゃそうだ。クロンもアマエのことは可愛がっていた。

アマエもクロンには懐いていた。

そんなアマエが……

「まってよ~!!」

必死に、手を伸ばして俺たちを……後ろ髪を引かれるのは当たり前だ……俺だってそうだよ、クソ!

でも、だけど……今は……

「いつか……また必ず……だから、今は……今は……行ってくれ、王子」

今は、その涙で止まるわけにはいかねえ。

「アース! でも、そんなの……これでは……」

「……仕方あるまい。クロン様、やはり今はヒイロたちに捕まるわけには……」

「いいんだね? 坊や」

「んあ? ねえ、行っちゃうのん!? アマエちゃん泣いてるのん! ねえ!」

だから……ゴメン……アマエ……

「うぅ……あ……おにー……ちゃん……」

でも……いつか必ず―――

「あ……うぅ……しょ……しょつき……うしょちゅき!!」

―――――ッ!!??

「うしょつき、うしょちゅき、うそちゅき……うそつきーーーーーー!」

その声に引っ張られ、俺たちがもう一度振り返ったら……

「帰ってくるって言った! いっぱい遊ぶって言った! 言った! 言ったの! 言ったー! なのに……なのにぃ……うしょちゅきぃぃぃ!」

嗚呼、くそ……そういえば……俺ももっと小さいころ……あんな風に親父と母さんに――――