軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百三十五話 揺さぶり

俺だけじゃねえ。

クロンがいる。王子がいる。ヒルアがいる。一応ヤミディレも。

そして何よりも、トレイナがいる。

『ふふふふ、さぁ……虚仮にしてやろうではないか……なぁ? ヒイロ……マアム……』

これまでトレイナが俺のサポートしてくれた戦いでの相手は、ヤミディレやパリピ。

トレイナにとってはかつての仲間であり、部下だった奴らだ。

でも今回は違う。

俺の両親。それは、トレイナにとってはかつての天敵。

『指示を出す。しっかり聞け、童』

「おう。クロン。王子。耳を貸せ。ヤミディレも……」

「はい!」

「ああ」

「僕もいるのん!」

「ぬ……?」

トレイナを殺した相手……俺はその息子……本来なら俺は板挟みのような立場になるところなんだが、今のトレイナからは禍々しい復讐心や恨みなどを感じない。

どちらかというと、この状況に対して俺と同じように、どんなイタズラしてやろうかワクワクしてんじゃねえかなと思えるような笑みを浮かべている。

そして……

『よいか? 奴らを出し抜いて童女を攫う……それには奴らの虚をつく必要がある』

やるからには真剣に。それが伝わってくる。

『ここで注意が必要なのは、あまり奴らを過剰に警戒させるな。言ってみれば奴らに……『戦闘』を意識させるな』

親父たちを出し抜くのに必要な前提条件として、トレイナが強く言ってきた。

『ヤミディレは紋章眼を使って相手を分析し、先の先を読むスタイル。ゆえに、余がその先を読み切ることで致命傷を避けられたうえに、奴が貴様のフットワークを捕えることはできなかった。だが、あの二人は違う。六覇たちとも……忌々しい他の七勇者の中でも奴ら二人は違う』

「?」

親父と母さんが他の六覇や、七勇者たちの中でも特別な存在であることを強調するトレイナ。

それは単純な戦闘力がどうのというのもあるんだろうけど、それだけではない。

『奴らが戦闘を意識した瞬間、奴らの集中力、更には反応の仕方も変わってくる。こちらが理詰めで動きを誘導したり、先読みして攻めようとしても、野生の勘や本能でそれを察知して防ぐことが多々あった』

野生……はいはいはい、才能才能サイノーってやつね。

『とはいえ、奴らはまだヤミディレが戦えないことを知らない。だから、今の奴らは話を聞くと言いながらも、最悪の場合はヤミディレと戦うことも想定しているだろう。そのため、今の奴らの警戒心などはとてつもなく高く、神経を張り巡らせている状況。よって、まずはそこを揺さぶろう』

「揺さぶり?」

『うむ、それは―――――』

つまり、二人の動きを先読みしようとしたり、フェイントかけて裏をかこうとしても、戦闘状態で集中力が増した親父と母さんはその野生の勘みたいので理論や理屈を無視して体が勝手に反応して危機を回避したり、もしくは叩き潰したりしてくるってことだ。

だから、トレイナは「戦闘を意識させるな」と言っているんだ。

だが、それなら都合がいい。

アマエに気を遣って攻撃禁止を俺から口にしたんだから、どっちにしろ親父たちを戦闘の土俵に上げることはねえ。

『―――――――と、こんな感じで……』

「……とこんな……感じ……いや、待て。その作戦は……いや、あ~、でも……」

「へぇ……面白いじゃないか」

「わぁ! 私は大賛成です! 特に最初の作戦は大賛成です!」

「え~、僕それだけなのん?」

「ちょ、待て! クロン様にもしものことがあったら……いや、今の私では居るだけで足手まといだが……ぬぅ……」

トレイナがいかにも悪役みたいな笑みを浮かべて伝える作戦を皆に話した。

俺も復唱しながら「そんなアホみたいな作戦で、世界最強の勇者に通じるのか?」と思ったが……でも……トレイナが言うなら……

『おお。おあつらえ向きに、離れ小島があるな。ならばあそこで――――』

「ええい、もうやるぞ! 王子、クロン、あそこに降りるぞ! あそこであのバカ夫婦を迎え撃ってやろうぜ!」

「ふっ、承知したよ、坊や!」

「いきますよ、ヒーちゃん!」

「分かったのん!」

「くっ……クロン様……無理はなさらぬように……」

そのとき、視界の端に見えてきた小さな島。人が住んでいる様子もない。

ベトレイアル王国の領土の一つなのかもしれないが、ちょっと使わせてもらうか。

「ヒイロ! あいつらあの島に降りたわよ? 止まってくれたの? アース……私たちと話をしてくれるの?」

「俺らの声なんかじゃなく……チビッ子の声が響いたのか? だけど……なんか、落ち着いて話しをって……空気じゃねーな……なんつーか……迎え撃つって感じが……」

「まさか……私たちと戦う気……だったりする? まさか……それが……アースの意志なの?」

「分からねえ。だけど……攻撃されることも想定して備えるぞ。向こうはヤミディレがいる。それに、アースと一緒にペガサスに乗ってるイケメンも相当なもんだ。ヤミディレと一緒に居るあの魔族の女の子……アレが噂の女神様ってやつなんだろうけど……あの娘も謎だし……警戒しろよ?」

「当たり前でしょ。誰に言ってんの? それと、アマエちゃんもここから先はちょっと危ないから飛び出したりしないでね?」

ちゃんと追いかけてくる親父たち。

島に降り立つ、俺たち。

そして、その瞬間クロンが大きく息を吸い込んで作戦を……しかし……これ、本当にやるのか?

いくらトレイナの指示とはいえ、恥ずかしい。

なのに、クロンは恥ずかしがるどころかむしろ堂々と……

「す~……ん!」

「「ッッ!?」」

クロンの突然の動きに表情が変わる親父と母さん。

何が飛び出してきても対処できるように警戒心剥き出しなのが分かる。

だけど……

「アースのお父さん! お母さん! 初めまして、私はクロンと申します!」

「「……??」」

「私は将来アースとの赤ちゃんを産んでお嫁さんになることを目標に、現在とっても親しいお友達になることができました! どうか、お見知りおき下さい!」

「「……は? ………? ……ッ!? あ、あ、あかかかかかかか!?」」

攻撃でも技でもなく、とんでもない自己紹介に二人も衝撃を……というか、完全に予想外だっただろう。

しかし、恥ずかしい……

――まず、警戒心を最大にしている二人の集中力を乱すために……攻撃でも魔法でもなく、ヤミディレ戦同様に……言葉だ。クロンと……そうだな……童と、その、ラ、ラブラ……良き仲であることを二人に教えてやるのだ。それで二人は一気に動揺するはずだ

――い、あ、ちょ、あ~、そのな……クロンが、その、お、俺のアレ、いや、その自己紹介……お、俺と仲が良い的なことをだな……二人に……そうすれば二人の集中力が……散漫になるというか……

――え? 自己紹介ですか? していいのですか? よかったです! それが何の作戦なのか分かりませんが、アースの御両親に挨拶していいのなら、喜んでします!

という作戦を、クロンはノリノリで実行し、そして確かに親父と母さんの表情はメチャクチャ動揺してる。

「あ、え、そ、そういや、アースの友達のモトリアージュって奴らがそんなこと……神の血を引く女神でもあるクロンって娘がアースの嫁になるとか……こ、これはこれはご丁寧に……?」

「で、でも、あんな可愛い子があんな嬉しそうに、あ、赤ちゃんって……ま、魔族……いや、別に本気で好き合ってるならカンケーないけども……」

「いや、でも、アースはサディスのこと……つか、あの娘……トレイナにどこか……」

「あ~、もう! だから、アース! そういうのも含めてちゃんと話を聞くから! せめて話だけでも!」

いや、動揺しすぎだろ?

さらにここで……

「そういうことだ! ヒイロ! マアム! 我が忌々しい怨敵よ!」

「「ヤミディレ!?」」

「アース・ラガンとクロン様は、既に裸の付き合いもしているのだ!」

「「はだ……は、は、裸アアア!?」」

裸の付き合いって、風呂のことなんだけどな! いや、風呂も十分おかしいけども!

しかし、ヤミディレの発言によって更に混乱する二人。

こんな簡単に集中力を乱せるとはな。

それでも世界最強勇者か?

そして残念ながら、混乱しているようだけど、二人に対して俺からする話は何も無い。

『ふっ、役職では既に戦士たちの長だというのに……変わっていないな、ヒイロ、マアム……貴様らは仲間たちの士気を上げたり鼓舞することはできても……基本アホのため、どれだけ緊迫した状況でも戦闘以外の揺さぶりで貴様ら二人が真っ先に乱れる。ミカドや、常に冷静で的確な指示を出せた七勇者のソルジャも居ない状況ではこんなものだ……』

一方で、腕組んでニタニタと悪い笑みを浮かべながら二人を見下すかのように呟くトレイナは……

『な、童よ。ほら、もう既にああいうところが余よりも劣っているだろう? ほらな? 七人全員がかりプラス世界中の魔力とかそういうのなければ、余の方が奴らより優れているのだぞ?』

と、ドヤ顔で俺に……あ~……そういえば……出会ったばかりの頃、こいつそういうの気にしてたな……意外とトレイナも子供っぽいところあるんだよな……。

でも……

『さぁ、相手の集中力が乱れた。このまま一気に行くぞ。それに……貴様もちゃんと少しは見せてやるのだぞ?』

『……ん?』

『戦闘でなくても、見せられる成長というものはある。貴様もあの御前試合からもっと成長していることを……見せつけてやれ!』

『へへ……押忍ッ!!』

こうやって、簡単に乗せられちまう俺も十分単純なガキだけどな!

「さぁ、ここから本番だ! 行くぜ、王子!」

「ああ、援護しよう!」

まぁ、いい! 出し抜いて、そしてちっとは驚かせて、妹を連れてそのまま俺たちは行かせてもらうぜ!