軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百八十八話 理想

クロンの説明は正直よく分からなかった。「俺は何でもできる」という幻術をかける?

何でもって何だ?

『ふふふ、そう来たか。まぁ、余の予想とは少し違うが、大人しく受けてみたらどうだ?』

そんな俺の疑問には答えず、しかし機嫌よさそうにトレイナは笑った。

『無論、幻術だ。できないことはできない。しかし、『できる』という揺ぎ無い自信を持つことは重要である。そして、人の脳の思い込みの力は、時にはイメージを超えてリアルに影響を及ぼすものだ』

脳の思い込み? 幻術? それが一体俺にどんな変化を……?

「いきます、アース!」

「うおっ!」

「暁光眼発動! 『魔瞳術・プラシーボキアイダ』!」

どうなるかまだ分からない俺の眼前でジッと見つめて大きく目を見開き、そして詠唱とともに暁色に発光するクロンの瞳。

そして染み込んでくる。

なんだ? この感覚は?

「ッ……あ……熱い!」

体が熱い。溶けちまうかのように、燃える。心臓が激しく脈打つ。

しかし、同時に……込み上げてくる……恐怖心すらも消え失せて、ただ自信だけが……

「アース、あなたなら何でもできます!」

「俺なら……」

「あなたが理想とするもの……あなたが理想とする強さ……理想とする力……理想とする技……あなたが理想となるのです!」

「理想……」

「私は知っています。あなたが毎日、どれだけの努力をしてきたのかを」

そう言って、次の瞬間クロンが正面から俺をハグしてくる。

「そして必要であれば、私の魔力も一緒に使ってください」

「あっ……」

普通ならこんなことされたら照れるのに、このときは違う。

ただただ滾った。

力が溢れた。

「あなたと共に戦うと決めた以上、私の全てをあなたに託します。そして何度も言います。あなたなら、何でもできると!」

流れ込んでくる、クロンの魔力。そして言葉。

俺なら何でもできる?

俺の理想?

俺の理想は……決まっている……それは子供のころからずっと……

――フーは世界一の魔法使いに! リヴァルは世界一の剣士に! フィアンセイは世界一の槍使いに! そして、俺は―――

ずっとその理想を追い求め、しかし壁にぶつかり、挫折し……だから強さを求めていたのに……何でだろうな?

クロンの言葉で俺の理想は何かと考えたとき、子供の時の記憶が甦ったと思ったら、それはすぐに消え……

――黙らせてみろ! 周囲を! 世間を! 全てを!

俺が追いかけていた親父の姿が消え、いつの間にかあいつの事しか思い浮かばなかった。

『そうだ、更なる殻を破って出てこい! 貴様なら出来るとどこまでも思え! 何よりも、貴様はそれだけの積み重ねをしてきた! そのことを、余は誰よりも知っている!』

「俺なら、できる! あんたみたいに! ウオオオオオオオオオオオオッッ!!」

そこから先は、どういう魔法の使い方でソレができるようになったかは分からない。

だけど、俺はできた。

あのとき見た、あいつの力を再現。

――大魔・お尻跳び!!

――ぶわーーーはっはっはっはっはっは、どわあーーーーっはっはっはっはっは!! ぎゃーーっはっはっはっはっは!!

――……超大魔螺旋……

――ひ~、は~、くはははは………へ?

ヴイアールの世界で、縄跳びを初めて教えてもらったときのこと。

トレイナが見せてくれた技の一つに俺が爆笑したとき、怒ったトレイナがソレをやった。

山のようにデカい螺旋。

更に……

――高難度のポーズ。マジカル・魔聖者のポーズ!

――……ぷ……

――そして、これが貴様の大好きな大魔螺旋を……両手に具現化する……『大魔双螺旋デビルスパイラルブレイクストリーム』!

――あ……

同じくヴイアールの世界で、マジカル・ヨーガの指導を受けていた時の事。

必死で笑いを堪えていたが、耐え切れず、またもや怒ったトレイナにソレをやられた。

そうだ、俺は既に見せてもらっていた。

ヒントは貰っていた。

大魔螺旋を超える、もっと強い力を。

そして、トレイナは俺にはできると言っていた。

なら、できるんだ。

俺はできる!

「超大魔双螺旋ッッッ!!」

「おっ……ヌワハハハ、そう来たか!」

単純な話。現状の大魔螺旋で敵わないのならもっとデカくする。

一つで足りないなら、二つ作る。

『フハハハハハ、余の考えはどちらか一つだったが……プラシーボキアイダの影響と、クロンの魔力を合わせることで二つ同時にやるとはな。上出来だ』

これで正解? トレイナが笑っている。

そして……

「すごい……これがあなたの全てなのですね!」

「ちげーよ……俺とお前の全てだ!」

「アース?」

「何でもできるのは……俺じゃねえ……俺たちだ!」

俺がここまでたどり着けたのは、こいつの……

「ありがとよ。お前のおかげで、俺の理想に一歩近づけた!」

「はい!」

そう言って笑い合う俺たち。そして、互いに同時に前を見る。

今、成すべきこと。その前に立ちはだかる巨大な壁。

それにぶつける。

「いくぜ、クロン!」

「はい、今度は二人で!」

「そして、見せてやるぜ、バサラ!」

「刻んでみせます!」

「俺たちを!」

「私たちを!」

クロンと触れ合ったまま、両手の超巨大な螺旋を回転させ、唸らせる。

そして、二人で叫んで見せつける。

「「超大魔双螺旋・アース&クロンスパイラルブレイクストリームッッ!!!!」」

今の自分たちの全てを。

「は、ぬは……ヌワハハハハハハハハッッ!! これは予想外じゃ! ああ! おおお! 血肉が躍るッ!!」

そんな俺たちを、今までで一番機嫌よさそうに笑ってバサラは俺たちを迎え入れようと身構える。

「確かに……確かに感じるわい! 弟子だから? 同じ存在だから? そんな言葉など不要なほど、確かに貴様らから我が友の存在を感じるわい!」

『それは当たり前だ、我が友よ』

「奴は死んだが、それでもあやつが繋いで遺したものがここにはある! ああ、沸いたぞ! 沸いたぞ! 貴様らに興味が沸いた!」

そして、俺とクロンはトレイナに背中を押されて飛び込んだ。