軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百八十七話 暁

今よりもっと? どうやって? とにかく叫びながら全力で大魔螺旋を繰り出しては、バサラに跳ね返されて地面を転がる俺。

バサラはいつでも俺を殺せる力を持ちながら、俺の気を失わせない程度の手加減で俺を弾く。

しかし、俺の特攻が三回を超えたあたりから、段々と飽きが見られてきた。

俺が繰り返して出す最強技も、バサラからすれば「ネタ切れ」と思われている。

だが、大魔螺旋以外の選択肢が今の俺にはない。

そんな俺にバサラが軽くブレスを放つと……

「ガアアアアアアアアアアアアッッ!!」

「大魔螺旋アース・スパイラルトルネード!!」

大魔螺旋から発生させる竜巻で弾くが……

「つおっ!? お、押し切られ……」

「ははん」

「ッ!?」

俺にとっては強烈な最強の大渦も、バサラの鼻息一つで吹き飛ばされるような状況。

しかし、これは現実。

バサラのブレス一発で、俺も渦の軸もぶれる。

そんな俺をバサラは「この程度か?」と鼻で笑っている。

「くっそ……おおおおおおおおお!」

トレイナは俺にヒントはすでに与えていると言った。

そう言うってことは本当のことなんだ。

これまで、俺は何を学んだ? トレイナが教えたヒントはいつ? どこに? 何を?

「 天地創造(クリエイション) !!」

「えっ?」

「ぬっ!?」

その時だった。

俺の後ろに居たはずだったクロンが、気づけば俺の真横に。

「……その眼……ほほう!」

『さて……』

そして両眼を見開いた瞬間、その両目が明け方の太陽のように光った。

「六道? いや、この暁の光は……『 暁光眼(ぎょうこうがん) 』か!」

『流石に、まだ六道眼にまでは達していないか……さて……』

そのとき、初めてバサラが驚いたような声を上げた。

トレイナもまた興味深そうに見ている。

そして……

「クロン? お前、何を……危な―――」

「覚悟なら、自分なりに決めてきました!」

「……え?」

「祈るだけでなく、願うだけでなく、戦わなければ切り開けない道があるのなら、私もあなたと共に行きましょう!」

今まで、わけわかんない天然なところのあったクロンが、初めて強い口調で、強い瞳で、俺の隣でそう叫ぶ。

すると、その時だった。

「アースと同じ、たくさんの螺旋よ現れなさい!」

「ッ!?」

クロンがそう叫んだ瞬間、何の前触れもなくソレは現れた。

「ほ~……」

「なっ、んだと!?」

バサラの頭上に、俺の大魔螺旋と同じぐらいの大きさの光る螺旋の渦が無数に現れた。

「ちょ、ばかな!? なんで?! クロン、一体……?」

「降り注ぎなさい!」

クロンの指示で、雨のように一斉に大魔螺旋がバサラに降り注がれる。

全てクロンがやったのか? 分からない。一体何が起こっている?

「お~、これはたまらん、ヌワハハハハ、お~、ドンドン来るの~」

螺旋の雨を受けるバサラ。その表情は、俺に飽きてきたときとは打って変わり、実に好戦的な笑みだった。

さらに……

「大きな薔薇さん! バサラさんを捕まえてください!」

次の瞬間、大地に地響きが走った。

すると地の底から、棘を生やした巨大植物が顔を出し……あれは、あの天使の王子が使ってた魔法!

「おほ! ヌワハハハ、なかなかデッカイお花じゃのう!」

巨大な薔薇の棘がバサラの全身に絡みつき、締め付け、そして捕えて動きを封じようとしている。

なんで、クロンがあんな魔法を?

「クロン……お前……」

「アース。この力は……ヤミディレからは無闇に使うなと言われました。私、ヤミディレの言いつけを破ってしまいました」

あのバサラの動きを封じる大魔法を放ちながらも、クロンはペロッと舌を出してはにかむ。

しかし、すぐにその輝く瞳を見開いて……

「だから、今こうしてここに居て、こうして戦うのは……誰かに言われたわけではない、私の意思です!」

『ならば、示してみよ!』

クロンがそう叫んだと同時に、トレイナがどこか機嫌よさそうにそうつぶやいたように聞こえた。

その言葉の意味が分からず、俺は突然隣に立ったクロンにまだ戸惑ったままだった。

しかし、一方で……

「ヌワハハハハ、お~、痛い痛い……と、言いたいところじゃが……まだまだ想像力が乏しいな」

「ッ!?」

「多少は痛いと『錯覚』するが、ウヌの想像力ではまだワシには届かぬのう」

あれだけの大魔螺旋が一斉に降り注いだというのに、更にその全身を巨大な薔薇の蔦で捕らえられているのに、バサラにはまるで効いていない?

いや、そうじゃない。

「こんなもん……効かーーーーーん!」

「あっ……」

アレは……

『ちなみに、童。アレは、ただの幻術だ』

「ッ!?」

トレイナがそう呟くと、バサラに降り注いだ螺旋も薔薇の蔦も儚く砕け散った。

しかし、幻術? バサラもそれは見抜いていたようだが、俺には本物に見えたぞ?

『単純に言えば、幻想魔法・ヴイアールを現実世界で、しかも他者も巻き込んで見せるようなもの……』

「ッ!?」

『暁の光を見たもの全員の脳に影響を与えるほどの究極の幻術。脳が錯覚することで、五感にも影響を及ぼす。視覚だけでなく……痛みや苦痛などもな」

「痛みや……苦痛も錯覚する?」

「そう。それは夜と朝の狭間、世界を曖昧に照らす光……世界の現実と幻想の境界を支配する力………それが―――」

クロンが持っていた瞳。その瞳の名は、俺もアカデミーの授業で聞いたことがあるものだった。

あの、ヤミディレの持つ紋章眼と並ぶ魔眼の一つ。

「暁光眼を相手にするのは久しぶりじゃな」

それが、暁光眼。当然俺は初めて見る。

紋章眼が実在しているのだから、別におかしくないが、クロンがそんな目を?

だが、しかし……

「しかし、所詮はトレイナが到達した『六道眼』の下位互換じゃ! さらに、ウヌは随分と大事に育てられたのかのう? 想像して創造するものが、あまり大したことないのではないか? 体感する痛みや苦痛の錯覚も……あまり感じなかったのう」

「ッ!?」

「その眼を持った者は、現実に近いあらゆる幻を生み出すことが出来る。それこそ、この世界が崩壊するような幻も、地獄の業火も神のごとき雷も、全ては自分の想像力次第。しかし、ワシの存在はウヌの想像力の遥かに上を行っておる」

クロンがそんな伝説の魔眼を持っていたことには驚いたが、相手もまた伝説。

ましてや、トレイナとかつてライバルみたいな存在だった怪物だ。

実戦経験に乏しいクロンがいきなり勝てる相手じゃない。

でも、今は……

「その通りかもしれません。私は何も知らないのです。まだ、何も。だからこそ……これからもっと多くのことを知りたい。ヤミディレにも教えてもらいたい。そして、アースのことも。世界の事も。私は、良いことも、悪いことももっと知りたい。でも、今はまだ知らない。それなら……」

すると、クロンは俺の手を握ってきた。

そして、俺を見つめ……

「アース、私にあなたの力を―――」

「今さら聞くんじゃねえよ」

「……あっ……」

「ここまで来て、貸さねえなんて言うはずがねーだろうが」

「っ……はいっ!」

クロン一人では勝てなくても、今は二人。

だから俺もクロンが繋いできた手を握り返した。

俺とクロン二人で……

「それがどうした? 小僧と小娘二人がかりならどうにかなると? ワシをあまり舐めるなよな?」

もちろん、俺とクロンが二人で力を合わせたからって簡単に勝てる相手じゃない。

しかし、クロンは何か秘策があるかのように俺に耳打ちする。

「今から私の眼の力であなたに幻術をかけます」

「なに?」

「それは……『あなたなら何でもできる』と、あなたに思い込ませること」

「……は?」

「あっ、いえ、私もよく分からないのですが……」

「おい!?」

言ってる意味が分からなかった。だが、聞き返すとクロン自身もあまりよく分かっていない様子だった。

「ただ、ヤミディレが言うには……私の眼の力は、相手の脳に強い暗示のようなものをかけるそうで、だから幻を見せるだけでなく、相手の脳が思い込んだ痛みや苦痛まで再現できると……えっと、だから……う~ん、つまり! あなたは今から何でもできるようになるんです!」

ダメだ、まるで意味が分からん。

しかし、それでも俺に拒否という選択は無かった。