軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百八十五話 懐かしむ

「ヌワハハハハ、人間と遊ぶのは久しぶりじゃなぁ……カグヤ以来か? まぁ、あやつは人間と分類するには微妙な奴ではあったが……さて……」

ブレイクスルーで戦闘態勢に入った俺に対して、「かかって来い」とまるで胸を貸そうとしているかのように起き上がるバサラ。

向こうにとっては戦闘ではなく、あくまで俺を推し量ろうとしているのだろう。

『ヤミディレの時と違って、戦略はない。何も考えず、ただぶつかれ』

「押忍!」

ヤミディレとの戦いは、とにかく勝つことだけを考えていた。

そのために、戦略を立てた。小細工を弄した。

しかし、今回のこれは戦いじゃない。

一種の自己紹介のようなもの。

つまり、出し惜しみも無用。

「大魔螺旋ッ!!」

「ほぅ」

最初から、自分の全力を叩き込むことが、自分を分かってもらうための有効な手段。

唸る螺旋。吹き荒れる旋風。

そして、俺が飛び込んでやろうとした瞬間、バサラは少し目を細めた。

「なるほどのう。ブレイクスルーに続いて……ただ、『知っている』だけではなく……実際にその目で見て……いや、体感したことがあるかのような再現ぶり……ただのモノマネではないのう……そして、懐かしいものじゃ……」

その言葉に、俺は内心で「正解」と呟いた。

そうだ、何度も何度も何度も……夢にまで見る? いや、まさに夢だが現実でもある世界でこの技を食らって何度も粉々にされてきたんだ。

ただのモノマネのつもりはねえ。

それを証明してやる!

「アース・スパイラルブレイク!!」

突いて、穿つ! 伝説の竜王を。

気遣いなど一切無用。

「貫けええええええええ!」

「ヌウウウウウウウウウウウンッ!!!!」

トレイナの言う通り、何も考えず、ただぶつか―――

「ヌワハハハハハ……度胸良し。ノリも良し。しかし……力はまだまだあやつに比べれば……曲芸の域だのう」

「ッ!?」

硬い! それが、飛び込んで螺旋を突き立てた瞬間、俺に伝わった感触だった。

バサラの鱗に俺の螺旋が触れた瞬間、俺がこの技を繰り出してきたこれまでの時とは、まるで違う感触と感覚。

そして、硬いだけじゃない。

「な、か、回転……が」

突き立てた螺旋の回転すらも止まってしまった。

「あやつの螺旋は、回転させるだけでそれこそ雲を蹴散らし、天にすら轟くほどの大渦を生み出し、文字通り天変地異を巻き起こしたのだからのう」

硬く、厚く、濃密で、高密度で、それは鱗とか皮膚の硬さとか肉厚とか、なんだろう、そんなもんじゃない。

なんていうか……もう、「違くて、デッカイ」としか言いようがない。

こいつはこれまで俺が出会った全ての生物と、何が違うのかがもう言葉では言い表せないぐらい、根本的に違う。

「とはいえ、なかなかじゃった。では……ワシも名乗ろう」

「ッ!?」

「力でな……ガッ―――――!!!!」

一瞬、バサラが深い溜息のように息を大きく吐いた……のかと思った瞬間、俺の全身が、まるで暴れ馬に突撃されたかのように激しくふっとばされ、大地の上を数えきれないほど打ち付けられた。

「がっ、つ、ガッ!?」

「アースッ!?」

堪えるとか、そんな話じゃない。

「ちっこくて、軽いの~……まぁ、それは見ただけで分かるがな。さて……どうする?」

人間では絶対に耐え切れないぐらいの力を感じた。

攻撃? そのものは直接触れられてもいないのに、骨の髄まで俺に刻み込む。

「っ、がっ……な、なんつー……なんて……」

なんて力だ。

ブレイクスルーを使い、反応速度だって向上し、これまでの激戦を乗り越えて多少なりとも強くなったと自負していた俺の想いを粉々に打ち砕くかのような……

『しかし、それでも貴様は生きている。忘れるな。貴様のやるべきことは、こやつに勝つことではない。こやつとて、貴様との力の差ぐらい理解している。そして殺すつもりもない』

「ッ!?」

そのとき、今の一撃で俺が力の差を思い知らされたと同時に、トレイナが俺に告げてきた。

『バサラが見たいのは、ここから先だ。この状況で貴様はここからどうする人物なのか……そこに、バサラはその人物の本質を見ようとする』

勝てない相手だとは、最初から分かっていた。

それでも、その気になれば一回目ぐらいなら案外、ガムシャラにやれば立ち向かえたものだ。

一瞬だけバカになれば……

「アース、しっかりしてください、アース!」

「って~……だけど……」

「?」

しかし、こうして相手の力を体感し、計り知れないぐらいの力の差を実感させられたら?

また、再び立ち上がって戦えと言うのは、なかなかしんどいものだ。

だが、「それを俺が出来るかどうかを見たい」とトレイナは言っているように聞こえた。

「ここから……か……」

すると……

「そのとおりじゃ」

「ぬっ……」

俺の想いを見透かしたかのように、バサラは笑みを浮かべて頷いた。

「阿呆になれば、誰もが一度くらいは強者に挑める。しかし、恐怖を知り、それでもなおも譲れぬもののために再び身を投げ出せるか? 見せてみよ。そこに貴様の本質を見てやろう」

恐ろしいものだ……

「まったく……言ったとおりだな……」

竜王が……じゃない。恐ろしいのは、トレイナだ。

「ぬっ? なにがじゃぁ?」

トレイナが言った通り、バサラという存在はこういう奴なんだ。

それを最初から全てを見透かしていた。

そして、何でだろうな。

そう考えると……

「強くてデッカくて……だけど……」

トレイナはこいつと喧嘩して勝っている。

そんなトレイナと毎日毎日スパーをやり、そして今も俺を信じて背中を押し出す。

なら、できるはずだ。

「俺は目の前の恐怖より……失望されて、見放される方が怖い」

竜王に……じゃない。トレイナに、だ。

「アース……」

「もういっぺんだ……さっきより……もっと穿ってやる!」

力の差は叩き込まれたのに、どういうわけか恐怖心は無かった。

「すー……はー……」

だから、心を落ち着けて体勢を整えることができた。

「ヌワハハハ、小生意気な。そして、器用な奴じゃな。魔呼吸も使うか」

「大魔螺旋・アース・スパイラルブレイク!」

「案外、本当にあやつの弟子なのかもしれんな。しかし……」

息を整えて魔力を吸い込み、再び全力全開で飛び込んで――――

「芸そのものは同じ。一度見せたものと同じものでは、ワシを痺れさせることは出来んのぉ」

「ペラペラペラペラ、喋ってんじゃねえ! ルアアアアアアアアアアアッッ!!」

「結果が伴わなければ、無駄な絶叫にあまり大きく評価はしてやれんな」

少しでもいい。こいつに俺を刻み込みたい。

だが、そう「想う」だけじゃすぐに結果は伴わない。

技そのものの威力が変わらない以上、当然のことかもしれないが……気持ちだけじゃなく……結果を出すためには、今以上の威力を……

『ネガティブなことは、今は考えるな。もっと単純に考えろ』

「ッ!?」

『今より、もっと威力を? そのヒントは既に貴様には教えている。そして、今の貴様ならできるはず』

教えている? 何を? もっと? どうやって?

『さて、それはそれとして……貴様はそこで何をやっている? 余と同じ遺伝子を持つ貴様は……』

「アース……」

『童は否定したが……ここで何も動けぬようであれば、本当に人形で終わるぞ? まぁ、バサラを呼び出す役目さえ果たせば……もう、それでも構わぬが……』

そのとき、無我夢中だった俺にはハッキリとは分からなかったが、トレイナが自分の姿も見えず、声も届かないはずのクロンに何かを囁いているように聞こえた。