軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百八十四話 興味

「あの天空の世界に、大魔王トレイナの配下でもあった、六覇のヤミディレが連れていかれた。あの場所に行きたいんだが、手段がない。連れて行ってもらえないだろうか?」

「お願いします! バサラさん。どうか私たちに力を貸してもらえないでしょうか?」

相手の機嫌を損ねないように事情を説明して頭を下げる、俺とクロン。

「ふ~ん……」

俺たちの話を聞いたバサラは、完食したベヒーモスの骨をその場に捨て、ゆっくりと空を見上げて目を細めた。

「トレイナの配下……お~、あの六人の内の一人か。と言っても、ワシが覚えているのは二人ぐらいじゃが……そうか。トレイナが死んだ後の魔王軍などに興味も無かったので放置しておったが……生き残った幹部が、連れていかれたか……ふ~ん」

そして、俺たちの話を一頻り聞き終えたら……

「まっ……興味が沸かぬのう」

「「ッッ!!??」」

懇願する俺たちに対して、バッサリと拒否を示す一言だった。

だが、「なんでだよ?」と言えるような立場じゃない。

向こうからすれば、「いきなり呼び出して、初対面の奴が何言ってんだ?」って感じだろう。

だが、今はこいつに縋るしかねえ。

『トレイナ……こう言ってるけど……』

『だろうな。やはり、クロンが居てもそれだけではな……』

『おいおい!』

『構わん。言い続けろ。これは想定内だ。言い続ければ、流れは変わる』

『でも……ッ……』

『自分を示して、奴に興味を持たせよ』

そして、トレイナもまた、構わず頼み続けろと真剣な表情で言っている。

この冥獄竜王と付き合いが長いであろうトレイナがこう言うからには、何か意味があるんだろう。

とにかく、トレイナを信じて俺らは頼み続けるしかない。

「こ、このとおりだ……頼む」

「お願いします! あなたにしか、今は頼ることが出来ないんです!」

「メンドクサイの~。少なくとも、そんなことにワシが力を貸してやる義理はないのぉ」

とは言っても、まるで意に介さないどころか、バサラは少し退屈そうに欠伸した。

まるで、食後に眠気が襲ってきているかのように。

このままじゃ、ダメだ。

何とか興味を持ってもらわないと。

「あ、あんた……大魔王トレイナの戦友みたいなもんなんだろ?」

「ん?」

「俺は人間だから信じられないかもしれないが……俺は大魔王トレイナの、最後の弟子。そしてこのクロンは、大魔王トレイナと同じ――――」

あっ、俺、クロンの前でトレイナの弟子ってことを言っちまった……後で口止めしておかねーと。

まぁ、でも、これで少しぐらいは話を……

「だから、何じゃ?」

「……え?」

どうにかならないかと、トレイナの名前を出して訴えようとしたら、思っていたのと違う反応が返ってきた。

あれ? トレイナの使い魔なんじゃないのか?

なんか、仲良かったわけじゃ……トレイナ? どうなってんだ?

「ふわ~~あ……そーいえば、昔もそんな小物が腐るほどおったわい。僕の父は金持ちなんだぞ~、偉いんだぞ~、貴族なんだぞ~、みたいなことをほざくだけの、何もできない無能がな」

「……え?」

「時代は変わる。何があったかは知らんが人間がトレイナの弟子でも、そーいう時代になったと思えばそれまでじゃし、別に人間だからといって軽んじたりはせん。人間にも骨のある奴らが居ることをワシはよく知っている。ただ……小僧よ。トレイナの弟子だから何じゃ? そのお嬢がトレイナと同じだから何じゃ? くだらぬのう」

その目を見た瞬間、俺は体が熱くなった。恥ずかしくて。

俺が「七光りのバカ息子」みたいな連中と変わらない、と言っているように聞こえたからだ。

いや、実際に今の俺の発言はそうだったのかもしれない。

相手は冥獄竜王だけど、俺はトレイナの弟子だから話は聞いてもらえるだろうという気持ちがあった。

そんな俺が、こいつにはたまらなく小物に見えたんだ。

だからこそ、こんなつまらなそうな目で俺を見るんだ。

「よいか? ワシがもっとも熱く滾っていた時代……人も魔も関係なく、皆が己を示していた。ワシが、トレイナが、ハクキが、カグヤが、その他数多くの豪傑たちが、己と世界を懸けて魂の限りを振り絞って戦いに明け暮れた! そんな時代を生き抜いたこのワシが、たとえ今は血も魂も枯れて肥えるだけの怠惰な日々を送ろうと、死んだ魔王の威を借りねばワシと話も出来ぬ未熟な小物共に、力を貸す気も無ければ、興味も持てんのう?」

昔の伝説……「あの頃の俺たちは……」みたいなことをいつまでも誇りに思っている連中と似たような感じはするものの、それだけの道を歩んできたこいつからすれば、「俺は大魔王の弟子なんだぜ」みたいな俺が小物に見えるのも頷ける。

「そういうことじゃ、アホンダラ共。ワシに頼みをするのであれば、誰の威も借りずに貴様ら自身で興味を持たせられるようになってからにせよ」

「そ、そんな……どうすれば……」

ああ、そうか……そういうことか……トレイナ……あんたって奴は……

『そういうことだ……』

分かってたんだな? 最初から。

冥獄竜王なんて存在に、「お願い」をしたって話を聞いてくれる相手じゃない。

あんたは俺に……

「じゃあ……興味を持たせれば、いいってことだな?」

『その通りだ』

「…………ん?」

「アース!?」

ったく、この師匠は! 相手は、伝説の存在、冥獄竜王なんだぜ?

それを相手に、あんたは最初から俺にこうしろと……最初に言わなかったのは、俺が怖気づくとでも思ったからか?

『いいや。今の貴様なら、すぐにこの答えに辿り着くと分かっていたからだ』

戦に明け暮れた存在を相手に、どうやって興味を持ってもらえるか?

簡単なことだ。

いや、非常に難しいか。

「ブレイクスルー!!」

「お~……なついのう」

つまりは「俺の力」を示せってことなんだろ? 冥獄竜王を相手に。

今まで戦った誰よりも……ヤミディレよりも強いと思われるこんな怪物を相手に。

『たとえ枯れ果てようと……その両目は腐ってはいないだろう? なあ? バサラよ。力はまだまだこれからだが……童は貴様の興味を引くには十分なものを持っているぞ?』

でも、トレイナは「俺ならできる」と信じてる。

それはこの世で最も信頼できる根拠になる。

「冥獄竜王バサラ……もう一度……俺の自己紹介をさせてくれ! 俺は―――」

「いらんっ!」

大魔王トレイナの弟子という肩書を頭に付けないでも、俺は俺として改めてバサラに名乗ろうとしたが、バサラは俺の言葉を遮った。

しかし、それは単に俺に興味がないからではなく……

「雄ならば……体と魂で名を語れい。さすれば、食後のデザート代わりに、貴様という存在を吟味してやろう」

ちょっとだけ、今の俺には興味を示してくれたのか、バサラはニタリと笑みを浮かべて、その巨体をゆっくりと動かして俺と対峙するように立った。