軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百八十三話 冥獄竜王

「クロン、大丈夫か?」

「はい。ちょっとチクッとしただけで、何も問題ありません。こんなので痛いなんて言ったら、皆に笑われてしまいます!」

「そっか」

「そして……えっと……これ、何て言うんでしたっけ? 初めてキズモノに……そう、これ、破瓜の――――」

「全然違うから! だから、お願いだから皆には間違ってもそんな単語を口にするなよな!?」

何も心配いらないと胸張って笑顔で頷くクロン。その指にはマジカルバンテージ用で俺が携帯していた包帯を少し巻いている。

召喚に必要な、クロンの血液。

それを魔法陣に垂らし、これで準備は整った。

『やれやれ……それじゃあ、トレイナ……』

『うむ。では詠唱を教えよう。それと、少し覚悟しておけ。奴ほどの竜を強制召喚する以上、大魔螺旋並みの魔力を一気に消費する……まぁ、魔呼吸を使える今の貴様なら問題ないが……』

『了解』

普通、自分と契約した生き物を召喚するだけだったらそんなに膨大な魔力は要らないということは聞いたことある。じゃないと、気軽に呼び出せないしな。

だが、俺が今からやるのはトレイナの裏技みたいな古代魔法と、呼び出すのは伝説の怪物。

いかん、かなり緊張してきた。

いきなり襲われたり、暴れられたりしたらどうしよう?

「さっ、アース! バサラを呼び出しましょう!」

一方でクロンは「フン、フン」と張り切っている感じで鼻息荒くしている。

こっちはこっちで、俺が感じている不安は何も考えていないようだ。

本当に大丈夫か?

いざとなったら、俺がこいつを守ってやらねえと……

『安心しろ。やつはいきなり見境なしに暴れるような奴ではないのでな』

とりあえず、トレイナも心配いらないと言ってることだし、いい加減覚悟を決めよう。

「よっしゃ! やるぞ!」

『うむ!』

「はい!」

気合を入れる俺たち「三人」。そして、俺は魔力を漲らせて、トレイナに耳を傾ける。

『詠唱は……アマァゾォラクテンヌヤホーデツーハンサガーワヤマトハイターツ! 強制召喚魔法・ソクジーツ!』

「アマァゾォラクテンヌヤホーデツーハンサガーワヤマトハイターツ! 強制召喚魔法・ソクジーツ!」

クロンの血を垂らした箇所から始まり、魔法陣全体が一気に発光。

俺自身もまた、体中から魔力を根こそぎ奪い取られるような感覚。

これが……

「すごい! 光ってます!」

「ああ!」

魔法陣が未だかつて見たことないほど強烈な光を放ち、同時に空間がまるでガラスのようにヒビが入り、そしてついには粉々に砕けて暗黒の闇が……

「来るっ!!」

「ッ!?」

光と共に断裂した空間の向こうに見える闇から、巨大な何かが顔を出す。

その瞬間、俺は全身に強烈な悪寒が走った。

「あっ……う……あ……」

この感覚は何か? 恐怖? 分からない。

ただ、何故だろう……ただこの場に居るだけなのに、俺はこれまでの人生が走馬灯のように駆け巡って……親父と母さんとサディスの顔が急に浮かんで……何だ?

震えるような寒さ。

それなのに、滝のように出る汗。

そして、ついに……

「……え? へ?」

ドラゴンが顔を出す……と思ったが、闇から出て来たのはドラゴンではなく、見たこともないほど巨大な角の生えた牛……? いや、見たことない獣。

巨大な体躯と毛皮を持った巨大な獣が……

「なんじゃあ? 食事中に無理やり呼び出すとは……どこのアホンダラじゃ?」

「「ッッ!!??」」

見たこともない巨大な獣の死骸を鷲掴みにした、更に巨大な怪物……いや、竜が不機嫌そうな声と共についにその全身を俺たちの前に出した。

『ふっ……凶暴な肉食獣でもあるベヒーモスを食事とは……相変わらずだな』

べ、べひーもす? なんかそれ、小説とか絵本とかでメチャクチャ出てくるとんでもない怪物と同じ名前なんですけど!?

ただ、問題なのはそれよりも、そんな怪物を片手で鷲掴みにして現れた更に巨大な怪物。

「こ、これが……」

「あら~……」

全身が朱色の鱗に覆われ、三又の鋭い角を尖らせ、あらゆるものを噛み砕く牙、そしてあらゆるものを引き裂く爪を携えている。

この世界にも野生の竜はそれなりに生息しているが、多分そのどれとも違うだろう。

竜という言葉で一括りにできない。

ただ、怪物としか言いようがない。

「ん~? ……なんじゃぁ? 青い空? 太陽? 地上かぁ? ……ふむ……妙な雲もあるが……ふむ……」

次の瞬間、見下ろしてきた怪物と目が合う。それだけで膝が震えて腰を抜かしそうになる。

今まで出会ったどの生物とも違う。

デカい……体躯だけの話じゃない……威圧感? オーラ? とにかくあらゆるものがデカすぎて何も分からない。

ヤミディレ相手にすらこんな感覚は無かったというのに……

「ワシを呼び出せるのは、死んだトレイナだけなのじゃが……古代魔法を使ったか? ほむほむ……」

俺たち二人を品定めするかのように見る怪物。

言葉が出ない。

何が最後の言葉になってしまうか分からない。ちょっとでもコレの機嫌を損ねたら、一瞬で……?

トレイナ……本当に……大丈夫なのか?

「初めまして、こんにちは。私は、クロンと申します。よろしくお願いしますね、冥獄竜王バサラさん?」

「ってをおおおい!? クロン!?」

それなのに、クロンは俺の気持ちも知らずに、スカートの両端をチョコンと摘まんで挨拶する。

おいおいおいおいおい! つか、なんで? クロンの奴、まるで怯えてない? むしろ笑ってる?

なんだろう……これって……ある意味で、大物的な?

「ほぅ~、いきなり呼び出すのは無礼千万な奴と思ったが、めんこいお嬢じゃな。確かに、初めましてじゃぁ……まあ……懐かしい面影じゃがのう」

ただ、許可なく喋ったことを怒られるかと思ったが、むしろ機嫌良さそうな反応を見せる怪物。

すると怪物は頷きながら……

「で? ワシはいかにもバサラじゃが、ウヌがワシを呼び出したか? お嬢よ」

バサラ! こいつがやっぱり冥獄竜王……って、当り前だ。こいつが冥獄竜王じゃなければ、何だってんだよ。

こんな……これが……

「いいえ。私は協力しただけで、あなたを召喚したのは、ここに居るアースです」

「……ほう……人間か?」

そして俺へと視線を移す冥獄竜王。

なんだ? 何をされる? 何を見ている?

「で? そこの……番いの小僧は挨拶もせんのか?」

「アースです! アース・ラガンです! よろしくお願いします!」

危なかった! あと、一瞬でも挨拶が遅れていたらどうなっていた? どうなっても不思議じゃなかっただけに、今のはマジで焦った。

ん? っていうか……番い?

「あっ、いや、あと俺……つがいじゃないっす」

「ツガイ? ツガイって何ですか? アース」

「アレだよ、夫婦的な……」

「ああ! はい、私とアースはまだツガイじゃないです! まずはお友達から始める予定なのです」

「もう、それはどうでもいいから、ちょっ、もう少し緊張感持てよ!」

って、こんなときに何の話を、つか、何を? もう焦り過ぎて頭がまとまらず、訳が分からねえ。

そして、バサラは……

「な~んじゃ、甘ったるいのぉ~」

なんか、冷やかし好きな近所のおっさんみたいな反応を見せる。

だが、それでも俺はすぐに思い知ることになる。

「で……?」

この、強烈な存在感を放つ怪物は……

「ワシに……ナニヲサセルツモリジャ?」

「「ッッ!?」」

やはり伝説の冥獄竜王なのだと。