軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7 鍋の手入れは念入りに行った。

トバイアスから破門された後、1時間ほどで店の片づけを終えたフレデリカは、小さな鍋をもってカーネルの元を訪ねた。

裏口から声をかけると、カーネルの店では三人の弟子がせっせと薬を作っていて、年長の弟子がフレデリカに気がつき、手を止めた。

「あれ? 今日は納品の日じゃないよね?」

フレデリカは首を横に振った。

「別の用事で。…カーネルさんはいらっしゃいますか?」

フレデリカが尋ねると、弟子の一人が呼びに行き、奥からスーツ姿のカーネルが出てきた。薬を作っている様子はない。ここでも創薬は弟子任せらしい。

カーネルはフレデリカが手に鍋を持っているのを見てニヤリと笑ったが、目が合うとその笑みから悪意を隠した。

「いやあ、よく来てくれたな」

「先日、ご覧になりたいとおっしゃっていた小鍋って、これの事ですか?」

フレデリカが差し出すと、カーネルは鍋を手に取った。

使い込まれた古い鍋。古いなりにピカピカに磨かれ、内側には何かの文字が書かれているが、磨き傷がついてはっきりとは読めない。

「こ、…この鍋を磨いたのか?」

「道具を手入れするのは薬師として当然のことですから」

鍋を磨く。それは確かに当たり前のことだ。だが、よりによってこの鍋を文字が薄れるほどにガシガシと磨き込もうとは…。価値を知らないとはいえ、あまりにも愚かな行為に、カーネルの口調は荒くなった。

「物には物にあった手入れというものがあるだろう! トバイアスは何も言わなかったのか!」

「師匠に綺麗にしておけと言われましたので、その通りにしました。…この鍋、何か特別なんですか?」

何も知らない純朴そうな顔で首をひねるフレデリカを見て、カーネルは自分が肝心なことを何も言わずこの鍋を持って来させていたことを思い出した。

「い、いや、…とにかくだ。こんながらくたを使っていてはよくない。おお、そうだ。新しい鍋代をやろう。これで鍋を買って師匠を喜ばせてやれ」

カーネルは鍋をフレデリカに返すことなく、大銀貨2枚を投げて渡した。

あの鍋の対価が大銀貨2枚? ふーん。

フレデリカは何も知らないふりをして、それを受け取った。

鍋を手に入れた途端、カーネルは態度を変えた。

「そうそう師匠を変えても評判が悪くなるだろうし、おまえはもうしばらくあの師匠のもとで修業を積んだ方がいいんじゃないか?」

つまり、弟子に取る話はないということだ。もともとカーネルの弟子になる気はなかったフレデリカは、カーネルが見せた小バカにしたような笑みにも気付かないふりをして、

「そうですね。では失礼します」

と挨拶を済ませると、鍋を取り返そうとすることもなくすんなりと店を出ていった。

実に扱いやすい、間抜けな弟子だ。あの師匠にしてあの弟子あり。

カーネルは念願の鍋を手に、くっくっくと笑い声をあげた。

ようやく手に入った、魔女の薬鍋。価値のわからない者のせいで傷がいってしまったが、修復すれば何とかなるだろう。

トバイアスは最近はましな薬を作っていたようだが、この鍋を手放してしまえば格段に質は落ちるだろう。早くあいつが薬師をやめ、店が売りに出されれば、即座に買い取って魔女が残した魔道具が他にもないか確認したいところだ。

鍋は魔法の文字が削がれたせいか充分な効果はなく、魔法使いのもとに修復に出したが、高い金を出した割に半分も読み解けなかった。

それでも魔女の作った魔道具だ。普段は創薬に使わず、大事にガラスケースの中に飾られていた。

結局、カーネルはそれがフレデリカが市販の鍋を使って作った模造品だと気付かなかった。あれに付与された魔法の質も、その意味もわかってはいないだろう。恐らくどこかでこの鍋を使って魔女が薬を作る所を見たことがある程度で、魔道具を見極める能力があるわけではなさそうだ。

使わない鍋は鍋ではない。飾りなら模造品で充分だ。模造品だろうと魔法使いが魔法を付与したものであり、魔道具には違いない。