軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8 報酬はしっかりといただいた。

このところよく売れている毒消しの在庫がなくなり、カーネルは弟子であるマークに追加を取り寄せるように言った。しかしマークからは

「あれはもう手に入りませんよ」

と返事があった。

「持ってきてた子がこの街を離れたらしいですよ。何度か作り方を聞き出そうとしたんですが、本人も知らないようで、材料もわからず再現できませんでした」

「なんだ、まだまだ修行が足りんな」

自分は再現しようともしなかったくせに、と思いながら、マイクは不満げなカーネルにしれっと言った。

「カーネルさんが聞けば、仕入れ先くらい教えてくれたんじゃないですか? お知り合いでしょう?」

「知り合い? 誰とだ」

「あの薬を持って来てた子ですよ」

「知らんぞ。誰のことだ?」

「この前、ここに来てたじゃないですか、古い鍋をもって。いつも毒消しを持って来てたの、あの子ですよ? てっきり知り合いだと…」

それを聞いて、カーネルは驚いた。

ということは、あの毒消しはトバイアスが作ったということか?

ずっと見下してきたトバイアスが、いつの間にかそこまで技量をあげていたとは。それは屈辱を越え、恐れをも感じさせた。

「そんな、まさか…。信じられん…」

薬は欲しいが、トバイアスに薬を売ってくれなどと言えるわけがない。

…いや待てよ、あんな薬が作れるなら、なぜ自分の店で売らないのだ?

カーネルの疑問は膨らんでいった。

よく効く毒消しを扱っていた店は皆販売をやめていた。取り扱っていた店の薬師から話を聞けば、やはりあのトバイアスの弟子から買っていたらしい。

トバイアスの店は弟子がいなくなって前以上に廃れている。あの薬はトバイアスではなく、どこか他から仕入れていたとしか思えなかったが、本人がいなくなったこともあり、仕入れ先はつかめなかった。

洞窟のヌシらしきオオトカゲが討伐されると付近の魔物は減っていき、街を訪れる冒険者の数も減っていった。

半年後、トバイアスは薬師をやめ、店を売って街を離れる決意をした。

トバイアスは一度覚えた遊びをやめられず、再び賭け事に手を出して借金を重ねていた。店を開けている日は少なく、開けたところで客は来ない。借金返済するにはせっかく師匠から譲り受けた店を売るしかなかった。

元々薬を作る仕事が好きだった訳でもなく、ずっとこの店を重荷に感じていた。師匠との思い出があったところで店を手放すことに躊躇はなかった。むしろせいせいした気分だった。

店は以前から目をつけていたカーネルが買い取った。トバイアスは金を受け取り、カーネルに鍵を渡した。

「行く先は決まっているのか」

そう尋ねたカーネルに、トバイアスは苦笑いを見せた。

「とりあえず隣町で食料品店の店員募集があったんで、…もう薬師はやめるよ」

「あれだけの毒消しを作れるなら、真面目に働けば食っていけるだろうに」

「毒消し…?」

トバイアスにはカーネルが何の話をしているのわからなかった。

「おまえの弟子がうちに卸していたあの薬だ」

「俺に毒消しなんて作れる訳が…」

「だろうと思ったよ」

毒消しと言われて思い出した。

トバイアスの店にも毒消しがあった。隠すように置かれた毒消しは魔鹿の角と引き換えに渡したが、金貨1枚以上の価値があると冒険者に認められていた。あの薬のことを言っているのだろうか。

「他の店にも少しづつ納品していたようだが、あの娘がいなくなってからぱったりと手に入らなくなった。せめて仕入れ先がわかれば…。まさか、あの弟子が薬を作っていたのか?」

師匠のレシピに毒消しはなかった。薬師の弟子になって数カ月のフレデリカにそんなすごい毒消しが作れるとは思えない。

「いやあ、そんなことはないだろう。きっといい伝手を持っていたんだ」

「そんな伝手があるなら、何故おまえのところに弟子入りしたんだ?」

二人は言葉を失い、それ以上話すことはなかった。

薬屋を買い取ったカーネルは、他にも店の中に魔道具が残っているだろうとあちこち探し回った。

探している最中に見つけたのは、庭に置かれた魔力の切れた魔石と、枯れた南国の薬草。

やたらと質のいい井戸水は重宝しそうだったが、井戸の中から魔物の骨が見つかり、瘴気で汚染されないよう引き上げて、魔法使いを呼んで浄化してもらった。

真新しい鍋。カーネルがフレデリカから引き取ったあの鍋と同じくらいの大きさだったが、内側にはくっきりと魔道具の鍋に似た文字が刻まれていた。

カーネルはこの新しい鍋を持ち帰り、それを使って薬を作ってみたが、品質は格段に良くなった。あの店の前の薬師が使っていた時よりもケタ違いに効果がある。

修復した魔道具の鍋も久々に出して同じように使ってみたが、どこが修復されたのかわからないほど効果は見られなかった。

あの弟子は、魔女だったんじゃないのだろうか。そう考えると全てが納得いった。

もしそうだったなら、弟子にしていたら今頃どれほどの利益を得ていただろう。いや、弟子どころか教えを乞うのは自分の方だ。あれだけの毒消しが間近にありながら、その技術を学ぶ機会をふいにしてしまうとは。

ふらりとやって来て、ふらりといなくなったフレデリカ。

フレデリカが今回の報酬として魔女の鍋のオリジナル、高級乳鉢、魔材の包丁を持ち去っていたことなど、誰も気づいてはいなかった。