軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22 ジェーン・ドゥへの贈り物(3)

それにしても、こうも順調に身を隠す算段がつくとは考えても見なかった。

おかげさまで、予想以上にトントン拍子で物事が進んでいる気がする。

先代様の紹介状という便利アイテムがもらえるなんて完全に棚ぼたレベルのシロモノだし、そもそもウィロウが知らないことだから私も知らなかったし、自分でも策を用意していたのだが。

まあ、その策というのもわりと行き当たりばったりというか、『どこか過疎地の村で哀れっぽく同情を誘えば匿ってもらえるだろう』くらいのものだ。

過疎地の村なら若者が少なく、猫の手も借りたいくらいだと思うので、労働力を対価にすればワンチャン行ける! という根拠のない自信によるものである。

……今更ながら、かなりチャレンジャーなことしようとしていたんだな、自分……。

「あ」

「? どうした?」

「戸籍を新しく作って身元を捏造するなら、外見も変えた方が良いですよね?」

「ん、ああ、そうだな。確かに、外見も変えられるなら、そうするに越したことはないが……」

「やっぱりそうですよね。……となると、髪型を変えるのが一番手っ取り早いか。あとは髪を染めたり、目の色を変えたりできると、それでだいぶ印象が変わるんだけどな……」

ぶつぶつひとりごとを呟きながら、外見を変える方法について思索する。

……そうだな、髪型を変えるのであれば、この長い髪をバッサリ切ってしまえばいい。

手入れされた綺麗な長い金糸を切ってしまうなんてもったいない、と思う気持ちもあるが、その程度なら取り返しがつく。

頃合いを見てまた伸ばせば良いだけの話なので、この際、一思いに短くするつもりだ。

「髪を切る? 正気かね?」

「王太子から逃げ切ることと見つからないことが最優先ですので。落ち着いたらまた伸ばしますよ」

ということで、先代様の消極的な反対はすげなく切り捨てた。

長い髪とは、それを手入れするだけの手間をかける余裕と財力があることを示す、貴族女性にとってのひとつのステータスである。

だからこそ先代様も止めようとしたわけだが……裏を返せば、『侯爵令嬢が髪を短くするはずがない』という先入観がある、ということ。

この先入観は世の中にあまねく浸透しているものなので、これだけでもかなり誤魔化せると思う。

だが、それでも、ウィロウの失踪が噂になれば、髪と目の色から邪推するヤツがいないとも限らないわけで。

ウィロウの容姿で一番の特徴といえる淡い輝きを放つ金髪に灰色の瞳──せめてどちらかの色を変えられるなら、それが一番良いに決まっている。

……え、顔立ち?

いや、もちろんウィロウは整った顔立ちの美少女ではあるのだが、とびきり可愛いかと言われると……正直、なんとも言えないところではある。

第一印象としては、可愛いよりは綺麗めの美少女。

ただ、主張の弱い髪や目の色と相まって少しぼやけがちというか、どうも周囲に埋もれがちというか……うん、ハッキリ言うとそんな感じだ。

それはウィロウ自身も自覚していたことなので、贔屓目なしの純然な事実である。

これは完全な余談だが、イルゼちゃんはウィロウとは逆に、可愛い感じの美少女ではあるものの、ありふれた髪と目の色で 十把一絡(じっぱひとから) げの印象が抜けきらないタイプだったりする。

なんでこう、王族と絡みのある女の子って顔の印象が薄い子ばっかりなんですかね……?

今の王妃様もウィロウやイルゼちゃんと似たようなものだし、王族の男ってのは皆そういう趣味なのか……?

下らぬ推測はさておき、こういう時は前世の技術が恋しくなる。

この世界には髪を染める技術がない──こともないが、出回っているのは粗悪品ばかりできちんと染まらないことが大半だし、コンタクトなんてもってのほか。

……店頭に染料が普通に売っていて、ネットでポチればあっという間にカラコンが届く文明がひどく懐かしい。

どうしてこの世界には魔法とかいう超越的な技術があるくせに、そのあたりの技術発展がおそまつなのか──

「……、魔法……」

ふと思い立って、髪をひと房、すくい上げるようにして手に取った。

それから魔力で髪を覆い、別の色──とりあえず前世で馴染みのある黒を染み込ませるイメージをする。

ゆっくりと、髪の毛の一本一本、根元から毛先まで浸透させていくように意識を集中させて……。

「!?」

「なんと……」

先代様とコードさん、二人が息をのんだ。

それもそのはず、今や私の髪はすっかり元の明るさを失い、暗く落ち着いた色合いと化してしまったのだから。

「思いつきでも上手くいくもんだなぁ」

手に取った髪をいじり、染まり具合を確認しながらひとりごちる。

まあ、それもたぶん、ウィロウの魔力の豊富さがあってこそなんだろうが。

流石は侯爵令嬢、ポテンシャルが高くて私は嬉しい。

「い、今、何を……?」

「魔力で髪の色を変えられるかと思って試してみました。どうですか? どこか染め残しがあったりはしませんか?」

「いえ……染め残しは、どこにも。とても艶やかで、美しい濡れ羽色をしておりますよ」

「お上手ですね。でも、ありがとうございます」

狼狽する先代様とは対照的に、さらりと賛辞を並べてみせるコードさんのスマートさに拍手。

……にしても、人に褒められるなんてずいぶん久しぶりなので、どうにもむずむずして仕方ない。

それがコードさんの仕事だということもわかっているが、わかっていたところでむず痒さはどうにもならなくて。

結局、気恥ずかしさを誤魔化すように茶化して笑うしかないのだった。