軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21 ジェーン・ドゥへの贈り物(2)

「わかった」

「!」

「そういうことであれば、私が伝手のあるギルドを紹介する。そこで新しい戸籍を作り、無理のない程度で依頼を受けて生計を立てるといい」

「えっ」

「ああ、それはようございますね」

「えっ」

ようやっと頷いた先代様に勝ちを確信したのもつかの間、とんでもない爆弾を投げつけられた件について。

戸惑う私を置いてけぼりにするようにコードさんが賛同し、頭の中は更なる困惑を極めている。

……え、待って?

ここでついて行けない私が悪いの、これ?

先代様がギルドを紹介してくれるのは良い。

彼が紹介してくれるということは、侯爵家からの信が厚いギルドであるということ。

肌に合うかは別として、信頼できる場所である、という要素は非常に大きい。

丁寧に足を運んでギルドの様子を確認して……という段階が必要なくなるならありがたいし、私も安心して所属できるので。

だが、『新しい戸籍を作る』とは?

戸籍なんて簡単に作れるものじゃないし、二重戸籍だとか、偽造戸籍だとか、そういう話になるのではなかろうか。

もしかして私、犯罪の教唆をされている……?

なんて、そう考えるのも仕方がない事だと思う。

学園の女子寮で小火騒ぎを起こしておいて何を今更、と言われるかもしれないが、あれは無事に脱出するために必要なこと。

ついでに言うと寮の管理者の火の不始末を利用して引き起こしたものなので、ウィロウに責任追及が及ぶことはない案件だ。

対してこちら──戸籍の捏造は完全に犯罪である。

万が一、戸籍の偽造がバレてしまえば、当事者であるウィロウはどう足掻いても追及を免れないだろう。

……そういうのは困るのだ。

ウィロウが心安らかに過ごせなくなる可能性の芽を、私は看過できない。

「何を心配しているかは想像がつくが、きちんと説明をするから落ち着きなさい。魔力が乱れて『威圧』と化している」

「……はい」

『威圧』がわざとだ、とは言わないでおく。

沈黙は金、余計なことは言わぬが吉だ。

「貴族が訳あって身を隠すため、ギルドに新たな戸籍を登録して名を変える──というのは、ままあることでな。まあ、夜逃げ、駆け落ち、亡命等々、理由は多種多様だが」

「ですが、それでは身元の捏造がし放題になるのでは?」

「君の懸念ももっともだ。そして、そうさせないために紹介状というものがある」

「紹介状?」

「ああ。ごく限られた者だけが発行を許されていて、これがなければ新たな戸籍の取得はできない。……つまり、紹介状を発行する側がされる者の身元を保証するから、新しい戸籍を作ってやってくれとギルドに依頼するための書状だな」

ふむ。紹介する側がされる側の身元を保証し、ギルドに身元捏造の手助けするよう依頼するための書面が紹介状……ということか。

なるほど、なるほど。

思わぬところで貴族とギルドの癒着──こほん、繋がりを知ってしまったが、なんとも都合のいい話があったものだ。

紹介者である先代様には私の所在がバレてしまうし、おそらく定期的に報告書なんかも上げられてしまうけれど、ウィロウ想いの先代様はその内容を他言することはないだろう。

新しい戸籍を取得してしまえば、おいそれと先代様宛ての手紙を出せなくなるのだから、近況報告の代わりとでも思えば許容範囲だ。

先代様は紹介者を『ごく限られた者』と言っていたが、こちらはまあ、大抵はその土地の地主や領主といった『それなりの地位にあり、なおかつ信用のおける人物』が最低ラインの条件なのだと思う。

ギルドに所属する人間の身元を捏造するのなら、当然お偉いさんにも目をつぶってもらわなければならないわけで。

かといって、信用ならない人間が紹介する人物にポンポン新しい戸籍を与えてしまっては、犯罪が横行してしまう。

その辺の見極めが難しいぶん、ギルド側が紹介状を発行できる人間を選ぶ選考基準も恐ろしく厳しいことは想像に難くない。

……先代様はその基準をすべてクリアした猛者、ということか。

やはり先王陛下の側近は一味も二味も違う傑物らしい。

そんな人物を祖父に持つ、ウィロウの人脈のすごさよ……。

「我々貴族は領地運営にあたり、ギルドとは切っても切れない関係にあるだろう? だからこそ、持ちつ持たれつの関係を維持するためにも、こういった工作をすることもあるわけだ。……とはいえ、身元の捏造をしていることに変わりはないから、ギルドメンバーとしての活動に対して制限がかかるのだが」

「当然ですね」

その制限がかかっても構わない、と言ってのけるくらい切羽詰まった人だけが紹介状の恩恵に預かるということか。

まあ、実際に紹介状を書いてもらうにしても、信の置ける人間だと紹介者に思ってもらえなければ不可能な話ではある。

グレーなことをしているだけあって、やはりその辺の基準はシビアなのだろう。

「……」

「どうかしたか?」

「ああいえ、単純な興味なので、答えづらかったら構わないんですが……国はこの紹介状システムを知っているんですか?」

「何、暗黙の了解というヤツさ。私たちが身を偽るために利用するものを、王族が利用しないとは限らない。そうだろう?」

「……そうですね」

先代様に若干ひきつった笑顔で頷く。

……いや、うん。

確かに訊いたのは私だが、こんなサラッと暴露していい話でもないと思う。

今のセリフを意訳するなら『過去に王族も新しい戸籍を作ったことがあるんだから、黙認するに決まっている』といったところか?

ここは『そういう時代もあったのだろう』と軽く流しておくべきか、『当たり前のように先代様が口にするなら先王陛下の時代に実行されたのでは?』と憶測すべきか迷いどころである。

……心の平和のためにも前者にしておこう。

好奇心は猫をも殺すという言葉があるくらいだし、要らぬ邪推はかえって身を滅ぼしかねないから。