軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23 ジェーン・ドゥへの贈り物(4)

流石に時間が遅いからと、続きはまた夜が明けてから話すことにして場はお開きとなった。

私が使う客間に近寄れるのは先代様とコードさん、それから古参のメイド長さんだけなので、ゆっくり休むようにとは先代様の言葉だ。

客間に対してかなり強力な人除けが使われているのは確かだったので、彼の言葉に嘘はないのだろう。

ありがたく申し出に甘えることにして、大人しく休ませてもらうことにした。

そして私はおやすみ三秒。

目覚めはなんと、お天道様がてっぺんに昇り切ってからというていたらく……!

ありえない事態に驚きすぎて、起きて早々に心臓が縮む目に遭った。

というのも、この数日、一度だってまともに寝られた試しがなかったのだ。

身体を休めようにも寝つきが悪く、ようやく寝られたと思えば三十分も経たず目が覚めることの繰り返し。

そんな有様が続いていたので、先代様の言葉に甘えることを決めた時も、どうせ眠れずに夜を明かすことになるとばかり思っていた。

……熟睡を超えて爆睡した理由には、なんとなく心当たりがある。

恐らく、学園からの脱出を果たし、先代様のお膝元で守られていることで、私は安心してしまったのだろう。

しっかり睡眠を取れて心身ともに疲労状態から回復できたのは良いことだが、だからといって気を抜きすぎるのはよろしくない。

先代様の庇護に入ることを選ばなかった以上、これからは自分の身を自分で守る必要がある。

安心できる状況にあっても警戒を怠らないよう、しっかり気を付けていかなければ。

食事をいただいてからは、先代様の執務が終わるまでの時間を一人で過ごした。

お忍びで先代様のお屋敷に来ている以上、部屋の外をうろうろと出歩くべきではないからだ。

そんなことをしてウィロウの両親に居場所をリークされようものなら、折角の努力と工作が水の泡になってしまう。

元の木阿弥なんてのは私もごめんなので、待ち時間はあれこれと魔法を試すことに費やして──

「そういえば、髪の色を変えてからの 自分(ウィロウ) の顔、まだ見てないな」

髪の色を変えたことを思い出し、室内の鏡台を覗いてみることにした。

『流石に目の色まで変えるのは危ないのでは』と言われ、そちらはやめておくことにしたのだが、はてさて今の容姿はどんなものか。

黒髪に灰色の瞳なら、いくぶん印象も変わって見えるはず。

鏡で見た時の様子と印象によっては、また別の色にするのもやぶさかではないけれど……。

「……おお」

え、待ってすごい。普通に似合ってる。めちゃくちゃ美少女。

流石はウィロウの顔だ……!

黒い髪の効果でがらりと印象の変わったウィロウの顔に、テンションが上がって残念な語彙力になってしまった──が、それでは何もわからないので、詳細な説明をする努力をしようと思う。

……といっても、ちょっと気を抜くとすぐにアホな表現しかできない語彙力(笑)になってしまうため、どこまでできるかわからないけれど。

元のウィロウは髪も瞳も色味が淡く、印象に残りづらい顔の美少女である。

しかし、髪の色を黒という濃くハッキリした色合いに変えたことで、メリハリが出たとでも言おうか?

濃淡と明暗、この対比がほどよく調和し、ウィロウのぼやけがちな顔の印象が明瞭になってきたのだ。

夜の間に変えたのは髪の色だけだったので、眉やまつ毛の色も黒に変えて……と。

「あっやだ、待って何これすごい可愛い。これで中身が私じゃなければ百点満点だな!」

……自画自賛が過ぎる?

いや、この顔は私のものじゃなくてウィロウのものなんで。

私が褒めてるのはウィロウなんで。

私の顔は前世の顔だから、うん、あくまでこの身体は借り物という認識なのだ。

だからセーフ。ナルシストとかそんなんじゃないよ。ただウィロウの顔が好きなだけ。

……それはそれで問題発言な気がするが、まあいいか。

せっかく鏡台の前に立ったことだし、このまま髪も整えようかと思い立った。

そのためには刃物──できれば鋏と、あとは床に何か敷くものが欲しいところである。

切った髪をそのまま絨毯にポイポイ落としていくのは、ほら、庶民的感覚としてはちょっと……。

いや、ここが自分の家で、なおかつ絨毯が安物なら別に気にしないのだが、ウィロウの祖父とはいえ他人の家かつ侯爵家御用達の超高級品な絨毯では流石にね? という話だ。

敷物……は、後回しにして、とりあえず刃物を探すことにする。

見つけやすさを考えてのことだが、よくよく考えてみれば、客間に刃物なんて置くわけがないよなということに気付いた。

あってもせいぜいペーパーナイフくらいのもので、普通のナイフや鋏は探すだけ望み薄。

ペーパーナイフでも髪は切れるかもしれないが、無理にやろうとして失敗したら目も当てられない。

ここは素直に、コードさんかメイド長さんを呼んで頼むのが安牌だろう。

というわけで、用聞きに来てくれたメイド長に鋏と敷物の用意を頼んだのだが……その用途を伝えたら、泡を吹く勢いで真っ青になって部屋を飛び出してしまった。

……いや何故?