軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

更なる急転、渦中の者は過去と決着を付ける

ヴィクトリアの、あまりにも堂々とした宣戦布告。

対するディアナは――瞳に怒りの炎を燃やしつつも、どこか喜悦を滲ませたような表情で大剣を抜いた。

無骨な剣がカジノのホール床に叩き付けられ、耳障りな音が鼓膜を破く勢いで剣の重さを主張する。

「……いいぜ、退屈していたところだ。おめェの剣がどんだけのモンか、あたいに見せてみろやオラァ!」

騒動は、言うまでもなくカジノのホール全体へと広がった。

現バート帝国には、当然ベテランの冒険者だって多い。

実際このカジノにいる人間も、【剣士】の 職業(ジョブ) を与えられた者が多いだろう。

だが、剣闘士はまた違う。

普段から戦いの中に身を置いている者の剣は、それ以外の者とは一線を画するのだ。

「手を出すなよ。あたいの勘だが、あの女はあんたらじゃ手に負えねえ。死にたくなけりゃ、逃げな」

「人のことをバケモノみたいに呼ばないでもらえる?」

「ただのバケモノで収まりゃ、あたいも戦いやすいんだがな」

ディアナの言葉に、控えていたスタッフ達も顔を見合わせて後ろに下がる。

スタッフは無論のこと、他の客もディアナから離れるように逃げ惑う。

俺やエミーも前衛として武器を構えるものの、それをヴィクトリアがやんわり制した。

「ラセル君、エミーちゃん。あなた達の剣は、人を護る時に使うもの。こういう汚い金銭のやり取りで出すものではないわ」

「ヴィクトリア、お前は……」

暗に『一人で戦う』と宣言したヴィクトリアに対し、二の句が継げなくなる。

「ブレンダにとって、ラセル君は本当に英雄なの。だから、絵本の中から出た聖者様でいて。ね?」

……ブレンダのことを引き合いに出されたら、引くしかないじゃねえか。

もどかしさに歯噛みする俺に対し、ヴィクトリアは緊張など微塵も感じていない雰囲気で笑ってみせた。

「それに、こういう相手は私みたいな人の専門だから」

紫の髪が揺れ、再び彼女の顔が向こうを向いたと同時――外から特大の音が鳴り響く。

これは、西門の警告音!

半月現れなかった魔峡谷の魔物が、今現れたというのか!?

「くっ、こんな時に!」

「みんな、行って。 此(こ) 処(こ) は 剣闘士(わたし) の場所。誰にも譲らないわ」

ヴィクトリアの言葉にまだ踏ん切りが付かない俺達だったが、シビラが一つの提案をする。

「マーデリンはここに残すわ、それ以上は譲れない。いいわね?」

その言葉に、マーデリンが事情を理解して頷く。

職業(ジョブ) は明かしていないが、マーデリンはこれで【賢者】だ。

いざとなった時は、ディアナを止めてくれるだろう。

「とはいえ、負けたらあんたクソかっこ悪いわよ! 絶対勝ちなさい!」

「ブランク長いのよ? まあ、善処してみるわね」

ヴィクトリアの言葉を聞き、すっかり人のいなくなったカジノから俺とシビラは同時に出た。

いくらか戸惑っていたエミーとジャネットも続き、最後にイヴがヴィクトリアの後ろ姿を焼き付けるように見ながら建物の外へと出た。

勇気と無謀、信頼と放任は違う。

ヴィクトリアの決断が前者であることを希望的観測で見ながら、俺は西門へと走った。

魔物襲来の警告音。

結論から言うと、俺達が西門に辿り着くことはなかった。

「……何だあれは」

辿り着く前に、門を飛び越えて魔物が現れたのだ。

その見た目を一言で言うと、一つ目のバット。

あのセントゴダート第九ダンジョン下層で見た、シビラが『超悪趣味』と断じたキメラの小型版のような見た目だ。

問題は、それがいくつも空に浮かんでいることだ。

マジかよ、悪夢だな……!

「分類しづらいのが来たわね!? 何なのこれ、ゲイザーキメラ? つーか、外でこれが出るなんて……!」

そうだ、以前のフロアボスは、あの目から岩ですら焼きそうなほどの熱線を放ったのだ。

あの時ほどの個体ではないが、明らかにマトモな造形ではない魔物は目を光らせると、目から炎を吹き出した!

意味が分からん。

が、これは恐ろしく厄介だ。

ダンジョン内部と外では、空を飛んでいる魔物の厄介さが段違いだからな。

冒険者達も、剣士は武器を構えたまま建物の陰に逃げ込んでいる。魔道士は攻撃を当てられずにいるようだ。

「シビラ、力を解放する。出し惜しみはなしだ」

「でしょーね! あんたが我慢できるタイプじゃないのは知ってるわよ! 相も変わらず聖者しちゃっててクッソむかつくわね! 存分にやんなさい!」

こんな時でも平時と変わらないシビラの悪態に内心呆れつつも、気が楽になる。

俺は剣を構えて、緊急回避魔法を空に向けて使った。

「《ウィンドバリア》。……行くぞ、《シャドウステップ》!」

空を悠々と飛んでいた魔物は、突如現れた俺に対し、咄嗟に反応できなかった。

「《ダークスプラッシュ》!」

それでもいきなり回避されないよう、広範囲の闇魔法で相手の出方を見る。

目玉キメラ野郎は反応できず、俺の魔法攻撃を思いっきり浴びた。

『ギゲエエエエッ!』

「予想外にやかましいなおい!? さっさと落ちろ!」

形容しがたい叫び声を上げた魔物に対し、シャドウステップで相手の後ろ側に回り込んで……羽を切り落とす!

『ゲェーーー!』

羽を失った目玉の魔物が、地面に落ちる。

近くで待機していた冒険者達が、落ちてきた魔物と俺を交互に見た。

「それならあんたらも倒せるだろう! 次々落としていくから処理してくれ!」

「……」

俺の言葉を肯定したのかしていないのか、こちらを無言で確認した後に冒険者達は落ちた魔物を斬っていった。

大丈夫かは分からんが、倒してくれるのなら何でも構わん。

「ラセル!」

「エミーはシビラのフォローを頼む。ジャネットとイヴは、恐らく大丈夫だろう」

ジャネットは、遠距離攻撃の手段において他の追随を許さない。

イヴは投げナイフの危険性をすぐに理解し、こちらを確認しつつも街の子供や年寄りを助け起こしたりしている。

さすが判断が早い、あれなら被害を最小限に抑えてくれそうだ。

「ドラゴンよりは遥かに格下だ。手分けして片付けてくれると助かる。任せられるか?」

「う、うーん……すぐに戻るね!」

エミーらしい回答に「それでいい」とだけ伝え、俺はすぐに次の魔物へと飛び立った。

次から次へと湧いてきている、休んでいる暇はないだろう。

さて、あと何体倒せるか。

俺は魔物を倒すとカジノを振り返り、一人残されたブレンダの母親の後ろ姿を思い出す。

——お前は俺に、まだ勝ちを譲っていないんだ。

こんなところで負けるんじゃねえぞ。