軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帝都に入る直前に、見知った顔

馬車をいくつか乗り継ぎながら、帝都へと向かう道。

王国東側にある魔道具の街マデーラから、更に北。ここからの距離が、かなり長い。

マデーラには、食料や魔道具の補給に立ち寄る。

特に魔道具関連はジャネットとイヴが希望し、皆で品物を見て回ることになった。

顔を見ておきたい人もいるが、フレデリカもいないし会うこともないだろう。

と思ったのだが。

「まさかの見知った顔発見!」

「えっ、あれ? シビラさん!? うわーシビラさんってことはラセルさんも! もちろんフレデリカさんも!」

「いないぞ」

「残念!」

会いに行くつもりはなかったが、立ち寄った魔道具の店には見知った赤髪のシスターがいた。

アシュリーは以前、マデーラでの『赤い救済の会』による暗躍の、紆余曲折の末に仲間となった。

魔王を束ねる魔神との戦いは、記憶に新しい。

「お久しぶりですっ!」

「エミーちゃんも元気そうで何よりです!」

明るく声を交わし、後ろの初顔合わせだった皆とも挨拶を済ませた。

「それにしても、何故またこちらに? 急ですよね、観光ですか? それともまさか、私に会いに?」

「会いに来たと思うか?」

「聖者様のパーティーの皆様相手とあらば、少年を惑わす美貌の未亡人たる私も一歩及ばないですね!」

本気なのかネタなのか分からないが、兎にも角にも以前と会った時と変わらぬテンションの高さである。

「用件は、ここから北のバート帝国にある。俺達はそれまでの補給として立ち寄ったんだ」

「バート帝国って、また難しい場所に行くんですね……」

「王都ギルドマスターから直々の依頼で、同時に俺達の本来の用事もある。後は『魔峡谷』による影響の調査も兼ねている」

魔峡谷の単語を出した瞬間、それまで明るかったアシュリーは苦々しい表情をした。

「あれの調査とか、さすが聖者様ですね。こちらでも影響は出てますよ」

そうだろう、マデーラはすぐ北東に魔峡谷の切れ目があるのだ。

アシュリーは、この街の近況を話し始めた。

「まず最初の変化は、外でも日常的に魔物が襲ってくるようになったことですね。バットは稀にいたんですが、最近は普通にゴブリンが徘徊しているんでびっくりですよ。ただでさえオークの騒動から日が浅いのに」

やはり、ここら辺りでも魔物が出るようになってたか。

セントゴダートは魔峡谷の西側。どうしてもバート帝国に隣接した南東側のマデーラでは不都合が出る。

「ああそうだ、すぐに王都から指示が出て、『マジックバリスタ』という巨大なクロスボウが街の壁に配備されました。地面が割れる前から女王様の指示が来たって噂もありますけど、お陰様でだいぶ楽させてもらってます」

なるほど、シャーロットが外での戦いを考えて、自らの『弓矢』という武器に関連する飛び道具を配備させたのか。

ダンジョンによっては狭い場所がある以上、シャーロットは弓術士を女神の職業に含めていない。

個人的に持つ戦士や術士もいるが、弓しか使えないという 職業(ジョブ) ではダンジョン攻略は難しい。

故に、ジャネット曰く弓専用の 職業(ジョブ) はシャーロットの専売特許であった。

だが、魔峡谷の影響で地上には多くの魔物が現れることになった。

遮蔽物のない地上において、矢を射ることは効果が高い。

「外ならクロスボウを集団で撃てますんで。パーティー人数制限もないですし」

「ボスフロアという概念自体ないからな、狭い壁もないだろうし」

「そういうことです。あと屋外用に追加されたものは他にもあって——」

アシュリーから新たな魔道具を紹介され、シビラとジャネットが必要そうなものを見繕った。

ここで現地の有用な情報を得られたのは結果的に大きなプラスになったな。

一通り、買うべき物を買った後。

「院には寄れないですか? マイラも絶対会いたがるっていうか、私だけ会ったなんて知られたら口きいてくれなくなりそうで」

「そんなことないだろ。とはいえすっかり暗くなったしな……シビラはどうだ?」

「天使ちゃんに会いに行きたいわ!」

まあ、お前ならそう言うよな。

イヴを招き入れた後は当たり前のようにセイリス孤児院で全員に声をかけていたし。

「分かった。アシュリー、人数も多いから宿代と食費は出す。調理はシビラがするよな?」

「そこはフレっちとラブラブ料理教室やってたあんたがやるんじゃないの〜?」

「おい変な冠をつけるな」

確かにフレデリカの隣で料理を手伝っていたが……おいイヴ、露骨に面白がっているな。

ヴィクトリアは「息子に料理を作ってもらうというのは憧れるわね」と母親気分だ。

やれやれ、行く前から心労だな……。

マデーラの孤児院に着いた俺達を、熱烈な歓迎で出迎えてくれた。

「うおっシビラだ!」「シビラじゃん!」「シビラさん……!?」

相も変わらず妙に子供にだけは人気のシビラに皆が反応し、すっかり気を良くした精神年齢同い年女神が「ただいま〜!」なんて挨拶とともに交ざっていった。

いやお前すぐ出るからな。

その中で二人、シビラではなく俺の所にやってきた子供がいた。

「ラセル様、お久しぶりです」

「ラセルさんも来てたんだ」

アシュリーの娘マイラと、解決のキーマンとなったベニー。

へえ、以前見た時よりは仲良くなってそうじゃないか。

「二人とも元気そうだな」

「夜はもちろん子供は出歩けないけど、前より断然明るいよ」

「お陰様で問題なく……と言いたいところですが、やはり谷から現れた魔物は不安ですね」

マデーラは街灯も街壁もしっかりしているし、夜の闇に魔物が溢れることはない。

……そんな環境でも、魔峡谷の影響は大きいようだ。

王国全土に影響する魔峡谷、何とか原因を探らねばなるまい。

エマのお抱えがいなくなった件も含め、あのケイティが何か糸を引いている気がするのは、俺の思い過ごしだろうか……。

どちらにしろ、こいつらのためにも何としてでもあれは塞がねばなるまい——。

「あっ、くろすけもいるじゃん」

「クローエさんお久しぶりです」

「この会話も懐かしいな……ラセルだ」

「どうしたんですか、ライザさん」

他の子らもやってきたところで、シビラを交ぜての雑談となった。

相も変わらず俺は黒いのだったし、最後の少女は名前を間違え続けた。

……ま、こういうやり取りを含めて変わらないようで安心できるな。

「何がどうなったらラセルがライザに?」

「いやあいつの言葉は気にするな……」

ジャネットのごもっともなツッコミに溜息をつき、約束通り料理の手伝いに向かった。

ヴィクトリアも手伝った結果、食事はかなりのボリュームとなり会話も盛り上がった。

翌朝、まだ太陽が出る前の肌寒い時刻。

帝都までは距離があるので、静かに街を出ることとなった。

「思いの外たくさん補給できてよかったわ」

「それは魔道具の意味か? それとも」

「両方!」

うちの子供好き相棒は、子供との交流で何らかのエネルギーを存分に補給できたようだ。

まあ四件立て続けに孤児院に寄ってるからな。

馬車の窓から見える赤い髪の早起きシスターに挨拶をする。

「それじゃ、あいつらによろしくな」

「起きるまで待ってても名残惜しくなっちゃいますしね。それじゃ聖者様に女神様、皆様、どうかご無事で」

両腕を元気良く振るアシュリーに軽く手を上げて応え、俺達は北を目指した。

次が未開の地、帝都だ。