作品タイトル不明
最後のメンバーは海の街に
「マジっすか」
「マジっす」
青空の下、懐かしい潮風の香りを受けながらシビラは目当ての人物へと直行した。
俺から誰か言わずとも、この特徴的なしゃべり方は分かるだろう。
「連絡もなく急に訪ねてすまないな、イヴ」
「いやいやいや! むしろラセルさん達ならいつでもオッケーっすよ!」
最後に会った時と変わらない明るさで、セイリスの街で活動する孤児院出身の冒険者イヴはからっと笑った。
イヴのことを振り返ろうと思う。
彼女は港町セイリスの孤児院にいた少女で、 職業(ジョブ) は【アサシン】という上位職だ。
戦い方はスピード特化で、魔物の急所を的確に狙う。
気配を消してナイフを投げるなど、できることのバリエーションは多彩だ。
そう、彼女の能力はまさに斥候に最適なのだ。
シビラの言っていたエマの約束を果たすということは、このことだろう。
「といっても、そちらの現在の生活や予定もあるだろうし、もし難しいようなら遠慮なく言っていいわよ」
「そりゃそっすね、とはいっても新しいシスターも来てますんで。今はセイリスに魔王はいないし、パーティーの皆とも話つけてくるっす。あ、一緒にどうっすか? 久々に」
イヴの言葉からして、パーティーは今も変わらないのだろう。
俺とシビラとエミーに、ジャネットも希望して四人で目的地へ向かった。
街の市場から近い場所、便利な一等地にあった大きな建物。
その扉をイヴは叩いた。
「あたしっすー!」
「はいはい、聞こえてるよ〜……って」
大きな声に反応して、中から女性が顔を出す。
イヴの方を向いた後、俺達を見て目を見開く。
「お、お久しぶりです! おーい、ラセルさん達が来てるよ!」
あの日、ダンジョン内で俺が治療した【アサシン】の女性が声を張り上げ、家の中から男女四人が現れる。
セイリスのベテラン冒険者パーティー、『疾風迅雷』のメンバー達だ。
「シビラさん、あと聖者殿も!」
「ああ、久しぶりだな。エミーとも会っていると思うが、今日は用件があってきた」
「そうか、大所帯だな! 立ち話も何だから、入ってくれ!」
リーダーの言葉に頷き、パーティーハウスへと入らせてもらった。
中も立派なもので、様々な武具だけでなく、調度品や服飾の棚などもある。
そういえば、ここでエミーに腕輪を買ったんだったな。
セイリスは観光地としてはもちろん、その観光客に向けた宝飾品なども取りそろえられている街だ。
もちろん、地元民もその美しい品々を求める。
それにしても安くはなかったと思うが、かなりの数があるな。
「あらあら、すっかり羽振りが良くなってるじゃない。いいわよね、セイリスのアクセ。王国内でも高水準だと思うわ」
シビラも同じことを思ったようで、その指摘に女性陣は顔を合わせて笑った。
「いやー、仰るとおりで。私、セイリス育ちだから昔から憧れてて。シビラさんのお陰で、たくさん買いそろえられました」
「……ん? アタシのお陰?」
普段自信満々で有り難がらせるシビラも、彼女の言葉にはぴんときていないようだった。
「『第四』でドラゴン倒したの、皆さんでしょ? イヴに誘われて、あの鱗や牙を剥ぎに行ったのよ」
「えっ、あれイヴちゃん独占しなかったんだ?」
「二体っすから。一人じゃ運べるの限界あるし、まあウィンウィンってやつっすね」
そういえば、アドリアで祭りになるぐらいファイアドラゴンの素材は貴重なものだったな。
ニードルアースドラゴンは巨大だった上に、二体いた。
あの素材がそのままパーティーの収入になっているのなら、そりゃあ莫大なものになっているだろうな。
「特に、王都のドワーフが来て『角が特徴のドラゴンだ』って見抜いて、鱗全部と角二本が釣り合うぐらいの、目玉飛び出るような価格で即決だったのよ」
なるほど、それで納得がいった。
このパーティーハウスも、宝飾品の数々も、その時の収入によるものなのだろう。
「いやー、全員の生涯分ぐらいはあれで稼いだんじゃないかってぐらいだったな」
「言えてる言えてる。俺も今となっちゃ、特別欲しいものはもうねーわ」
剣士の男が自分の腰に提げた長剣を叩きながら笑った。
いい雰囲気だ、これなら話を切り出してもいいだろう。
「実は相談があってだな……」
俺とシビラは、イヴを勧誘するまでの経緯を丁寧に話した。
「——というわけなんだ」
「なるほど……」
リーダーの男は一通り聞くと、黙して皆の顔を見回し、最後にイヴの方を見た。
「改めて聞くが、イヴはどうしたい?」
「もちろんついていきたいっす。元々アサシンの先輩もいますし、魔王いないから変に襲われることもないんで自分がいても過剰戦力かなって」
「そうだな。パーティーとしても、ここで王都ギルドマスターのエマ様に恩を売れるのなら売っておきたい」
リーダーは改めてパーティーメンバーを見回した。
「皆はどうだ?」
「イヴが望むなら、引き留める権利はない」
「んー、イヴちゃんがいなくなるのは俺としちゃーちょっと残念だけどね」
「うん、私も名残惜しくはあるけど、応援したい」
三人がそれぞれ答えたところで、最後にアサシンの女性がイヴの近くに座った。
「行ってほしくないけど、行かなければならない場面だもんね。仲良くなったから、名残惜しいな」
「あたしもっすよ。ほんと世話になりました。いろいろ教えてもらって……孤児院じゃ年長だったから、実の姉ちゃんがいたらこんな感じかなって思ってたっす」
「ふふっ、嬉しいな。私もイヴのこと、可愛い妹みたいに思っていたよ。妹にしてはできすぎていて、私の方が教えてもらうことばかりだったけどね」
二人は軽くハグして、笑い合った。
……いい関係になったんだな。
用件が緊急事態だからとはいえ、こうして馴染んだイヴの仲を裂いてしまうのは申し訳なくも思うな。
「あ、聖者さんは何も後ろめたくないからね。元はといえば、あなたに命を繋いでもらったからこうして元気でいられるわけだし、シビラさんのお陰でイヴとも知り合えたんだから」
「そうか……そう言ってくれると、俺としても助かる」
「ただの事実だって。でも可愛い妹分なんだから、仕事が終わったらちゃんと無事に返してね?」
「ああ、【聖者】として無事は絶対だと約束しよう」
俺の力を知っている彼女は、曇りのない表情で頷いた。
それに続く形で、他の皆も俺達へと頷いた。
それから互いの近況を話し合い、皆を交えての軽い交流会となった。
とはいえ、魔王を倒したセイリスは無事そのものとのこと。
「ただ、『魔峡谷』のことは聞いている。ダンジョンから魔物が現れなくなっても、北から襲ってくる可能性もあるってわけか」
「ああ。俺達はその根本の原因を探ることも目的としている。あんなもの、閉じた方がいいに決まってるからな」
「なるほど、なら結果的に俺達の為にもなるってわけか。応援させてもらうよ」
「ああ」
リーダーからの言葉に頷き、俺達は決意を新たにした。
そうだ、今回の問題は俺達だけの問題じゃない。
こうしてダンジョンの魔物の数を減らしている冒険者達の役割が、ダンジョンの外での生活を守るためのものなのだ。
それが脅かされる『魔峡谷』を塞ぐことは、人類全てにとっての悲願となる。
一通り言葉を交わして。
「それじゃ皆さん、お世話に……お世話になりましっ……」
イヴは最後の最後に抑えていたものが決壊し、腕で涙を拭きながら、片手を大きく振った。
『疾風迅雷』のメンバーも、笑ったり泣いたりしつつも皆が明るい顔でイヴを見送った。
なお、こっちではエミーがもらい泣きしていた。
メンバーは揃った。
ここからマデーラを目指し、更に北が遂にバート帝国となる。