軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

孤児院の謎が新たな謎を呼ぶ

「つーことなんだが、任せていいか?」

「当たり前さね、うちの子らも友達が増えて嬉しかろうて」

ジェマ婆さんは笑いながら、隣に来た新顔の茶髪を撫でる。

昨日あれから話がまとまり、ヴィクトリアは俺達と共に帝国へ同行してくれることで話がまとまった。

ただ、その際に当然『ブレンダをどうするか』が問題となる。

ここでヴィクトリアは、可能ならば孤児院の方へ一時的にブレンダを預けることを考えた。

ブレンダから孤児院に遊びに行くことも多くなり、友達も増えていたのを見てのことだ。

ジェマ婆さんが信用に足る人物ということも、ヴィクトリアは長い付き合いで理解していた。

そうして、ジェマ婆さんは二つ返事で了承したというわけだ。

「そういえばラセル、イザベラには会ったかね」

「ああ、王都の院長だよな? 厳しい雰囲気だったが、印象は悪くなかったな。知り合いか?」

「そりゃもう、あの子はあたしが教育したからね」

へえ、ジェマ婆さんはあのイザベラ院長とも関係があったんだな。

現院長である人の先輩となると、なるほど孤児院管理メンバーであるフレデリカがジェマ婆さんを信頼しているのも分かるな。

ジェマ婆さんにはシビラとも話をし、他の先生の話や王都の子供の話をした。

シビラの語り口調は実に愉しげで、婆さんも大声で笑っていたな。

「……それにしても、ジャネットちゃんはよく私のバックラーの使い方が帝国のものと分かったわね」

「それは、本で読んだからです。……ん?」

ジャネットがいつものように自らの知識の出所を話す途中で、ふと疑問に声を止めた。

俺も今の発言は、何か引っかかる。

「帝国の戦い方が、本に載っていたのか?」

「そう、なるね」

それは……何というか、凄いというのを通り越して奇妙だ。

以前ハモンドでシビラと行動を共にした時、俺は本屋で立ち読みをしていた。

剣技関係の棚を軽く眺めたが、ハッキリ言って帝国での戦い方なんて並んでなかったように思う。

ハモンドは、王都の次に発展した街だ。

そこでも揃わない本が、何故この孤児院の地下室にある?

「……私も確認していいかしら?」

ヴィクトリアの要望に頷き、俺達は疑問を解消しに地下室へと向かった。

それなりに大きな広さに驚きながら、ヴィクトリアが本棚に収まった一つ一つの背表紙を指でなぞる。

ジャネットに案内され、剣技を始めとした戦い方の本を見たヴィクトリアが、目を開いた。

「これは……いや、まさか……」

一つの本を手に取り、ぱらぱらとめくっていく。

ジャネットが感心したように頷いた。

「まさに、その本です。バックラーの戦い方が載っていると——」

「そうよね、24ページから載っているのよね」

「——……え?」

ヴィクトリアは既に本を閉じており、瞼の裏に浮かべるように目も閉じた。

「対人戦、花形の【剣士】によるパリイと崩し方。鎧と鎧がぶつかる【重戦士】の大槌のぶつかり合い。盾持ちの相手を狙い倒すショーテルの戦い方や、人間同士での拳や短刀を使った高速武技まで」

すらすらと喋る内容に、ジャネットは息を吞んだ。

「まさか、そういうことなのか……!?」

「ええ」

ヴィクトリアは背表紙に指を引っかけてカバーを外し、隠されていた裏表紙を掲げた。

「この本は、私も読んだバート帝国闘技会用の本。帝国で作られたものよ」

——そこにあったものは、ヴィクトリアの腹部で見た焼き印と同じ印だった。

思わぬ発見に驚きつつも、俺達は地下室を出た。

「もしかすると、今回の旅はただの任務というわけではなくなるかもしれないね」

「ああ、そうだな」

帝国の本を読んできたということになるジャネットの、初めての帝国遠征だ。

新たな知見を得られる可能性は大きい。

それにしても、謎の地下室か。

この部屋の秘密を知っている人物がいるとすれば。

「なあ婆さん」

「ん? 何だい?」

「あの地下室のこと、聞いてもいいか?」

俺の質問に対し、俺の目をじっと見て黙る。

俺も黙してその目を見返す。

「……。そうさね、何かしら察しているかもしれんし、言ってもいい時期かもね」

婆さんは遠い日を思い出すように、部屋の天井を眺めた。

「あれは何年前だったか……。あんた達を拾う一ヶ月ぐらい前に、大きな馬車に乗った夫婦が来たのさ」

「夫婦?」

「そう。二人はここが孤児院であることを確認すると、頭を下げてどうにか泊まらせてくれないか、と言ってきてねえ」

その二人は、ここで泊まったとのことだ。

この院から盗むほど貧した風体にも見えなかったようだし、婆さんに断る理由もなかったと。

「それで数日泊めたら、お礼を言って去っていった。気がついたら、結構な金額とともに地下室が完成していたってわけさ。そりゃあ驚いたよ、本当に数日のうちに、二人でやってのけたんだからね」

なるほど……となると、やはり術士か。

一般的な方法だと分かりそうなものだし、何より時間が足りるとは思えない。

そう考えると、とてつもなく高度な魔法技術ということになるが……何者だ?

「しかしまた何で、急に地下室が気になったんだい?」

「ああ。どうやらここにいるヴィクトリアが過去に帝国で読んでいた本があったようでな」

「ふぅむ……あの二人が帝国からの旅人、ってことかね。うちを選んだ理由はさっぱり分からんけど、まぁ荷物でも軽くしたかったのかねぇ」

結局謎が謎を呼ぶような形になってしまったが、一つ知らない話を聞けた。

いずれその秘密を解明できる日が来るだろうか。

俺達が孤児院から出るタイミングで、最後にブレンダが見送りに来た。

「ね、お母さんはラセルさんとすっごいことするんだよね」

「そうよ、めいいっぱい活躍しちゃうわ!」

「うん! えへへ……」

ふと、明るい声のトーンを静かに下げながら、ブレンダが言いにくそうに口を開く。

「私、私ね……お母さん、実はみんなとどこか違う人なんだって、なんとなく分かってたよ」

「えっ……!」

ブレンダの突然の告白に、ヴィクトリアだけでなく俺も内心驚いていた。

そうか、この子は母親のことを想像していたより遥かによく見ていたんだな……。

「でもね、凄い人なのは絶対間違いないって知ってるから。だから、すっごい活躍してきて! それでね、帰ってきたら自慢して!」

明るく笑いながら、自らの要望も載せた。

ヴィクトリアは最後にブレンダを両腕で抱き、「最高の英雄譚を約束するわ」と告げた。

院の前で待機していた馬車は、セントゴダートに行った時のものと同等に大きいものだった。

最後にヴィクトリアが乗り込み、扉が閉まる。

「改めて、ヴィクトリアには世話になる。ブレンダの件、決断させて済まなかったな」

「いいのよ〜。ジェマさんは私にとっても憧れる姿。あの人なら、娘を預けてもいいと思えましたから」

「そうか、なら良かった」

確かにジェマ婆さんは信用に値する人物だ。

他の地で様々な人物と触れ合ったことで、改めて自分達が良い環境で過ごせたことを実感するな。

「では、次はバート帝国だな」

「違うわ」

さあ本番、と気合いを入れようと踏ん張ったところで、女神の言葉が俺に足払いをかける。

「何だよ肩透かしだな……変なこと言うと叩くぞ」

俺が呆れ気味に睨むも、シビラは余裕の表情を崩さず指を立てて片目を閉じた。

「エマとの約束を守りに行くわよ」