作品タイトル不明
バート帝国は、正と負の両面で歓迎をする
馬車の中にいるメンバーをおさらいしよう。
【聖者】の俺、『宵闇の女神』シビラ、【聖騎士】エミー、【賢者】ジャネット。
帝国出身者ヴィクトリア、上級天使の【賢者】マーデリン、【アサシン】イヴ。
このパーティーは、正直——。
「めっちゃ女所帯っすね!」
「……考えないようにしていたんだが」
イヴの言葉に気まずい気分になっていると、そういうタイミングを逃さない 女神(ヤツ) がいた。
「んもぉ〜、このシビラちゃんを始めとした美少女揃いのパーティーにいるなんて幸せ者ね〜っうりうり」
「あらあら、美少女って私も入っちゃうのかしら。」
シビラのツッコミに返す前に、最年長未亡人のヴィクトリアが乗っかってしまった。
実際本当に子持ちとは思えないぐらい若いんだよな……。
「……俺以外の男も入れるか?」
「えっ絶対嫌」
「僕も嫌」
今度はエミーとジャネットが反発したことにより、シビラの揶揄い具合は最高潮に達した。
「あら、そろそろ着くわよ」
そろそろツッコミ返すかと思ったら、バート帝国に到着してしまった……やれやれ。
最初に会話の火を付けたイヴが舌を出して笑うと、どうにも怒りきれなくて気が抜けてしまったな。
まあ、緊張するよりは良かったかもしれん。
厳つい外壁に、見張り砦が四方に立つ壁。
セントゴダートは迫力がありつつも悪い印象は全くなかったが、バート帝国はまるで外部のものを排除するかのような印象を受ける。
恐らく、それは印象だけに留まらないのだろう。
「止まれ」
セントゴダートとは違い、並ぶことなく門の前へと着く。
立ち止まった御者の前で、甲冑を来た男女が槍を交差させた。
「帝国の者か?」
必要最低限の言葉に、ヴィクトリアが前に出る。
「私です、皆は私の紹介となります」
「こちらへ」
槍を持つ女性の騎士に連れられて、ヴィクトリアが門の隣にある個室へと入っていった。
……問題が無ければ、これで入れるはずだ。
「残りの者、タグを見せるように」
残った壮年の大男が、槍を肩に担いだまま催促する。
なんつーかマジで高圧的で、そこまで想像通りだと逆に笑いそうになるな。
「これでいいです?」
ただそんな威圧、本物の【聖騎士】たるエミーには効くはずもない。
反面、萎縮させるつもりだった大男は、目を丸くして「……よ、よし」と体裁を保つのみ。
「エミーちゃんの次はジャネットちゃんお願い」
「僕ですね、分かりました」
次の提示をシビラは指示し、ジャネットの次に自らの情報を出した。彼女は最上位職の高レベルという、こういう手合いに最も強い数値。
そうか、高レベルとはいえシビラは普通の【魔道士】だ。そこでこいつに丁寧語を使う賢者がいれば、『この【賢者】より上の立場』と理解させられる。
「笑顔が足りないわよ〜」
「職務ですので……」
結果、ビビるなど無縁の立場でいらっしゃる悪戯女神様のイジりにより、声の張りがなくなった男に皆でタグを提示していった。
一応俺だけはお前に共感しておこう。ただし同情はしない。
「戻りました」
ヴィクトリアが、いつもと同じ糸目の笑顔で手を振った。
様子からして、大丈夫そうだな。
「市民階級だ、問題ない」
「よし——いや待て」
男が、ヴィクトリアの顔を凝視する。
それに対しての紫髪の母親は、わざと軽い雰囲気で「あらあら?」と声を出す。
「あんた、闘技会に出ていなかったか」
なっ……!? この男、当時のヴィクトリアを見たことがあるのか!
可能性としては考えていなかったわけではないが、厄介だな……。
と、思ったのだが。
「いや、印はなかった。確認したから間違いはない」
「……そうか、済まなかったな」
門番の女性が助け船を出して、事なきを得た。
事前に印について確認を取っていて正解だったな……。
二人が門の左右に離れ、鉄格子の扉が開く。
これで問題なく入れるだろう。
「——止まれッ!」
急に近くで大声がして、門番の二人が槍を構える!
「ああっ、クソッ……!」
馬車から外を覗き見ると、一人の青年が他の兵士によって床に組み敷かれていた。
扉が開いたと同時に、帝都から脱出しようとしたのだろうか。
「あと少し、だったのに……」
絞り出すように言葉を発した男に対し、兵士は無言で頑丈な手枷を取り付けた。
そのまま別の兵士が後ろから蹴り上げ、どこかへと連行していく。
「待たせて済まない、通っていいぞ」
門番二人はその光景を見ても気にする様子もなく、御者に声をかけた。
……あんなのが、珍しくないとでもいうのか?
「あまり言いたくはないけど、ああいう光景は本当に珍しくないわ」
俺の聞きたいことを読んで答えるように、シビラが外を見て呆れたように肩を竦めた。
「娯楽は多いし、後先考えない楽しいヤツも多い。だけど勝つ者は勝って、負ける者は容赦なく負ける。それがバート帝国よ」
その意見に呼応するかのように、馬車内部からでも聞こえるほどの野性味溢れる笑い声が聞こえてくる。
見ると、男達が酒瓶を片手に談笑していた。
晩の食事、というよりは吞み潰れるために集まったという感じだな。
「シャーロットは兎も角、アタシもエマも帝国のことは嫌いじゃないのよ」
そりゃまあそうだろうな。
お前はなんつーかそういうキャラだし、エマも冒険者の挑戦心みたいなものを好むタイプだった。
反面シャーロットは、何よりも人間の安全を重視するという感じだったな。
「でも——」
馬車が町の中央で止まり、窓から差し込む眩しいばかりのギラギラとした光が目を刺す。
金のランプが所狭しと並べられた、異様に目立つ建物。
看板には『カジノ・グランドバート』と書かれた文字が燦然と光っている。
「——好きになりきれない、というのも本音なのよね」
その店の前では、号泣する人が男二人に連れ出されていた。
あれが、シビラの言っていた場所か。
「まあ、ラセルが無一文の裸一貫で放り出される姿は見てみたいわね!」
「 叩(はた) くぞ」
本当に緊張の維持できねーヤツだな!
やれやれ……精々カモにされないよう注意するか。
いや、俺がというかこいつが首突っ込まないかが気がかりな訳だが。
「それじゃ、拠点の方を決めていきましょうか」
そんな不安を余所に、当の本人はカジノに興味を示しながらも宿探しに歩き始めた。