軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

圧倒的な強さ故の、違和感

観戦側に回った俺を、ずっと見ていたジャネットが小さく手を挙げて出迎えた。

「お疲れ、健闘したね」

「慰めはいい、完敗だったからな。自分の世界の狭さを感じたな、剣技には自信があったつもりだが」

「それを言うのなら僕もだ。……盾を持つ剣士との模擬戦は想定していなかったから、教えていなかった。さて——」

——大盾を持つ【聖騎士】とは、どう戦う?

視界の先のヴィクトリアに問うようにジャネットが呟き、二人の戦いが始まった。

先制したのはヴィクトリアで、上段からエミーの盾を大雑把に狙った。

ファイアドラゴンの鱗によって作られた、竜鱗の大盾。その利点はその防御性能であり、欠点はその大きさ。

取り回しの悪さや重さはもちろんだが、エミーの場合は盾の死角が欠点として最も大きいものになるだろう。

ヴィクトリアが狙ったのは、恐らくそこだ。

エミーが構えたと同時に剣を引き、盾側に伏せて滑り込んだのだ。

ただ、そこからはエミーの本領発揮。

ヴィクトリアの剣が迫ったと同時に目を見開き、剣先を 見(・) て(・) か(・) ら(・) 避けたのだ。

明らかに人の能力を凌駕した、【聖騎士】かつ【宵闇の騎士】である彼女の動体視力と身体能力の成せる業だった。

ヴィクトリアから見てもエミーの動きは驚くものだったようだ。

「あのタイミングで避けられるなんて、本当に凄い基礎能力ね」

「あはは……あの、もうちょっと手加減いただくとかは」

「【聖騎士】のエミーちゃん相手に、そんなに器用なことできないわ〜」

心底楽しそうに提案を蹴ったヴィクトリアに対し、エミーは口元を引きつらせて盾を構え直す。

そこからの攻防は激しいものだった。

エミーが攻撃に回っても、ヴィクトリアは地面を滑りながら踊るように、時には鳥のように舞いながら避ける。

紫のロングヘアが清流のように、時には竜巻のように線を描く。

本当に戦っているのか分からなくなるほど優雅で、まるで一人踊っているかの如くだ。

防御面でも、俺より怪力のエミーに対し、ヴィクトリアは完璧なパリイで受け流していた。

以前も俺はやられたが、エミー相手でもあれほど完璧に決めるか。

俺はそんな模擬戦を見ながらも、隣で黙している幼馴染み兼先生に、ある程度の確信を持って疑問を投げる。

「なあ、ジャネット。ヴィクトリアを模擬戦に誘った理由は何だ?」

「……」

俺の問いにジャネットは黙してこちらを向き、再び二人の攻防へと視線を戻す。

そう。この模擬戦は、ジャネットが提案したものだ。

剣を持たないジャネットがわざわざ提案したということは、俺やエミーに経験を積ませるため……ではないだろう。

目的は、ヴィクトリアの動きを見るため。

「ヴィクトリアさんの剣技。その違和感の再確認だ」

「違和感?」

以前も俺とヴィクトリアは模擬戦をした。

小盾を上手く使った戦い方は熟練者のそれで、かつて優れた冒険者だったことは疑いようもないだろう。

何故そんな人が娘一人連れて元々ダンジョンのないこんな田舎村にいるのか、その過去を深掘りすることは避けたが。

「僕の予想が正しければ、だけど。とりあえず、ラセルはヴィクトリアさんの動きをしっかり見て学んで。あの人の生きた動きを観察できるのは、それだけで糧になる」

「無論だ」

女神の 職業(ジョブ) を得て冒険者となった者は、ハモンドを始めとして大きな街に向かう。

結果、アドリアの村に残っているのは、主にそういった戦いから身を引きたいと思った者達だ。

そう思っていたんだが……。

「いいですね〜、盾の使い方が上手くなっています。前より死線をくぐり抜けたのかしら?」

「じゃあヴィクトリアさんもくぐり抜けてきたんですかぁ!?」

悲鳴を上げながら盾中心の動きをするエミーに対し、微笑んで再び攻撃を叩き込むことで返事とするヴィクトリア。

下層の魔物と戦っている時も、エミーはあれほどまでに攻めあぐねていただろうか。

「違和感といえば、まあ滅茶苦茶強いことだな。エミーだってドラゴンスレイヤーだぞ。あの農家は魔王討伐者か?」

ヴィクトリアは強い。

そう。

強(・) す(・) ぎ(・) る(・) のだ。

俺は闇魔法中心ではあるが、エミーだって【聖騎士】であり剣技を学んできた魔王討伐パーティーの最上位近接職だ。

実際に何度も一緒に魔王と対峙してきたし、ダンジョンを攻略してきた。

エミーは、ドラゴンですら単身で戦えるほどに強い。

そんなエミーと戦えるヴィクトリアは、魔王とも戦うことができるのではないか?

「……いや、そうは思えない」

ドラゴンを召喚した魔王に対し、俺やエミーが戦ったのは分かる。

だが、ヴィクトリアがドラゴンと戦う姿は、あまり想像ができない。

「その部分だ。それこそが、ヴィクトリアさんの強さの 歪(・) さ(・) なんだよ」

ジャネットがそう答えたと同時に、二人の模擬戦が終わった。

エミーは遂に、ヴィクトリアの盾を弾き飛ばした。

同時に、ヴィクトリアの剣先がエミーの喉元に突きつけられていた。

「……ふぅ、さすがに若い子の体力にはついていくのが大変ね」

「むしろヴィクトリアさんの方が元気すぎません……? 若すぎるというか」

「まあ! 可愛い【聖騎士】ちゃんに若いと言われちゃったわ。私もまだまだイケるってことかしら」

二人の模擬戦は、決着がつくことなく終了した。

エミーの体力はさすがではあるが、汗を掻きつつも余裕の表情をしているヴィクトリアも大概だな。

俺は二人に回復魔法と治療魔法をかけ、疲労と汚れの全てを取り除く。

それからフレデリカ達が料理を終え、シビラも合流して食事の時間となった。

食事中、ジャネットは再びヴィクトリアにお願い事をした。

「今夜、そちらの家にお邪魔してもよろしいでしょうか?」

「いいわよ。ジャネットちゃんとは以前はあまり喋らなかったけど、私のことに興味津々なのかしら?」

「ありがとうございます。そうですね、興味津々です」

「あらあら、そんなにハッキリ言われると照れちゃうわね~」

そんな和やかな雰囲気のまま、食事が終わった。

その夜。

俺とエミーとジャネット、更にシビラとマーデリンというメンバーでヴィクトリアの家に入る。

ランプのついた薄暗い夜のリビングで、小さなテーブルを囲む。

中心にいるのは、ジャネットだ。

「ブレンダは寝ましたか?」

「ええ。ラセルさんが来るから起きるんだーって船漕ぎながら言ってたけど、遊び疲れちゃったみたい」

「そうですか。……それは良かった」

ジャネットは、テーブルの下で俺に手を重ねた。

……震えている?

「僕は、恐らく、相当に不躾な質問をする。今から行うことは、 此処(ここ) に住むあなたに対して、きっと最低なことだ」

「ジャネットちゃん、どうしたの? 何か聞きたいことがあったら、遠慮なく言っていいのよ?」

不思議そうにしつつも明るく尋ねるヴィクトリアに対し、ジャネットは目を伏せて眉根を寄せる。

「それでも……どうか、あなたを害したり、誰かに言いふらしたりすることはないと信じてほしい。何よりあなたの気持ちを優先する。あなたが拒否したら、深掘りはしない。協力も諦める」

「……ええと、一体何を聞きたいのかしら?」

さすがに予防線の張り方が極端すぎて、俺やエミーの不安がヴィクトリアにも伝わっているようだ。

……だが、ジャネットはこういう時に臆病風だけでこんなことを言うヤツじゃないことぐらいは知っている。

それだけ、本気なのだろう。

覚悟を決めたのか、ジャネットはひとつ深呼吸をしてヴィクトリアを正面から見た。

賢者の口が、剣士の秘密へと踏み込む。

「それでは、お答えください。——ヴィクトリアさんは、バート帝国の元『剣闘士』で間違いありませんか?」

その問いに、ヴィクトリアの細い目が初めて見開かれた。