軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

再会と再戦

俺達の帰還は、すぐに孤児院の皆に伝搬した。

「うおー、マジでシビラじゃん」

「よーシビラ、元気してたかー?」

「ね、ね、あっちであそぼ−!」

うちのガキ共はすっかりシビラに懐いているようで、そんな様子にシビラもデレッデレ顔で乗り気である。

いや用事があるんじゃねーのかよ、と聞く前にさっさと遊びに行ってしまった。

「マジかよ……仕方ねえな。フレデリカもあいつらに付き合ってやってくれ」

「あら、いいの?」

「留守が長かったからな」

思えばこっちの孤児院はジェマ婆さん一人に一ヶ月任せてしまっていたわけだし、あのチビ共も飽きたり寂しくなったりもするだろう。

なら、久々に遊ばせておくのもいい。

それに何より、シビラが言っても聞かないだろうからな……やれやれ。

「帰って早々賑やかじゃないか」

奥から入れ違いでジェマ婆さんが現れ、俺達も軽く挨拶を交わす。

「元気そうで何よりだが、さすがに一人じゃ大変だっただろう」

「おいぼれ扱いするんじゃないよ、と言いたいところだが子供達の無尽蔵な体力には敵わんね。だからヴィクトリアには随分と助けられたよ」

ヴィクトリアに、か。

今日も来ていたし、話から察するに頻繁に遊びに来ているのだろう。

ブレンダが来ているならヴィクトリアも確実に来ている。ならば院の手伝いを買って出るのも自然か。

「いえいえ、むしろ私の方がお世話になっているぐらいで」

ちょうどその話題の当人が婆さんの奥から現れる。

話から察するに、ブレンダの遊び相手としてここの子供達と混ざっているのだろう。

親ではどうしても遊び相手としては限界があるからな。

「ああ、そうだ……ヴィクトリアさん、お時間よろしいですか?」

ここで、それまでずっと黙していたジャネットが要望を出した。

内容はなんと、模擬戦。剣を持っての訓練だ。

突然のことながらヴィクトリアは快諾し、急遽リベンジマッチが組まれる。

俺とエミーは木剣を持って庭へと出た。

「さて、どちらからにしますか?」

「では俺から」

「いいですね、楽しみです」

人は見た目によらぬもの。ヴィクトリアは、高いレベルの剣士だ。

糸のように細い目はいつも笑っているようで感情が読み取れず、口元からも余裕が見て取れる。

だが、既に手の内は知っているのだ。

二度も同じ手は通用しない。

「さあ、どうぞ」

ヴィクトリアのスタイルは、片手剣。

もう片方の手に小盾代わりの鍋蓋を持っており、こちらをメインで戦う戦法だ。

「ならば遠慮なく——!」

俺は両手の木剣を握りしめ、容赦なくヴィクトリアへと突き入れた!

彼女の左手に当たった盾は乾いた音を立てつつも、俺の腕には強い衝撃が走る。

間違いなく、ヴィクトリアが力で抵抗した感触だ。

それと同時に、バックステップで距離を取った。

一瞬だが、俺の指を剣先が生み出した風が撫でる。

「あら、いい反応です」

「……そりゃどうも」

判断を誤れば、間違いなく小手を取られていた。

もしも実戦で鋭い刃物だったらと思うと恐ろしいな。

次はヴィクトリアから。

盾を前に、俺の剣を積極的に打ちに来る戦い方は以前と同じで——ッ!?

盾からかかる圧力は、手前側にかかると思って構えていた。

ヴィクトリアは、そんな俺の動きを利用するかのように流れるようにもう一段踏み込み、盾を上から叩き付けてきた。

前からの衝撃に入れていた自分の力を利用されるように、俺の剣先が下がる……!

危険を察知した俺は、後ろではなく横に避けた。

髪の先を木剣の先端が抜け、反撃しようと構えた俺の剣を再び盾が打ち据える。

ヴィクトリアはまるで空を舞台に踊るが如く回転しながら跳躍し、俺から距離を取った。

紫の長い髪が流れるように靡き、空中に丸い模様を描く。

「あらあらまあまあ! 今のもいい反応です。うふふ」

……やはり、この人は強い。

今まで会った誰よりも、対人戦の戦い方をしている。

何と言っても、ヴィクトリアには余裕がある。

表情も動きも優雅で、一切の陰りが見られない。

これで普段は豆畑の世話をするだけの一児の母とかマジかよ。

「やれやれ、少しぐらいはその余裕を剥がしてやりたいところだが」

「あら。私はそんなに余裕ではないわよ? 毎度毎度、次で決めるぐらいのつもりで打っているもの。手の内には限界がある——でもね?」

言うや否やヴィクトリアは再び盾を構えて飛び込んできた。

今度は確実に打ち据えるつもりで、盾を狙う!

——が、しかし。

「つッ……!」

指に痛みが走り、再び後ろへと距離を取る。

視線の先では、ヴィクトリアが空中で宙返りをしていた。

「余裕を見せていると、『あといくつの手を隠し持っているだろう』って思わせたりできるのよ〜」

今、ヴィクトリアは俺の攻撃を防がなかった。

盾を寸前まで構え、全身を伏せることで攻撃そのものを 躱(かわ) したのだ。

あの小盾の力に、力で対抗しようと思っていた俺の空振りの隙は大きく、すぐに体勢を戻すことができなかった。

完全に騙された。

常に盾を使うスタイルを取っていたことで、俺はあの『小盾の攻撃』に気を取られすぎていた。

指が痺れている。何とか剣は離さずにいられているが、実戦なら間違いなく俺の負けだな。

「これで二敗、か」

「そこはさすがに女神様の 職業(ジョブ) だもの。私だってちゃんと剣士なのよ、負けたら泣いちゃうわ〜」

「嘘つけ」

俺のツッコミにも微笑むことで返したヴィクトリアは、未だに底が知れない。

模擬戦は随分としてきたつもりだが、今まで戦ったことがないタイプなので対処が難しいのだ。

ぶっつけ本番で似たタイプと戦わなければならない場面を考えると、負けはしたが得るものが確実にあるのは有り難いな。

剣技の本を読んでいたジャネットは、こういう戦い方も知っているのだろうか。

「選手交代だ」

「まーかせて!」

エミーが自信満々に、木剣と盾を構える。

模擬戦とはいえ、盾は竜鱗の大盾の本物を使っている。

殺傷力があるものでもないし、実戦を考えるとあれを使う方がいいからな。

「そいや初めて、かな?」

「ふふっ、そうですね。それでは」

果たしてどのような戦いになるのか。

俺はジャネットに「お疲れ」と声をかけられ、隣で二人の戦いを観戦する側に回った。