軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

多くを巻き込んだ失態を、引っ繰り返すほどの感謝を

「はーっ、なるほどね」

シビラがそこで、話を挟んできた。

「なっがい話をまとめると、つまり姉さんがポカやらかしてキャシーが奪われて、バレないうちに解決しようと思って返り討ちに遭って、報告連絡相談なーんもないうちに事態が取り返しつかなくなっちゃったのね」

「容赦ねえなおい」

実の姉とはいえ、今の話を聞いてよくもまあこいつはこんなに言いたい放題言えたもんだな。

まあ、シビラなら言えるか。

「ううっ……久々に会ったシビラが厳しい……」

「そりゃ厳しいわよ! だってそれ言い出せなかっただけじゃん!」

「そう、だね……」

「ほんっと……ほんっとアタシはさあ……!」

シビラは目を閉じ、ぐっと溜めてから絞り出すように声を発した。

「心配、したんだから……」

それは、いつものシビラからは考えられないほど弱々しい声だった。

……そうだな、そもそもシビラはずっとケイティを追っていたのだ。

何度も【神官】を【宵闇の魔卿】に変えて、姉の力を人類に託して一緒に戦って。

ダンジョン攻略がメインであっても、姉の引退原因を探っていたのだ。

話から察するに、殆ど知らされていなかったのだろう。

しかし、こいつは俺に『キャスリーンは姉を引退させた女神』と明確に言い切っていた。

プリシラの隣からキャシーがいなくなったことから、全てを察してプリシラの代わりに地上に降りた。

そこから、何度も何度も。

気が遠くなるほどの時間、戦い続けてきたのだろう。

何度も負けた、とだけ知っていたが……プリシラは自分を守る為にキャスリーンが奪われて、自分の失態が原因で人類を巻き込んだことに負い目があった。

抱え込むには、巻き込んだ相手が大きすぎる。

相棒の女神と、人類。

その責任を、この女神はずっと被り続けて、塞ぎ込んでいたのか。

「もっと私達が頑張って入れば、そして今も……今もキャシーと討伐隊に参加していれば、『勇者パーティー』に命の責務を負わせることも、シビラと『影の英雄』に苦労をかけることもなかったのに……」

懺悔するように絞り出した今の言葉に……ふと違和感を覚えた。

責任感があるのは重々承知だが、どうにも納得できないことがある。

「なあ、プリシラ」

「は、はい」

「もしかして、あんたが理由で俺みたいなのが現れるようになったのか?」

「……そういうことに、なりますね……巻き込む形に……」

マジか。

それをこいつは、よりにもよって『最大の失態』とか捉えてんのか。

やれやれ、自信満々ぽんこつ駄女神にも呆れるしかないが――泥沼卑屈駄女神には、もっと呆れるしかないな。

「感謝する」

俺は一言、そう告げた。

「……え?」

「聞いてほしい。俺は、俺達は孤児だった。物語に憧れても何の未来もない、ただ憧れるだけの孤児だったんだ」

話すべきだろうと判断し、隣を見る。

エミーとジャネットは同意するよう頷いた。

「シャーロットの手違いか、何故か俺達は勇者パーティーになった。だが……何度も、何度も……危険な目に遭ったし、命を落としかけたし……実際に、エミーは一度死んだ」

「……! まさか、そんな」

「蘇生魔法。それがなければ、俺はエミーに助けられたまま生き存えていた。他にも、魔神なんてものにぶつかった時にも、随分と回復術士であることに助けられた」

だが。

「それらは全てダンジョン攻略関係のもの。俺の始まりはな……ある親子を助けたことなんだ」

今でも思う、泣いている子供のこと。

きっとあれは、俺が【聖者】でなければ治せなかったはずだ。

――あの時、俺は絶望していた。

他人の子供だった。

治さなくても、関係はなかった。

だが、きっとあの時に治していなかったら、俺は……。

俺は、そうだな……後悔していないが、『後悔しないような人間』になってしまっていただろう。

決定的に、何か終わってしまったような人間。

そして、恐らく……俺は自分の【聖者】を残すことなく、誰よりも自分を使い潰すようにして……。

――自分が【勇者】になった世界線の夢を思い出す。

ああ、そうだ。

あれと同じになってしまっていただろうな。

仮にアドリアの魔王を倒せたとしても、エミーは確実に俺を守るために命を落とした。

彼女を救えたのは、俺にその力があったから。

思えば、マデーラでもそうだった。

魔神なんてものに神々の代わりに挑んだのは、英雄譚に憧れたから、シビラ達神々の分まで活躍しようと思ったからだろうか。

違うよな。

「ウルドリズを倒したのは、魔神討伐を成し得たかったからではない。ちょっと迷子になっている娘を母親に届けるため。それだけだった」

「……待ってください。赤き魔神ウルドリズは、滅んだのですか? 封印ではなく?」

「自爆も止めたし、コアもパキッといったからな。あれは滅んだだろ」

「アタシも保証するわ。いかにも悔しそうに滅んだわね、いい気味!」

シビラの宣告に、プリシラは唖然とした表情で俺達を見比べた。

やはりあの戦いは、特別なものだったのだろう。

「だからな」

俺がこいつを救えるとしたら、こうだろう。

「この賑やかな駄女神が相棒で、俺はそれなりに充実した日々なんだ。あんたの相棒がいないなら、あんたが立ち直れなくても仕方ない。その迷子を送り届けてやる」

「やーん今日はラセルがアタシを持ち上げまくり! やっぱりもう相思相愛よね!」

「はいはい、今大事なところだから黙ろうな? 後は、キャスリーンを助けるために……ガルヴァイザ、だったか? そいつを倒す必要があるのなら、倒してやろうと思う」

俺の宣言にプリシラは息を吞む。

一体は倒した。人間に滅ぼせない相手ではないのだろう。

厳しい戦いになるだろうが、避けるわけにはいかない。

だが、俺が話したいのはそういうことではない。

「……きっとな。俺は、ずっと誰かの助けになりたかったんだよ。今でこそこんなんで、以前までどういう自分だったかもう思い出せないぐらいだが」

俺の言葉に、エミーとジャネットが少し俯いた。

自分というものが大きく変質したのは分かる。

今となっては、元々こんなものだったかもなと思ったぐらいだ。

ただ、シビラは俺の本質を『聖たりえる者』として明確に認識していた。

きっと今も、その核となる部分が俺の中に残っているのだろう。

「俺は『勇者パーティー』の一員として、【聖者】になれたことで、多分俺が一番救われているのだと思う。その上で、プリシラ。あんたの使ってきた闇魔法が、もっと誰かを助けるための力となっていることも」

「あなたは……私の『闇魔法』を肯定してくれるのですか? この『太陽の女神教』の世界で生まれ、その女神の力を得た【聖者】のあなたが」

「いやさっきからそう言ってるだろ、ぶっちゃけ俺は『太陽の女神』よりあんたの方が元々の好感度高いぐらいだしな」

俺の答えに、おちゃらけていたシビラは落ち着いて言葉を重ねた。

「シャーロットと姉さんが求めた、人間の英雄。『闇を認めし聖者』、それがラセルよ」

改めて『太陽の女神』と『宵闇の女神』の求めた英雄とか紹介されると、大げさすぎないかと思うが……それがプリシラの支えになるというのなら、甘んじて受け入れるか。

「自分で抱え込みすぎるなってことだ。人間の一生では届かないぐらいダンジョン討伐してきたんだろ? その礼として、人間をもっと頼れ」

「頼られているって、大事なことよ。頼りにされているっていうことが、その人の原動力になることも少なくないんだから。たくさん使ってあげなきゃ」

うんうん自分の言葉に満足気に頷くシビラ……待て、その言葉には一言言っておかなければならん。

「とはいえここにいる巻き込み型悪戯駄女神みたいになってもらっても困るけどな」

「やーん嬉しいくせに! ちなみにアタシは最高に楽しいわ!」

振り回されていること自体は断じて嬉しくないぞ!

「また奢ってくれてもいいぞー少年!」

「いやマジで二度と払わねえからな!」

「次の行き先も高い店狙おうかしら!」

「聞けよ!?」

頬を突いてくるシビラの頭を指で弾くと「きゃん!」と嬉しそうに悲鳴を上げる。いや喜ぶな。

俺達の様子を見て、プリシラは。

「ふふっ……ふふふ……」

口に手を当て、上品に笑い出した。

それは、今まで見たどんな女神よりも上品で、神秘的な美しさを持っていた。

女神の微笑み――というものがあるとすれば、こういうものを言うのだろうと素直に思えるほどに。

「……!」

そんな姉の姿を見たシビラは、一瞬息を吞んだ後、俺の傍に体を寄せて。

「……ありがとね」

目の前の相手に聞こえないぐらい小さな声で、俺の耳元で囁きながら手を握った。

ま、お前の悩みの種だった、困ったお姉さんだからな。

これで 相棒(シビラ) の調子が上向きになるなら、いくらでも対応してやるさ。