作品タイトル不明
ケイティの目的と、人類の分岐点
微笑むプリシラに対して、今度はエミーが手を挙げた。
「はいはい! えーっと、よろしいでしょうかっ!」
「まあ、どうぞ?」
元気いっぱいに主張したエミーは、驚くべきことを言った。
「さっき話にもありましたけど、まあ一度死んじゃったの私でして。あと、シャーロットさん……太陽の女神様に見せてもらった時も、まあものの見事に死んじゃいまして」
「そ、そんなに、ですか……!?」
エミーが話題に出したのは、自らが【聖騎士】の盾となった時のこと。
急に出した話題にしてはあまりに強烈で、プリシラも目を見開いて驚く。
何故今その話題を出したのかという疑問に、エミーは持ち前の明るさでさっぱりと話した。
「あー、それなんですけど。私、二回とも全く後悔してないんですよ。まあ死んじゃったらその後が守れないから、そこだけは後悔してるんですけど」
「エミーさん……あなたは、なんという……」
「ああいえ、自己紹介したいわけじゃなくて! えっとえっと、つまり」
辿々しくも、言葉を選ぶ彼女を皆で見守る。
一生懸命な姿には、伝わるものがあった。
「ケイ……じゃなくてキャスリーンさんは、きっとプリシラさんのこと守れたの、やったぞーって思ってます。『愛の女神』ですよね。だってきっと――」
エミーはぐっと身を乗り出して、プリシラの両手を握った。
「――いっちばん大切な『相棒』のこと、絶対、ぜったいぜ~~~~ったい、一番『愛』してますからっ!」
エミーが花開く笑顔で話し――プリシラの瞳が揺れる。
「……。ありがとうございます。あなたは……あなたは、もう、それほどまでに深い愛を持って理解しているのですね……」
「い、いやいや! 普通ですよ普通!」
「これが普通のことなら、普段からあなたは真っ直ぐなのでしょう」
「あはは……えっと、えっと……あの、ど、どうしよぉ~?」
「そこで俺に振るのか?」
エミーは、プリシラと手を繋いだままこちらに助けを求めるように目を向ける。
言われて困るようなら言わなけりゃいいのに、プリシラの悩む姿を見て居ても立ってもいられず言ってしまったのだろう。
こういうところが、エミーの良さだよな。
エミーは俺の代わりに、ジャネットに助けを求めるように視線を向けたが。
「僕は二人みたいに慰めるのには向いてないのだけど……。でも、話を聞くに、どうやらこの状況はキャスリーンの勝ちですね」
「……どういう、ことですか?」
一旦エミーから身を引き、プリシラがジャネットに体を向ける。
「今の話、相手の話しぶりからするに、魔神にとって唯一無二の特殊スキルが『洗脳』だったのだろう。その上で、失敗したという認識だった」
そうだな。
話を聞く限り、恐らく魔神側の目的は。
「白き魔神ガルヴァイザの目的は、プリシラの奪取だった。その理由は十中八九、闇魔法だな」
その考えが一致したようにジャネットが頷く。
「洗脳して狙う相手は一名。『太陽の女神』の不意打ちだろうね。シビラさん、もしシャーロットがいなくなった場合は」
「あー……そりゃあ、地上の人間が一斉に 職(ジョブ) ナシになるわね」
職業(ジョブ) の消滅。
それは魔物と戦う人間にとって致命的であるし、何よりダンジョン攻略中にそれが起これば問答無用の死を意味する。
「だから、ある意味あなたたちプリシラとキャスリーンのコンビは、最初の段階でずっと勝っているともいえる。それ故に、ずっと魔族側は大きな動きをしていない」
「直近は『赤い救済の会』ぐらいだもんな」
結果的にウルドリズを滅ぼせたから良かったようなものだが、あれは完全に地上侵略の一手だった。
「赤い……?」
「姉さん、最近の地上には疎いものね。アレよアレ、シャーロットへの信仰心を利用した、怪しい集金宗教。その信仰心の集まりで復活したのがウルドリズね」
プリシラはシビラの話を受けて、戸惑いながら黙る。
何か記憶の奥底から気になることを探っているようだった。
「……その、『赤い救済の会』というのは、赤いものを信仰している、ということでいいのね」
「そーよ? もうほんと極端な赤で気持ち悪いったらありゃしないわよ」
「……」
「建物から聖堂の中、全部真っ赤。あれで目が痛いと思わないんだからもーね」
ペラペラと事情を喋るシビラに対し、プリシラはずっと黙っている。
「アタシの目も褒めたりするけど、目だけいいとか失礼しちゃいわね! アタシは全身イケてるのに!」
「……」
「郵便ポストが赤いから神の所有物。もうほんとバカじゃないのっての、バーカバーカ」
「……」
「挙げ句の果てに教団員の結婚相手に赤い髪を選び、出来た娘を取り上げたのよ! いやーマジないわー」
「——赤い、髪?」
シビラが出した言葉に、プリシラが初めて反応した。
「そーよ? 髪の色が赤い以外は興味ないだなんて、ほんっと失礼——」
ここでプリシラは急に手を挙げ、シビラの話を止めた。
俺が見た中で、初めてプリシラがシビラより積極的に動いた瞬間だ。
「思い出した……思い出しました……。幾度となく対峙した中で、キャシーが独り言で何を言っていたか」
ここで、俺達は気付かされた。
何故、こんなことに気付かなかったのか。
今まで自分達が、何を見落としていたか。
プリシラは、ケイティの行動の本質を話した。
「『太陽の女神』から力を得たうち、赤い仲間を求めていました。例えば赤い武器、防具……それに、赤い髪をした【勇者】など、ですね」
——この日を境に大地が大きく割れ、魔物が大地に溢れることになる。
人類の生活の在り方が、大きく変わることとなった。