軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『宵闇の女神』と『愛の女神』の過去

プリシラは、シビラが会いに来た理由に思い当たっている。

これを見越して、マーデリンは天界までわざわざ付いてこなかったのだろう。

「早速だが、聞かせてもらってもいいか?」

「はい。それはラセルさんの能力です」

俺の能力、となるとやはり今のキュアの話だろう。

「キャシー……今はケイティと呼ぶべきなのですが、敢えてキャシーと呼びます。『愛の女神』キャスリーンと、私『宵闇の女神』プリシラは、不思議と気の合う友人関係でした」

プリシラは、当時の良い思い出を想起するように微笑み、組んだ指元に視線を下げて話し始めた。

「キャシーは、私にとって居心地のいい相手で、また憧れでもありました。地上には女神しかいないでしょう? それは太陽の女神と、他の女神達が人間を支えたいと決めたから。男神は人間に興味が湧かず、天界に留まっています」

確かに言われてみると、今まで出会った神は全て女性だった。

この天界には、男神もいるんだな。

「私はその方達との交友が苦手でしたが、キャシーは誰よりも得意でした。間に入ってトラブルを事前に防いでくれたことも何度も……だから彼女は、私の中で恩人であり憧れであり……誰よりも大切な友人でした」

こうして聞くと、あまりにケイティとの印象が違いすぎて驚く他ないな……。

直接対峙した時のあいつは、まるで他者の尊厳を踏み躙るような言動と、尋常ならざる悪意の洗脳。

――何より、洗脳を解いたヴィンスが拒否反応を示しても、あいつは平気で上書きした。

ヤツの辞書に『思いやり』などという単語は載ってないだろう。

「……そう、今のラセルさんの表情を見て分かりました。やはり、今も私の知るキャシーはいないのですね」

プリシラは、俺の表情から大体のことを読み取った。

つまり、ケイティの悪意についても心当たりがあるということだろう。

「ラセルさん。この世界を救えるあなたが現れたからには、私も逃げるわけにはいきません。全て、全てを……覚悟して、お話しします」

神々の戦い。

魔王の出現。

そして――俺達勇者パーティーと確執のある『愛の女神』ケイティという謎。

その謎が、ついに明かされる。

「私とキャシーに何があったかを――」

魔神が地下へ去り、その後に神々が地上を去った後。

大地が人間の世界となり、その後に地上に魔王が侵攻を始めた黎明期の話。

まず初めに、この魔王侵攻の問題を『太陽の女神』シャーロットは神々の果たすべき責任と考えた。

幾人もの神々がこれに賛同し、彼らは持てる力を使ってダンジョンを攻略し始めた。

――『宵闇の女神』プリシラと、『愛の女神』キャスリーンによるコンビも、そのうちの一つだった。

一切の防御要素を無視する闇魔法を駆使するプリシラと、全ての病魔を一瞬で退けるキャスリーンは相性抜群のコンビであり、ダンジョン攻略の中でも希有な存在。

一日でダンジョンを二つ潜ることもあり、圧倒的な戦力差で魔王を地上から退去させる。

『火の男神』と『水の女神』や、『風の女神』と『大地の女神』といったペアもいた。

それらと比較しても、『宵闇の女神』と『愛の女神』のペアは圧倒的だった。

最初期に現れた魔王とダンジョンは、二人の力によってその大多数が埋まった。

地上侵攻の第一弾は神々の完全勝利だった。

「キャシー。私達、最多記録なんですって」

「ロットは討伐数を記録してたのですか? ふふっ、エマが聞いたら悔しがりそうね。自慢しに行っちゃおうかしら?」

「もう、キャシーったら。でも私達、その……いいコンビ、だよね」

「あったりまえじゃない。プリシラと私は、天界で一番のバディよ~!」

銀髪の静かな美女に、桃色の髪をした明るい美女。

二人が肩を寄せ合うと、長く伸びたストレートヘアが綺麗に混ざり合う。

プライベートから冒険まで一心同体。

それが、宵闇と愛のペアだった。

――そんな日々に、終わりが訪れるなど誰も思わなかった。

第二次の、魔王地上侵攻。

その頻度は、第一次の比にならなかった。

事態がかなり良くない方向になっていることを察したシャーロットは、方針の変更を決意した。

それは、大きな決断であり、苦渋の選択。

人類に、魔物の討伐を任せるというものだ。

ただでさえ最初期の魔神との戦いに巻き込まれる形で、人間の数は減っていたのだ。

これ以上、何も与えず神々だけで対処し続けるのが、人類の為になるとは思えない。

最後まで、人間には神族と魔族の争いに巻き込まれてほしくはなかった。

これは、天界側の責任だと。

しかし今のままでは、逆に人間の被害が広がり続けてしまう。

「――私はあなたたち全ての人間の全ての人生に、私の力で助け続けます。起きている時も、寝ている時も……全てを、あなたたちの為に……」

自らを罰するように、シャーロットは限界を超えた処理能力を発揮し、全ての人類に『 職業(ジョブ) 』を与えた。

貴族の責務(ノブリス・オブリージュ) を持つ 青い血(ブルーブラッド) には上位職を。

そうでない者には、ダンジョン上層攻略の報酬だけ保証し、魔王討伐の責務が一切ないよう通常職を。

その能力全てを一元管理できるよう、『水の女神』エマにタグで表示できる魂のデータ連携と、冒険者ギルドの管理を任せた。

これが、人類の時代。

『人の英雄譚』の始まりである――。