軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

望まなかったもの、その境遇に自分を重ねる

銀の輝きがダンジョンから漏れる光に燦めく長剣。

その細くも十分に重さを感じられる剣を片手で持ち、魔物の姿が見えた瞬間に踏み込む——!

「はッ!」

同じく剣士の姿をしていたスケルトンは、まだ武器を構えてすらいない段階で胸の核を貫かれて崩れる。

あれが【剣聖】の剣技か。エミーとの模擬戦を経験したから目で追えないことはないが、あれと戦えるかといえば難しいだろうな。

無論、闇魔法を使って構わないのなら別だが。

——俺達『宵闇の誓約』は、第十層ではカイル達『獅子の牙』の戦いを参考に見せてもらっていた。

まずは、最前列のカイルがほぼ全ての敵を見つけ次第速攻で倒す。

残りの三人は、それぞれカイルの補佐だ。

攻撃魔法と回復魔法は分かるが、二人目の【剣士】ラナは特殊な立ち位置だ。

どんなに強くても、カイルとの剣技は比ぶべくもない……とは思っていたが。

「左、来てる」

「分かった」

イーディスの報告を受けてカイルは再び正面の敵を倒し、ラナが代わりに左の敵へと肉薄する。

ラナは相手の攻撃ギリギリのところで静止し、自らの手の甲に付けた 小盾(バックラー) でスケルトンの剣を流す。

その空振りで下がった手へと、ラナは長剣のフルスイングを叩き込んだ。

当然得物を手からこぼしたスケルトンは丸腰であり、ラナは渾身の突きでスケルトンの核を破壊した。

上手いものだ、中層の魔物相手に一切後れを取っていない。

「動きが似ている。先代剣聖の同門、といったところかな」

ジャネットの言葉に、俺とエミーは頷く。

攻撃を振らせる前か、振らせる後かだが、その仕留め方はよく似ていた。

後は【魔卿】イーディスがラナをサポートし、【神官】ジョーイが後ろで控える。

——俺はふと、そのジョーイの姿に自分を重ねる。

「よし、終わったわね」

シビラが後ろから宣言し、ジャネットが頷く。

二人の索敵魔法の範囲から、全ての敵がいなくなったのだろう。

「ふう……どうだった?」

「いや、見事なものだ。普段は中層に潜らないのか?」

「ないない。戦えることと、いつでも万全であることは別だからね。正直中層フロアボスというのも、第一ダンジョンで一度戦って以来だから緊張しているよ」

「そういうものか。なら、次は俺達の番だな。もし可能であれば戦いに参加してもらって構わない」

「ああ、分かった」

彼らの戦いを、存分に見させてもらった。

次は俺達の番だな……とはいえ、今回は少し勝手が違うことになる。

中層フロアボスの扉が開く。

そういえば、パーティー二つで入ったことは初めてだな。

パーティーの人数は、基本的に三〜六人程度を推奨している。あまりそこから逸脱したパーティーはいなかったはずだ。

「十人ぐらいなら同時に入れるけど、いきなり閉まったりするからあんまりおすすめはしないわね」

「そうなのか? 大人数で攻略した方が安全に思うが」

「欲張って二十人で前衛後衛の隊列組んで、後衛術士が入る前に魔力の檻が現れてしまったパーティーのギガント戦、聞きたい?」

「……」

あの巨人相手に基本職の剣士ばかりで挑むというのは、想像するのも避けたいところだな……。

「エマも最後列で見ていていいわよー」

「肝の据わり方が違うね。楽しみだよ」

カイル達はエマが女神だということは知らないとは思うが、改めて思うと『太陽の女神教』の教義とシビラやエマの反応は大幅に違うんだよな。

このことも、今度シャーロットとやらに聞かせてもらうか。

「《ウィンドバリア》……よし。エミー、先行は任せる」

「任せて!」

エミーが笑顔で大盾を掲げると、腰を屈めてカウントダウンを始める。

「三、二、一」

踏み込んだ瞬間を見て、俺達も一斉に扉の先へと足を踏み入れた。

まず真っ先に目に入ったのは、巨大な骸骨の背中。あれがフロアボスか。

次に目に入ったのは、その周りを取り囲むように立ち並ぶ、黒いスケルトンの集団だ。

でかい骨の巨人が振り返り切る前に、エミーは急接近した。

近くで見ると、セイリスの下層青ギガントほどではないがかなり大きい。エミーの頭部は、相手の腰の辺りだ。

「《フレイムストライク》。ん、問題なく倒せるようだ。弓は無視していいかな」

「俺の周りから離れなければ大丈夫そうだ。エミーを狙ってるヤツは頼む」

ジャネットが黒いスケルトンへと攻撃をしながら、俺と背を合わせる。

弓の攻撃は、ウィンドバリアに全て弾かれているようだな。

カイル達はカイル達で、数多いスケルトンの対処をしているようだ。

結局戦闘に参加させてしまったな。

数が多いので、俺の方にやってくる個体もいるな。

「ラセル、来てるぞ!」

「問題ない」

こちらの動きに気付いたカイルへ、軽く返事をする。

動きを見た限り、普通のスケルトンと大差なさそうだからな。

迫り来る黒き人骨の眼孔が妖しく光り、俺の頭を切り落とそうと腕を振り上げた瞬間——相手の肩目がけて剣を振り抜く!

「フェイントや威嚇を使うことはない、愚直な攻撃だな」

相手の剣が届く範囲でないと反応しないということは、構えた時には俺の攻撃も届く範囲ということ。

おまけに昔のヴィンス並に大振りだ。

力は強く動きは速いが、技術はあまりないようだな。

「——どっせい!」

俺達が周りの雑魚を片付けているうちに、メインのエミーはフロアボスの踏みつけ攻撃を盾で弾き飛ばして転ばせていた。

立ち上がろうとするフロアボスの足を盾で抑え込み、その勢いのままに跳躍して竜牙の大剣をボスの胸へと勢い良く突き立てた!

……あの戦い方は俺には無理だな。

「《ファイアジャベリン》!」

シビラが間髪入れず、炎の槍を……半端な場所に撃ち込んだ。

何を狙ったのかと思った直後、エミーの身体を捕まえようとした骨の手が、ちょうどシビラの撃った炎によって吹き飛ばされる。

「そいつの核けっこー硬いから、そのまま叩きまくって」

「わ、わかりましたっ!」

エミーは大盾から手を離すと、両手に持った竜牙剣を薪割りのように何度も叩き付け始めた。

金属や岩とは違う、くぐもった打撃音が『ゴッ、ゴッ!』と大きく鳴り響く。

その間もシビラは立ち上がろうとしたフロアボスの近くに石の板を出現させて転ばせたりして動きを抑え込んでいた。

両腕を振り上げてエミーを抑え込もうとしたところで、ジャネットからも炎の魔法が飛んでいく。

最後に骨のフロアボスは大きく痙攣すると、そのまま力を失って崩れた。

周りの弓兵も、ジャネットとシビラを始めとしてカイル達が全て片付け終えていた。

「《エクストラヒール・リンク》。皆、問題ないな」

皆が淡々と頷いたのを確認したところで、カイル達に振り返る。

驚きに目を見開く彼らは、すぐに俺達の方へと目の色を変えて質問責めを始めた。

「ラセル、君の剣は本当に飾りじゃないんだな! リーダーが【聖者】というのがどんなものか分からなかったがこれは納得だ、こんなの見たことがない!」

「最初に組んだシビラが剣を使う魔道士だったからな。俺も最初は杖を持っていたが、性に合わなくてやめたんだよ」

「ラセルの剣は天才美少女であるアタシの弟子第一号なのよ!」

「一度も教えなくても師匠を名乗れるんだな。ま、正確には【聖者】になる直前まで持ってたってだけだ。何か……イメージに囚われすぎていたように思う」

このことに対し、最初に反応を示したのは意外にもイーディスだった。

「剣! シビラさんって剣も魔法も使うんですね!」

「そーよ。アタシもラセルも、別に無理に使ってるわけじゃないわ。出番がなければなくてもいいし」

イーディスはカイルの方を向くと、カイルは口角を上げて頷いた。

……もしかすると。

「カイル達は、四人とも同門なのか?」

俺の問いに振り向き、『獅子の牙』の四名は同時に頷いた。

「女神の選定式がどういう理由かは分からないが、全員を剣士に選ばなかったんだ。俺達は幼馴染みみたいなもんだが、皆でパーティーを組もうと決めていてな」

カイルが振り返り、皆とその頃を思い出すように頷いていた。

その姿からは、選定式後も友好な関係を結べている互いの信頼がありありと窺える。

——幼馴染み、か。

カイルの言葉に、視界の隅でエミーとジャネットが僅かに俯く。

俺は、表情を表に出さずにいられただろうか。

下層へは、自分達だけで向かいたいことを伝え、俺達は中層を後にした。

帰りは混成パーティーとなり、俺はジョーイと共に後ろで控えることになった。

「一つ、謝らせてください」

「ん? 俺に言ったのか?」

突然声をかけてきた茶髪の優男のジョーイへ聞き返す。

特に失礼をされた覚えがないからな。

「正直ね……自分は最初、ラセルさんのことを【聖者】だからリーダーになった人としか思いませんでした」

「それに関しては、否定はしないが……」

「いいえ。ラセルさんは剣技を諦めず、仲間のためなら前にも出るんですね。羨ましいと思っていた自分に恥じ入るばかりです」

太陽の女神から授かった、最上位職の【聖者】。

羨ましい。普通はそうなのだろうな。

「さっき俺は、ジョーイを羨ましいと思った」

「……え?」

エミーとジャネットは遥か前方だし、軽く話してもいいだろう。

ヴィンスのことは伏せておく。

「【聖騎士】、【賢者】。それぞれ最上位職であり、回復魔法が使える。二人は俺の幼馴染みだ」

ジョーイは目を見開くと一瞬エミー達の方へ視線を動かし、息を呑む。

「今でこそ自分の立ち位置を確立できたが、上層での俺は本当に何の役にも立てなかったんだよ。ジョーイは【獅子の牙】で唯一無二だ。俺も最初からそうだったらな……」

人との関わりを持たずに生きることなど、今の社会では難しい。

誰かに必要とされることの嬉しさを意識していないと、誰からも必要とされなくなった瞬間に耐えられなくなるのだろう。

俺は、確かにあの時、自分自身が認めてしまうほど『必要とされなかった者』だった。

最上位職であっても条件が揃えば例外ではない。

「カイルと、イーディスとラナ。三人にとって剣聖の同門で【神官】はジョーイだけ……かどうかは分からないが、パーティーの回復術士を見知った顔が担えているのは大きいだろうな」

俺の言葉を吟味するように、ジョーイは幾度となく頷いた。

「……自分、明日からまた剣を持ってみようと思います。だけど、そうだ……みんな剣が持てるのなら、自分だけの本分があることが三人にとって何よりも大事なんですね」

「それを忘れなければ、大丈夫だ」

話す前より大幅に晴れやかな顔をしたジョーイに、眩しいものを感じる。

ずっと必要とされてきたパーティーの回復術士。同門でありながら選定式後も続く同門同士の縁。

いい関係だな、と素直に思う。

俺達は何故こうなれなかったんだろうな、 太陽の女神(シャーロット) 。

お前に聞けば、その答えも得られるのだろうか。