軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

生還した者達を見届け、再び第八ダンジョンへ

早朝からの捜索を終え、少し早い昼食を済ませることにした。

「くおお……! 久々、ってほどでもないが、まともなメシにまたありつけるとは!」

「アボカドチーズまだ残ってる? ある? やった! 味なしバットはもう勘弁願いたいわ〜」

カイル達の喜びを噛みしめるような声色を聞きながら、俺も肉を挟んだパンにかじりつく。

お、美味いな。俺の選んだものも肉の味に酸味の効いたソースがよく合っている。携帯食として一つ持っていこうか。

「それにしても……ちょっと痛感したよ。俺もなんつーか見えてなかった、王都の連中のことを言えないなって。もうちょい頑張らないとな」

「へえ、いいんじゃないか? ま、無理はするなよ」

「おいおい、君が言うのかい?」

楽しげに俺に言葉を返したカイルは、パーティーメンバー達と顔を合わせて笑い合う。

緊張が解けたのが一目で分かるその姿に、助けが間に合って良かったと思うな。

無論、助けに入った俺達だけの功績ではないだろう。

カイル達の会話から、ダンジョン内部の魔物を喰らったであろうことが分かる。

彼らが生きようと藻掻いた結果だろう。

さて、言った傍からというのは我ながらどうかと思うが、今日の予定を決めておくか。

「今日は再び第八に潜り、魔界まで潰しておきたい。どうだ?」

「おっ、いいわね。二人は?」

「私はたくさん食べて元気いっぱいなので大丈夫です!」

「僕も。あとこのパンは携帯食にして行きたいですね」

だよな——と俺が同意を示す前に、「分かるっ!」と力一杯賛同するエミーに苦笑する。

「若いって素晴らしいね! 期待しているよ!」

「エマも世界一の女神であるアタシのフレッシュさを認めるところね!」

「はっはっは、頑張れよ最年長!」

女神二人は緊張感のないやり取りをすると——突如、一転して真剣な表情で顔を寄せる。

「なるべく直帰するわ」

シビラの言葉にエマが頷き、すぐに陽気な顔でギルドマスターは俺達に一言残して去っていった。

「何だったんだ?」

「んー、秘密! にはしないわよ」

思わずどつきかけたが、さっき一瞬現れた鋭い目つきからシビラにとっても茶化せるような内容ではないことは予測がつく。

「下層フロアボスで確証が得られるから、その際に話すわ。戦い方の指示も出すけど……ラセルがいるなら大丈夫でしょ」

「おいおい、急に褒めるな。ダンジョン帰りが雨は気分最悪だろ?」

「あら、アタシはつっけんどん朴念仁カラス君の 職業(ジョブ) だけはいつも全幅の信頼寄せてるわよ」

一言どころじゃないぐらい余計なものが付きまくってるなおい……。

……ということは、【聖者】の能力が必要になる局面か。

「分かった、その時に指示をくれ。俺も残念詐欺師酒乱駄女神の頭脳だけは信頼してるぞ」

「んもう褒めすぎっ、すっかりアタシにベタ惚れね!」

あと、その神経の図太さと年相応の耳の遠さも信用してるぞ。

一度通った道である以上、中層フロアボスまではすぐに戻って来ることができた。

とはいえ、だ。

「……連戦だというのに、全く数が減っていないどころか——」

「——クッソ多いわね!」

俺の言葉を拾い、シビラがヤケ気味に怒鳴りながら魔法を叩き込む。

中層フロアボスは、スケルトンの集団だ。

カイル達と戦って分担してやっと倒した骸骨どもは、明らかに一回目よりも多い数で俺達をご丁寧に出迎えてきた。

「アドリアは特殊な例とはいえ、倒したドラゴンは一日中そのままだったな!」

「ドラゴンはダンジョンコアに溜めてる力バカ食いするもの! とはいえ、この……《フレイムストライク》! ギガントスケルトンだって安くないわよ!?」

上層のフロアボスの復活ペースといい、随分と能力の高そうな魔王だな。

果たして次に会うのはどんなヤツか。

四人で《ウィンドバリア》の中に固まった後は、ジャネットの炎の嵐が周りの雑魚をまとめて焼き飛ばした。

黒いスケルトンは妙に頑丈なようで、何度か魔法を受けてようやく動きを止める。

ジャネットが周りの骨を一掃したタイミングで、その間もずっと炎を全身に浴びながらエミーに体当たりをしていたフロアボスにも最後の一撃が決まる。

「もう一度だ、《アビスネイル》! どうだ!?」

炎も同時に浴びていたフロアボスへの何度目かの闇の爪が、巨大な姿の肋骨を一気にバキバキと裂く。

骸はその姿に相応しいように、眼孔の光を失い動かぬ白骨へと変化した。

「やれやれ、ようやく終わりか。下層は黒い骨の集団か?」

「どうかしら? まあ見てのお楽しみね」

別に楽しんでるわけじゃない、と返したところでジャネットが黒い骸の前で考え込んでいるのが見えた。

「どうした?」

「最初は黒いスケルトンが強いから倒しきれないと思っていたんだ。だけど、もしかしてこれが下層の魔物の『魔法耐性』なんじゃないかと思って」

ジャネットの問いに、シビラは肯定を示した。

「そうよ。基本的に下の魔物ほど魔法攻撃と近しい魔力の 素(もと) となるものを持ってるわ。魔王相手だと、半分ぐらいの威力になるかしら」

「……もしかして、【魔卿】って魔王討伐には不利職では?」

「ところがリビングアーマーみたいに、そもそも魔法しか効かない敵も出るのよね」

「実に理不尽な仕様ですね……。皆、下層に潜らないわけです」

「そーゆーものよ。魔物に限らずだけど、一定の攻略法が何にでも存在するわけじゃないように、世界は自分の都合に合わせてくれないもの」

少し渋い顔をする俺達に対し、でもね、とシビラは続けた。

「それを踏まえた上で、 職業(ジョブ) ってのを太陽の女神が対応策として全人類に与えているわけ。光属性はあいつもぽこじゃか人に与えられないので、そこは可愛いシビラちゃんに免じて妥協してほしいわ」

「ふむ……わかりました。一般属性魔法は私生活での汎用性も高いですし、そこまで悪くは思ってないですよ」

「良かったわ。でも今度シャーロットに直談判しましょ」

「それはさすがに……」

お、いいんじゃないか?

それなりに苦労してるんだ、ジャネットも『光属性を寄越してください』と言っても許されると思うぞ。

雑談を早々に切り上げて、俺達は下層へと足を踏み入れた。

いくら急ぎ足とはいえ朝一ではないのだ、ゆっくりしているとカイル達じゃないが日付が変わりかねない。

スケルトンで腹を満たす、というのは想像するのも嫌になるしな。

あまりいい思い出のない赤い壁に下層の敵は、異様にバリエーションが豊かになったスケルトンと黒ゴブリンの編成軍だった。

特徴としては、黒い骸骨どもの武器が槍になったり弓になったり盾になったり、更には腰を屈めて格闘を仕掛けてくるヤツなんかも現れた。

「……こんなところにも現れるんだな」

ダンジョン奥から窮屈そうに現れる赤いバットの姿に、どこか安心してしまう。魔物なのにな。

とりあえず、骨かゴブリンという選択肢は避けられそうだ。……いや、夕食前には帰るつもりでいこう。

「スケルトンはちょっと怖いけど、気持ち悪いのに比べたら全然! えいっ!」

「《フレアスター》。しばらくはこの魔法で何とかなりそうだ」

「……」

エミーは第七の時よりは余裕のある感じで、ジャネットは淡々と。

シビラは、後ろで黙々と敵を倒していた。

十三、十四、十五……下に行くにつれて敵の数も、種類も増えてくる。

黒スケルトンの持つ 刺突剣(レイピア) が眼前に迫り、ウィンドバリアに一瞬押し返された隙にダークスフィアを叩き込む。

目の前の対処を済ませたと思ったら、足元を這う黒い蛇が事前に張っていたアビストラップによって天井に吹き飛んだ。

「あんなに見えにくい魔物もいるのか……」

「ダンジョンブラックコブラね。強力な毒液を飛ばしてくるから、当たったら即回復治療」

「分かった。ところで——」

視線を前衛に向けると、エミーはちょうど紫色の巨大な山羊らしき魔物からの飛びかかり攻撃を跳ね返している。

ジャネットも逐次、エミーの横をカバーするように近づく魔物を焼き払っていた。

地下十五階とは思えないほど天井は広く、攻撃は多方面から多岐に渡る。

その向こうに大きな扉が見えたところで、俺はシビラに言葉を投げた。

「そろそろ、フロアボスの対処方法を事前に教えてくれてもいいんじゃないか?」

「ええ、そうね。ここまで来たらもうほぼ確定」

シビラは腕を組み、その強敵が待つであろう扉を見据えながら言った。

「三人へ指示。アタシの予想だと、一人動物園みたいなフロアボスが出てくるわ。確認次第、多少無理してでも速攻で倒して」

「分かった。予想が外れた場合は?」

「どっちにしろ時間をかけずに速攻で倒して」

ま、そうだろうな。

エミーとジャネットに目を合わせて、互いに頷いたところで再び魔法をかけ直す。

僅かな疲労も残さず身体から消え去ったところで、俺達は扉を開けた——!

——ボスフロアの中は狭く、空っぽだった。

「おい、何もいないぞ。《ダークスフィア》……天井にも何もいそうにないが」

気合いを入れていただけに、盾を構えていたエミーは少し緊張の抜けた表情でこちらに向く。

「あれ……でもラセル、後ろの扉ずっと檻ついてるよ」

エミーの言葉に振り返ると、確かに扉は閉まっていた。

じゃあ、ボスがいないわけじゃないのか。

俺達が疑問に首を傾げていると……ジャネットとシビラの様子がおかしいことに気付いた。

「どうした? 何か——」

「——《ストーンウォール》!」

俺の言葉を遮り、シビラが幾度となく作ってきた石の壁を再び作る。

ただし、床からではなく壁からだ。

「僕が続けます」

シビラの意図を受け取ったのか、ジャネットがシビラの魔法に続くように、無言で石の壁を次々に生やしていく。

「おい、何があった」

「こういう方法で来るなんてね……やってくれるじゃない」

気がつくと、ジャネットが次々と作った石の壁が、さながら螺旋階段のように壁伝いに作られていた。

なるほど、そういうことか……!

最初に自分で作った石壁の側面に乗ったシビラは、暗く続く天井を見る。

「魔道士いなけりゃロッククライミング確定のクソボスね。恐らく……このフロア自体が迷路化しているわ」