軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神々の恩恵と秘密、魔王達との確執

「あっちゃー、消えちゃったわね」

シビラは、崩落の収まったボスフロアに再び足を踏み入れて、周りを見渡す。

赤い瓦礫が広い空間に散乱しており、足場が悪い。

不思議なことに、あの球体キメラのボス本体は消滅してしまったらしい。

あの巨体だ、瓦礫の下敷きになっていても場所ぐらいは分かるだろう。

「それにしても、意図的に脆くしていたのか悪趣味キメラちゃんの攻撃力が高かったのか……天井が崩れたのは驚いたわね」

「普通は崩れないものなのか?」

「人間と一緒に『神気』が流れ込むことで、ダンジョンがある程度固定化されるの。ちなみに魔王は魔界側からも『魔界の瘴気』って仮称したものを流し込んでて、地上と押し合いしてるってわけ。ダンジョンを強固にするというよりは、動かせなくするって感じね」

確かに、探索中のダンジョンが突如崩落して生き埋めになったという話は聞いたことがない。

「この仕組みのお陰で、ダンジョン探索中は魔王が勝手にダンジョンメイクできないってわけ。帰り道を魔王に塞がれたらどっちにしろ全滅でしょ?」

そういえば子供の頃……洞窟の出口を塞がれてしまって出られなくなる、という想像をしたことがある。

無駄に想像力があってもいいことはない。

魔王が意図的にそんな状況を作り出せるのなら、誰も簡単に攻略できないだろう。

今までそういう事故が報告されていないのは、神の側から動かせなくしているということか。

「これに関しては……シャーロットが広めたがらないのだけど、まーみんなには話しちゃっていいでしょ。地上にいる人間は常に太陽の女神の恩恵を身に纏ってるし、ダンジョン探索中は地上の『神気』と繋がり続けているわ」

「……なるほどな、分かった」

常に太陽の女神の恩恵、か……。

この話は、これ以上シビラから聞くのはやめておこう。

もうすぐ太陽の女神に直接会うのだ、疑問に思ったことは本人にぶつければいいだろう。

——俺達人間は、自分達が思っているよりも遥かにダンジョン探索の仕組みを知らない。

「それじゃエミーちゃん、来て」

シビラに呼ばれたエミーは、指示を聞いて壁際に積み上がった瓦礫を吹き飛ばした。

ダンジョン最下層に繋がる階段が現れる。

「ボスの最後はラセルに攻撃したのか、天井を意図的に破壊させたのかは分からないけど……隠れる気満々って感じね」

「戦いには自信がないヤツのようだが、自信がなくても実力がないとは限らないからな。《ウィンドバリア》」

このダンジョンに現れた魔物を考えると、今までのマトモじゃない魔王の中でも群を抜いてマトモじゃないヤツだろう。

不意打ちも警戒して、俺達は第十六層の『最下層』へと降りた。

――結論から言うと、この最下層はハズレだった。

しかも、とびっきりのハズレだ。

「シビラはこれを、何と見る?」

「アタシに聞かなくても、あんたにも想像つくでしょ」

そりゃあ、こんなものを見せられたらな。

地面に散らばる、見慣れたもの。

ダンジョンスカーレットバット——の、羽だけだ。

羽だけ取り出されて、部屋の隅に積み上がっている。

「実験の残りだろ。生きている魔物はいないようだ」

「そうね。……エミーちゃん、大丈夫? 一応ここはもう敵らしい敵もいないから、上で待ってもらってもいいわよ」

「うう……すみません、お任せします……」

念のため、再度回復魔法と治療魔法も全員に入れておくか。

気分を悪くしたエミーが階段まで下がったのと入れ替わり、ジャネットは前へと進んでいった。

意外と積極的だな――と思っていると、ジャネットはフロアの中心にあるテーブルらしきものから、一つのものを手に取った。

「……『女神の書』か?」

ジャネットの手の中にあるのは、まさかの『太陽の女神教』の教義を書いた本。

そういえば……。

「思い出した。マデーラの魔王も、『女神の書』を持ってたんだよな」

「マデーラって、あの魔道具の街の?」

ジャネットの言葉に頷く。

何の変哲も無い『女神の書』は、どこぞの冒険者が落としたものを魔王が回収しただけなのかと気に留めなかったが。

「二冊目となると、偶然とは思いにくいな」

「そうだね。人間の冒険者が死んだのなら剣や鎧があってもいいし、ポーションを落としたのなら空瓶もあっていい。だけど」

戦いに必要ない『女神の書』だけが、魔王の住む部屋にある。

ジャネットは置いてある本をめくろうとして、「ん?」と呟くと本を上から覗き込み、後ろ側からページをめくった。

「どうした?」

「開く前に、少し薄いと思ったんだ。やっぱりそうだった」

ジャネットが『女神の書』の裏表紙を開くと、そこに隣り合っていたのは途中のページだった。

後ろの方だけ破った跡がある。

「へえ! 持っただけでよく気付いたわね。『女神の書』を読み込んでいるのかしら、シャーロットが聞いたら喜びそうだわ」

シビラはジャネットが持つ『女神の書』を笑顔で覗き込み……すぐに眉間に皺を寄せた。

「おいおい、機嫌の乱高下が秋の空並だな。何かあったか?」

「あったというか、なかったというか……。この最後のページ、の次が最終章なのよ」

シビラは、最後に書かれたページを指でなぞる。

「『女神の書』は、主に二つの内容が書かれているわ。一つは『神々の戦いの記録』で、もう一つは『人々への道徳共有』よ。人が、お互いの力でより良い生活を営めるように」

それが、女神教での教義に繋がっているのだったな。

「 魔王(ダンジョンマスター) は、セイリス同様に一人でダンジョンを組み立てて潜伏していたんだと思う。恐らく今は、第八か第九にいるわ。ならば、アタシ達が 第七(ここ) で見るものはもうなさそうね」

その言葉を最後にシビラは部屋の探索を切り上げ、階段へと戻っていった。

ここセントゴダートのダンジョンに現れた魔王は、誰に見せるでもなく最終章を自分の思うままに破った。

ふと湧いた疑問への答えを求めて、ジャネットへ問う。

「なあ、ジャネット。『女神の書』の最終章はどんな内容だった?」

「ん? ラセルは『女神の書』を暗記してはいなかったのか」

最後に通して読んだのはまだ子供の頃、フレデリカの授業でだったからな。

あと暗記までしてるヤツはあまりいないと思うぞ……。

「『女神の書』最終章はね――」

ジャネットが、不完全な本をテーブルに戻して言う。

「――神々が『地上は人間のためのもの』と宣言して、人々の前から去る話だよ」

ページを失った『女神の書』の背表紙は、その埋まらない溝を補完できないように弛んでいた。