軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

相手が異質な存在でも、考えを読めば糸口はある

下層フロアボス、目玉と羽を雑に取り付けた球体の魔物。

その目の一つが薄らと光り始める。

「エミーちゃん、 吹(・) き(・) 飛(・) ば(・) し(・) て(・) !」

シビラの指示を瞬時に理解したエミーが、盾を眩く光らせる。

同時にヤツの目から光線が伸び、横に線を引くようにダンジョンの壁面をなぞった。

次の瞬間、フロアの一帯が爆音と共に燃え上がる!

パーティーメンバーを大きめに包み込んでいたウィンドバリアは、僅かに掠っただけで消し飛ばされてしまった。

俺達が無事なのは、その熱線がエミーの盾によって向きを変えたからだろう。

あれに直撃した結果など、考えたくもないな。

「うわっ熱! くない!」

「ファイアドラゴンの鱗は熱を全く通さないわよ。逸れるとまずいから、なるべく受けて。……それにしても」

シビラは、燃え上がるフロアと上空に浮かび上がった物体を見て溜息を吐く。

「近接攻撃パーティーだったら、もうこの時点で『詰み』よね。エミーちゃんの後ろからは離れないで撃つわよ」

「分かった。《ダークスフィア》」

いくら不気味なボスでも闇魔法が効かないことはないだろうと思い、幾度となく魔物を屠ってきた闇の球を撃ち込む。

衝突の瞬間に、大きく爆発し広がる——と予想していたが。

「何だあれは……」

フロアボスは、空中に浮かんだまま高速移動で避けた。

俺の攻撃は、赤い天井に激突して空しく広がるのみだ。

正面の目玉はこちらを凝視しながら、横にある目玉はダークスフィアの爆風を見届けるとこちらへと視線を向けた。

……あの見た目であんなに機敏に動くのかよ。

生き物としてあまりに不自然すぎて、エミーじゃなくても生理的嫌悪感を覚えてしまうな。

攻撃を避けたフロアボスは、再び目を光らせ始める。

エミーが防いでくれるとはいえ、あまり何度も浴びたくはない攻撃だ。

「動く敵なら——《ライトニングボルト》」

無論こちらも受けるばかりではない。

ジャネットは、場所を変えたフロアボスとエミーを対角線上に挟むよう位置を変えながら雷撃の魔法を放つ。

雷は、光と同様に恐ろしく速い。

鋭い音を立てて杖から稲光が放たれ、避ける間もなくボスに当たる!

「……どうやら、ダメだね」

ジャネットが呟いた通り、彼女の雷は確かにボスまで到達した。

しかし魔法は身体の表面を幾度か撫でると、特に相手にダメージを与えることなく消滅してしまったのだ。

一方、ジャネットが小さく呟いた間にも空中の魔物は反撃の魔法を絶え間なく撃ってきており、エミーはその攻撃を集中しながら黙々と防いでいた。

「一通り試してみる」

牽制なのか、それとも何か考えがあるのか、ジャネットは炎や氷などの魔法を次々と相手に向かって撃つ。

結果はというと……ヤツはその全てを受けても無傷だった。

無論敵も、上空でこちらへと一方的に魔法を撃ってきている。

こちらにダメージが入らないことが癪なのか、光線がそこら中を雑に薙ぎ払いまくり、辺りはさながら火事を起こした民家の如しだ。

アビスサテライトを考えていたが、これでは即消されて終わりだな。

(負担が集中しているかもしれないな。《エクストラヒール・リンク》)

「エミー、大丈夫か?」

「防ぐ分には全く問題ないんだけど! 攻撃には参加できないかも! できれば見たくないから! ごめんね!」

「いや、構わない。飛びかかってもあの動きじゃ避けられるだろう、守りに集中していてくれ。頼りにしている」

「守りなら任せて! でも早めにお願い! もういろいろ無理で集中力きれそう!」

今の状況でもこちらが瓦解していないのは、間違いなくエミーの防御が圧倒的に上回っているからだろう。

本当に、よく防いでくれていると思う。

「どこまで効かないんだろうね。《フレアスター》」

ジャネットは、あのケイティも使っていた魔法を選んだ。

詠唱をどれほど重ねているのか、炎の球体は目に見えて大きい。

並大抵の魔物なら、飲み込まれた時点で消し炭になるであろう魔法だ。

近くにいるだけでも、ジャネットの本気が肌で感じられる。

ある種、ジャネットらしい探究心と実験のような魔法が、フロアボス目がけて飛ぶ!

——結果。

あの魔物は、その巨大な魔法を羽で弾き飛ばしてしまった。

「おいおい、あんなに簡単に弾かれるものなのか?」

俺の問いに、シビラは首を振って否定する。

「恐らく表面にある羽、下層フロアボスの……例えばグリフォンとかから移植してるかもしれない。実はこの奥、ハゲちゃった可哀想なフロアボスちゃんがいるのかもね」

こんな時でも、いやこんな時だからこそか、シビラは冗談も交えながら相手の分析を始める。

いざ素材になった魔物のことを想像すると、なるほど幾分か笑えてきたな。

そうだな、緊張しても仕方がない。

用があるのは、この先なんだ。

それにしてもこいつを作った魔王は、その辺りも含めていろいろ考えているってわけか。

下層になるほど魔道士の魔法は効きにくくなると聞いていたが、ここまで強いとは厄介だな。

まあこちらもファイアドラゴンの鱗を使わせてもらっているのだから、その辺りはお互い様というところか。

「ならば……これなら。《トルネード》」

ジャネットは、アドリアのダンジョンでも使った竜巻の魔法を選んだ。

入る前に俺も 防御魔法(ウィンドバリア) をかけていたとはいえ、こいつの影響は大きい。

効果範囲外とはいえ、暴風の影響を身を屈めて相手の様子を見る。

『————』

さすがにこの魔法なら、空中に浮かんでいてその場に留まることはできないだろう。

急な暴風を受けて大きく壁に叩き付けられた魔物は、その目を見開いてジャネットの方を見ると、羽を畳んで地面へと身を屈めた。

まさか、踏ん張っているのか? あの球体に脚という概念があるとは思えないが……確かに風で飛ばされなくなってはいる。

だが、動かないというのなら都合がいい。

「《アビスネイル》!」

ジャネットの竜巻で踏ん張る魔物目がけて、俺は全力闇魔法を放つ!

俺の初手。

その時はフロアボスの素早い動きと反撃の激しさに衝撃を覚えたが、その後のこいつの動きを考えると、むしろそれが俺の疑問を確信へと変えさせる結果となっていた。

こいつは最初のシビラの石魔法を、片手間に弾いた。

ジャネットの激しい雷撃も、まるで効いていなかった。

あの炎の塊ですら、あっさりとその羽で弾いてしまったのだ。

だから余計に思ったのだ。

まるで見せつけるように魔法を受けて見せたこいつが、何故初手の俺の闇魔法は回避したのか。

その理由は一つ。

「そりゃあ避けるよな。闇魔法は竜にも魔王にも効くのだから、お前の羽がどんな素材であれ防げるはずがない」

闇の爪が魔物の身体を貫通し、 夥(おびただ) しい目の瞳孔が一斉に小さくなる。

明確に効いたな。鼻も口もないが、腹芸は苦手そうで何よりだ。腹もなさそうだからな。

『————!』

声を上げられないフロアボスは、ジャネットの魔法が切れた瞬間に、何と体当たりで反撃してきた!

衝突した瞬間に地震のような揺れがフロア全体を揺らし、エミーの盾が相手を弾き飛ばすも、空中移動と同じ要領ですぐに着地して再びエミーにぶつかる!

「わああああ無理無理無理!」

エミーは悲鳴を上げながら両手で盾を握りしめ、目を閉じて吹き飛ばす。

先ほどと同じように吹き飛ばされ、やはり先ほどと同じように吹き飛ばされる前に地面へと降り立つ。

——ここだ。

「《シャドウステップ》」

攻撃パターンが光線から怒り任せの体当たりに変わった。

同じように動くならば、俺にもできることがある。

俺はシャドウステップによる瞬間移動で、着地した瞬間のフロアボスの上へと移動した。

剣を深く突き立てて切り開き、その中に左手を勢い良く入れる!

「不気味な見た目に反して、中身は随分と人間味に溢れてるなあおい。随分とエミーを怖がらせてくれたが、楽しかったか? これはその礼だ——《ダークスフィア》!」

二重詠唱による渾身の魔法で、球体のフロアボス体内へと闇の爆発を叩き込む!

身体の中がどうなっているかは分からないが、表面ほど頑丈ではないだろう。

現状をようやく認識し、フロアボスの怒りを感じる目が一斉に俺の方を向いて光り始めた。

だが、遅い。

(《シャドウステップ》)

攻撃が激しくとも、その向きがあくまで直線的であることを考えれば避けるだけなら容易い。

怒り任せの熱線が天井に集中したと同時に大爆発を起こすが、その時は既に俺はエミーの盾の後ろ、シビラの隣に戻っている。

頭の中に、ここ最近は聞き慣れた声が聞こえる。

どこかで聞いたような気もするが、この声が知り合いのはずがないので他人の空似だろう。

「——退却!」

俺がそんなことを考えていると、シビラが指示を叫んで上り階段へと走った。

残る二人と一瞬目を合わせ、俺達は深く考える前にシビラの後を追う。

階段を塞ぐ魔力の壁はなくなっており、あの不気味なフロアボスを倒せたことだけは明確に分かった。

考えることはまだ多いが、とりあえず今はそれだけで十分だな……。