作品タイトル不明
要素の増築は決して良い結果をもたらすとは限らない
次々現れる魔物。
数も大したことなければ、能力も高くはない。
だが——。
「……。……うえぇ〜……」
前衛で戦うエミーからは、時々小さく呻く声が聞こえてくる。
無理もないだろう。
この層には、歪に合成された魔物しかいないのだから。
大体の敵は近くに来た瞬間にジャネットが倒しているのだが、出会い頭に走ってくる魔物はエミーに負担がかかっている。
「ホント、徹底してるわね。エミーちゃん! 前衛ラセルと変わってもいいわよ?」
「……! いえ! だいじょーぶですっ! 前はお任せください!」
エミーは気丈に叫び、再び現れた魔物を光る盾で吹き飛ばしていく。
「前をラセルに譲るぐらいなら、ってところかしら? ん〜、愛されてるわね〜」
「茶化すな。能力的には心配していないが、精神的な面が気がかりだ」
「じゃ、一区切りついたら全力で褒めてあげて。それが一番の支えになるはずよ」
その程度でいいのなら、お安い御用だ。
「……あっ、ここで終わりかな?」
呟いたエミーの視線は、第五層の大扉を向いていた。
「うっし、第五層もこれで終了ね。一応周りの様子も探ってるけど、残りの魔物もなし……とはいえ、神域破りなんて到底できそうにない実験物だったけど」
羽の生えた魔物が、ダンジョンの入口地面付近に溜まっている神域を飛び越えて地上に現れる。
しかし、それには当然『飛び越える』ことが必要不可欠になる。
ジャネットが燃やしたオークのキメラは、太った身体に小さな羽を取りつけた状態で地面に倒れていた。
……とてもではないが、飛べるとは思えない。
「エミーは、守りに徹してくれ。ジャネットとシビラは、俺と共にとにかく先制攻撃だ。地形によるだろうが上層のフロアボスなら大したことはないだろう。シビラもそれでいいな?」
「ええ、賛成。相手の考察は、倒した後にでも考えましょ」
シビラから同意を得たところで、エミーは扉を開く。
だが、扉を開け放った先には何もいなかった。
ボス不在か?
「《フレイムストライク》!」
「《フレアスター》」
「——《ダークスフィア》!」
と思ったが、シビラとジャネットが同時に魔法を天井目がけて放った!
上か!
今回の探索では、ダンジョン内の魔物を残すわけにはいかない。
だから魔道士系の二人は、どちらも 索敵魔法(サーチフロア) を使っている。
故に、入ったと同時に気付いたのだろう。
高い天井の奥に、魔物が潜んでいることに。
俺も視認していないうちから、二人の行動を信頼して同じ方向へと魔法を叩き込む!
「えっ!? あっ……わあーっ! でっか!?」
更に一歩遅れて事態を把握したエミーが、天井に向けて盾を構える。
燃え尽きた魔物が落ち、衝突の直前にエミーの盾が光った。
壁に激突した魔物がゆっくりと地面に落ち、その全貌が明らかになった。
「バットに見えるが……尋常でないサイズだな」
ダンジョンから地上に現れるダンジョンスカーレットバットは、動物としてのバットに比べてかなり大きい。
だがこいつはその比ではない。
「前戦ったドラゴン並のサイズね。というより……これだけ大きくちゃ、羽を広げることもできないわ」
確かに、バットは身体の大きさに比べて、羽を広げきったサイズが圧倒的に大きい。
しかしその腕を全開まで伸ばしきらなければ、風の力を受けて飛ぶなど不可能だ。
「強くなるように加工したようで、結局弱体化している。飛ばないバットはただの的だ」
ジャネットは小さく呟くと、バットから興味を失ったように目を離した。
このフロアボスで見るべき部分はもうないという判断だろう。
……さて。
「エミー、助かった。落ちてきた後のことは考えてなかったからな」
「あっ、ううん! むしろ今回何もやってないぐらいだよ!」
「俺にとっては、一番役に立ってるさ。ありがとな」
そう伝えると、エミーの髪についた汚れを落とすように軽く撫でた。
子供の頃のようで少し気易いかと思ったが、今更そこまで遠慮する仲でもないしな。
エミーは一瞬目を見開くと「どういたしまして!」と明るく笑った。
小走りで階段近くまで行くと、盾を持ったまま両腕を挙げて静止している。
何だ? 大丈夫か?
シビラはエミーの様子を確認して俺に向かって親指を立て、ジャネットは無言で頷いている。
「大変よろしい」
「……本当か?」
「もう大丈夫そうね」
まあ、シビラのこういう時の言葉は外れないので信用してもいいとは思うが……。
ちなみにそれからのエミーは、シビラの宣言通り下層攻略まで安定していた。
現在、第十五層。
残るは下層のフロアボス一体と、その奥の魔王のみだ。
「いやー、それにしても……」
シビラは腰に手を当て、首を回しながら後ろを振り返る。
倒れ伏した、黒い獣。
ダンジョンブラックウルフ……ではない。
「カラスの羽が背中についてるけど、全く動かなかったわね」
「そりゃあ脚で走った方が速いだろうからな」
ここまでの魔物は、徹底して『羽』が取り付けられていた。
正直、数は大したことない上に、弱い。
ラビットの小さな身体に大きな羽ならともかく、下層の魔物は大きな体躯に比例した力が特徴だ。
この魔物達が飛べたら、確かに脅威だろう。
だが実際は、空を飛ぶなど不可能だ。
身長が二倍になれば体重は八倍に、三倍になれば二十七倍になる。
その巨体を支えるには、小さな鳥とは比較にならないほど大きな羽が必要になるだろう。
そんな巨大な羽を持っていたらどうなるか。
当然、ダンジョンでは羽が広げられないのだ。
逆に羽を広げられるサイズしか持てていない魔物は、羽があっても飛べない。むしろウルフなど、自分の脚で跳んだ方がマシだろう。
結果、ここにいた魔物は『意味の無い合成』としか言えない代物だった。
「動物って、ある程度地上での最適解を元にしているのよ」
シビラが、倒れた魔物を見ながら呟く。
「だから、そこから外れたら当然不整合が起こる。脚だって鳥は余計な体重がないように肉がないし、身体は丸く小さいわ」
「それがこいつらにはないってことか」
「そういうこと。設計ミスの、車輪の動かない馬車みたいなものね。センスないわー」
こんな状況だからこそだろうか、肩をすくめてシビラはおどけてみせた。
「次は何が出ると思う?」
「あまり想像したくないんだが……。エミー、大丈夫か?」
「あっ、うん。もちろん大丈夫! 慣れたらなんだか同じようなネタで見慣れちゃったし、むしろ弱いので楽かな?」
エミーの能力は心配していないが、精神的にも大丈夫そうだな。
「《ウィンドバリア》。上層、中層と同じように攻略するが、明らかに異質だった場合は臨機応変に」
「オッケー。順当に無理な羽が生えてる魔物だといいわね。ドラゴンみたいなのじゃなければいいけど。あっ、アタシ変なフラグ立てた?」
何か変なことを言ってるが、説明されても分からないので無視。
それにしても、ドラゴンか……あまり頻繁に出会いたい相手ではないが、能力を上げるためならあれほどいい相手もいない。
気分的には、半々だな。
「それじゃ、行きますね!」
エミーが扉を開け、盾を構えて第十五層のボスフロアへと足を踏み入れる——!
「むりむり、無理無理……」
エミーが盾を両手で構えて、今までになく青い顔をしている。
「これはもうエマの方が大分マシ、だから悪趣味は言い直すわ。超、悪趣味ね。《ストーンランス》」
シビラが、巨大な空間に鎮座して動かないフロアボスへと魔法を放つ。
その石の槍は、ボスの身体から生えた羽にたたき落とされた。
それと同時に、フロアボスのどこか眠そうに半目になっていた 四(・) 以(・) 上(・) の(・) 目(・) が大きく開き、同時にこちらへ向いた。
その巨体の足元に魔法陣が現れ、赤い毛皮を被った球体の魔物が不自然に浮かび上がる。
……そう、球体だ。
赤い毛皮に、目と羽が明らかに異様な数ついている、最早他の魔物に喩えることもできないような姿が、ここのフロアボスだった。
「あんまり後ろ向きなことばかり言いたくないから、一つ楽しみなことも考えるわ——こいつを倒した暁には、作った魔王の意図、是非とも根掘り葉掘り聞いてやろうじゃないの」
その声と共に、下層フロアボスとの戦いが始まった。