軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七ダンジョン、魔王から感じる執念と悪意

今日入る第七ダンジョンは、昨日俺達が探索した第九ダンジョンとは違う場所だ。

中にいる魔物は、街の外まで出ていたダンジョンスカーレットバットのみ確認している。

「一応報告もらってるけど、中を探索してすぐバットが溢れ出したからそいつら以外は確認してないらしいわね」

シビラは既に職員から一通りのことを聞いているようで、ダンジョン入口に足を踏み入れながら説明を始めた。

「昨日の第九とよく似てて、あっちの職員も 第七(ここ) をそれなりに進んだ辺りで、いきなりバットが一斉に現れたらしいわ」

「職員は【剣士】や【魔道士】で、レベル20以上。かなりのベテランよ」

「それでも倒しきれなかったのか」

「狭い通路でもない限りは無理だろうし、何より無視して外目指されちゃどうしようもないわよね」

それはそうか。

俺達だって、一体も残すことなく倒すということには全力だった。

正直、誰か一人が欠けていたら全てを防ぐことはできなかっただろう。

「幸いにも強い魔物がいきなり上層、なんてことにはなっていないけれど」

「油断はできそうにないな」

俺の言葉に皆が頷き、ダンジョン奥を見る。

シビラは無論のこと、ジャネットも《サーチフロア》を使っているだろう。

二人が何も言っていないということは、まだ魔物が出ていないと考えた方がいい。

「エミー、奥の様子はどうだ?」

「今のところ、脇道は無いと思うよー」

広い道を進みながらも、エミーは時々盾を光らせて前方を照らす。

あれは【聖騎士】専用の特殊なスキルだが、特に魔力を消費することなく使えるらしいので何度も光らせて進んでいる。

便利そうだし、負担もなさそうだな。

ふとジャネットが前に回り込み、エミーの顔を覗き込んだ。

エミーは急な行動に驚いていたが、ジャネットはエミーの表情を見て明確に微笑むと、後ろに下がった。

……今のは何だったんだ?

何かジャネットにとって喜ばしいものでもあったのか?

「なあ、シビラ」

「それは乙女の秘密よ」

「……まだ何も聞いていないんだが」

シビラはシビラで実にいい笑顔をしていた。

時々俺にだけ分からないことが頻発するのは一体何なんだよ……やれやれ。

「エミーちゃん! 階段が見つかるまで走ってくれるかしら!?」

「わかりましたーっ!」

エミーは大声で返事をすると、後続を離さない程度に走り出した。

俺達も後を追いながら、周りを見回す。

このダンジョンは、確かに天井も横幅も広めだ。

……そう、まるで魔物が横からすり抜けられるように。

「騙し討ちはなさそうな場所だが、魔物がいないのは拍子抜けだな」

「昨日一気に出てきたからでしょ。……まあ、だから余計に厄介なのだけれど」

「どういう意味だ?」

俺の問いに、シビラは前を走るエミーにも聞こえるように声を上げる。

「要するに、昨日は短期決戦か全力偵察のつもりで、魔物に自分の作戦を伝達させたということ。それができるということは」

「……ここの魔王、セイリスの魔王と同タイプか」

「全く同じじゃないとは思うけど、近いレベルである可能性は高いわね」

あいつか……あいつは厄介だった。

下層のフロアボスを地上で解き放つという離れ業をやってのけ、自身は三人分の能力を持つ魔王。

尋常ならざる、人間の限界を遥かに凌駕した存在だった。

「あれと同レベルの魔王が地上に現れるということは、最も考えたくない事態だな……」

「んー、そうなるのかしらね」

ふと、シビラが何か曖昧な言い回しをした。

何か気になることでもあるのかと聞き直そうとしたが、それより前にエミーの声が届く。

「ありましたー! 階段!」

「オッケー! 第一層、なんもなし! ジャネットちゃん、どう?」

「驚きました。本当に何もいないですね。レベル分は索敵範囲を広げられるんですが、どれだけ広げても本当に一体もいません」

ジャネットは、【賢者】……その中でも魔道士最上位である魔卿寄りでレベルは55だ。

そのジャネットが一体もいないと言うのであれば、この第一層は完全に何もいないのだろう。

「魔王がやる気出してない、とは考えられないわね。自然発生しやすい上層の魔物がいない時点で、上層の魔力を下の方に集めているのかもしれないわ」

シビラの言葉に気を引き締め直し、第二層へと降りる。

……それから第二、第三、第四層まで何もなく進んだ。

「走ってばかりだけど、そんなに広くもないし脇道もない。次は第五層。フロアボスぐらいはいてほしいものね」

「ああ、そうだな。神経が緩みそうだからそろそろ何か出てきてほしいところだ」

そう返事しながら軽く剣を振り、第五層へと降りた。

第五層へと進んだ俺は、自分の言葉に後悔した。

確かに何か出てきてほしいとは思ったが……まさか、こんなものが現れるとは……。

「うええ……」

エミーが苦手そうな声色のまま、盾を前に構える。

襲いかかってきた魔物にエミーの盾が光り、その反撃で魔物は呆気なく絶命した。

ジャネットは杖を構えつつも、シビラの反応を待つように振り返る。

「なあ、シビラ。こいつは一体何だ……?」

「……」

俺の問いに沈黙し、シビラは魔物の死体を確認するように足を進める。

アドリアで見た顔と、小さな身の丈。

近い魔物を挙げるなら、こいつはゴブリンだった。

だが。

「キメラね」

シビラが小さく呟き、魔物の死体を蹴っ飛ばす。

ごろりと転がったゴブリンが両腕を広げて倒れ込む。

ゴブリンは、両腕がバットの羽になっていた。

……何だ、この姿は。

これではもう、このゴブリンは戦えないはずだ。

エミーに襲いかかってきた時も、飛べないなりに羽をばたばたと動かして、噛みつこうとしていた。

正直、これならまだ標準的なゴブリンの方が強い。

「次が来たわ」

シビラが視線を向けた先には、マデーラで戦ったオークがいた。

だが、その両腕は例外なく羽になっており、太った身体で飛べない羽をズルズルと引き摺っていた。

魔物は人間を襲うために生まれてきた存在で、普通の生き物と違う。

だが、それらと比べても、ここの魔物はあまりにも異常だ。

目的のためなら意味の無い実験も厭わない、何か執念のようなものを感じる。

エミーでなくても、これは生理的嫌悪感が勝るな……。

これほど魔物を、魔王を不気味だと思ったことは初めてだろう。

「はぁ〜〜〜……」

シビラは大きく溜息を吐き、一つの結論を言った。

「とりあえず分かったこと。魔王はどいつも変人だけど、ここのヤツはとびきり悪趣味」

その言葉と同時に魔物が襲いかかったため返事する者はいなかったが、間違いなく全員が同意しただろうな。