作品タイトル不明
導き出した答えが、その人の本質となる
角と羽の生えた、歪な兎の魔物。
その死体を見渡しながら、シビラは思案する。
「さーて、ここからどう行動するべきか……ラセルの判断に任せるわ」
どうって、シビラも魔王を倒しに行くと思っているんじゃないのか?
……と思ったが、シビラがそう聞くということは、何かしらその選択に問題があるのではないだろうか。
現状、俺が魔王を倒しに行くことで利点と欠点がある、とかな。
まず利点。当然、魔物が溢れてこなくなる。
確かシビラの話によると、数百年の間は間引かなくてもいいぐらいの影響はあると。
もう一点は、セイリスの例を考えると、そういう魔王が表側に出て来なくなる。
魔王を倒しに行くことによる欠点があるとすれば、『今、俺達がダンジョンに潜っている』ことに関してだろうな。
稼ぎ場がどうとか、そういう話はあの巨大な第二ダンジョンを見た後だと意味がないだろう。
その上で、今の俺がダンジョン攻略した場合に起こること。
まあ、考えられることは一つだけだな。
「問題は、残り二つのダンジョン及びパーティーか」
そうだ、アドリアのダンジョンを最初に攻略したが故に、あまりにもそちらを基準に考えすぎていた。
現れたばかりのダンジョンとはいえ、第二層が魔界とは限らない。
あの場所はシビラも驚いていたことから、例として参考にならないだろう。
セイリスの第四ダンジョンは、第二層……に見せかけて、第三層が時間のかかる広い地下空間になっていた上で、魔界が第四層だった。
足元の魔物の死骸を見て思う。
ただでさえ、溢れさせないだけで大変だったのだ。
「二つのダンジョンの魔物が、上手く処理されていなかった場合、今頃は……」
魔物が、セントゴダートの森に溢れている可能性が高い。
少なくとも、この新規ダンジョン三つが同時に現れたのは偶然とは考えにくいだろう。
——魔王討伐を可能とする力を手に入れた。
実際に、魔王を倒してきた。
だが、その結果は何のためのものか。
何よりも魔王討伐者としての自尊心を得るのもいいだろう。
それは紛うことなき、ルナが憧れる影の英雄【宵闇の魔卿】のあるべき姿だ。
しかし、思うのだ。
それが誰かの悲劇より優先された瞬間、【聖者】としての俺は死ぬと。
俺を『黒鳶の聖者』と呼んだ、ブレンダの思う俺ならばどう判断するか。
ルナや、フレデリカ達が襲われそうな中で、魔王討伐を優先する俺が果たして英雄と呼ぶに相応しいか、
考えるまでもないよな。
「ここで魔王を倒す利点はある……が、それで街に被害が出てしまっては意味がないだろう」
俺の出した答えを理解し、シビラは嬉しそうに頷いた。
「シビラ、俺達は元々第一層の探索を任されていたな。第二層まで降りた後、そこが魔界でなかった場合はすぐにダンジョン外まで戻る!」
「わかったわ! ラセルはエクストラヒール・リンクを常時使い続けて。エミーちゃんとジャネットちゃんも、それでいいわね」
「はいっ!」
「ん」
俺達は方針を決めると、ダンジョンの奥へと進んでいった。
結論から言うと、広い第一層を探索して降りた先の第二層は、まだ『上層』の色だった。
恐らくだが、ここは第十六層まであるのだろう。
ダンジョンメイクというものがどういう能力で行われるかは分からないが、最悪の事態を予測して考えた方がいいだろう。
「シビラを先頭に、ダンジョンを出るぞ!」
俺は複雑なダンジョンの迷い道をシビラに任せ、急いで地上へと戻った。
途中、ジャネットが俺の方を振り向く。
「ラセル。魔力、大丈夫?」
「問題ない。疲れないだろ?」
「運動不足の身としては、これほど有り難いことはないね」
「ああ。……ところで」
ジャネットに、折角なのでふと気になることを聞いてみる。
「どこが運動不足なんだというぐらい、走りについていけてるよな。隠れて体力でもつけてたんじゃないのか?」
冗談半分で言ってみたが、ジャネットはなんと、淡々と頷いた。
「遅い動きで負荷をかける運動があってね。読みながら体を動かしていたよ。本の知識だから、実践してみたくなってね」
マジかよ、本の知識なら何でもアリだな……。
「一時期体力が落ちてたけど、もう回復した。後は、ラセルもそうだと思うんだけど、術士のレベルでも体力はつくでしょ」
「……ああ、そういえばジャネットは」
俺と同じ術士だが、【賢者】レベル55だ。
俺だってエミーほどではないが、女神の職業を得てから僅かながら体の能力が全体的に上がったことは感じている。
ならば当然、ジャネットも上がっているだろう。
「今腕相撲をしたら、僕が勝ったりして」
「勘弁してくれ……エミーならともかく、ジャネットに腕力で負けるとか悪夢でしかないぞ……」
「ま、さすがにそれは有り得ないと思うけどね。でも、結果がどうあれ負けず嫌いなラセルはすぐに僕を追い抜くと思うよ」
そりゃ褒められてるということでいいんだよな……。
とはいえジャネットは、俺とヴィンスの剣術指南依頼を再々受けていたヤツだ。
そりゃ俺のことなど俺以上に知っていてもおかしくはないか。
「僕からも、もうひとつ質問」
「何だ?」
「僕と会話しながらも、頭の中で魔法使ってるの?」
「まあ、一応な」
「……練習しておく」
「すぐにそう返すあたり、お前も大概負けず嫌いだと思うぞ」
俺の返答に、面食らったように首を引いて目を見開くと、口を尖らせて俺をじーっと見た後、シビラの隣まで行ってしまった。
必然的に俺の隣が交代し、一連の会話を聞いていたエミーと目が合う。
「……やれやれ、拗ねたかな」
「でも言っちゃうの、どっちも負けず嫌いだからだよね」
「エミーもだろ?」
「そうかな? そうかも?」
そこでそう返す辺り、さほど負けず嫌いって感じはしないかもな。
どちらかというと、エミーは『負けてはいけない』と『負けても仕方ない』ぐらいの感覚な気がする。
それが強い意志でもあり、危なっかしくもあるが……。
ま、お転婆は昔からだし、俺が回復してやればいいか。
「はいはい、いちゃついてないでそろそろ出口よ!」
シビラの声とともに、ダンジョン外からの光が視界に入ってくる。
そうだな、俺達はここからが本番だ。
剣の柄に手をかけ、俺はもう一度回復魔法を皆に使った。
ダンジョンから出た直後、待ち構えていたのはギルドの職員達だった。
武器を手に、出てくる魔物にいつでも攻撃できるよう構えていた。
案内をしてきていた女性が、驚きつつ声を出す。
「皆様、もうお戻りに! いえ、今はそれよりも」
「分かってるわ! 連絡、こっちは第一層、全部倒したから大丈夫よ! 他のダンジョンから魔物は——」
シビラが返答した直後、他の職員の視線を追ってセントゴダート方面に目を向ける。
「あれは……!」
そこにあったのは、セントゴダート城壁をバットの群れが囲い込むという、悪夢のような光景だった。
「『宵闇の誓約』次の目標はヤツらだ! 行くぞ!」
目の前の光景に俺が叫んだと同時に、全員が一斉に動き出した。