作品タイトル不明
特別な力を行使できるが故の制限
いくら高い壁で厳重に街を守っているとはいえ、セントゴダートは太陽の光まで遮ってはいない。
空からの攻撃を防ぐことは不可能だ。
向こうのギルド職員も対応しているようだが、魔物の数が多い!
特に、空まで出てきた魔物は狙いが定まりにくいのが問題だ。
ダンジョン内で戦う場合とは、全く勝手が違ってくる。セイリスのトンボ野郎を思い出すな……!
「僕の番だね。《サンダーショット》」
ジャネットは魔物を確認して小さく呟くと、強力な雷の魔法を相手に向かって撃ち込んだ!
放たれた雷撃は魔物まで高速で飛んでいき、バチッと火花を散らしてバットが落ちていく。
「溢れてるのは第七方面ね。第八は成功したのかしら」
シビラの呟きに、俺達のいたダンジョンは魔物の種類が違ったことと、空を飛んでいる魔物が一種類であることを意識する。
つまり、今空を覆っている魔物はダンジョン一つ分か。三つとも防ぎきれなかった時のことは考えたくないな……。
「初期探索には、必ず手練れが使われる。だから職員や上級ランクをダンジョン内部に誘い込んだ状態で、一斉に魔物を溢れさせたのね」
「やり方がいやらしいな……」
会話しながらも走っていた俺達だったが、街に近づくにつれ様子がおかしいことに気付く。
「何だ、あれは……魔物が弾き飛ばされているのか?」
バットは街壁から街の中に入ろうとしているのは見えるが、幾度となく弾き飛ばされているのだ。
ここからでは見えないが、街の中から攻撃を受けているのか?
「ああ、あれはセントゴダートの魔道具ね」
……魔道具?
あの魔物を全て弾き飛ばしているのが、魔道具の力だというのか?
「ほら、壁の上に綺麗な宝珠がずらっと並んで光ってたじゃない。あれは面白イルミネーションじゃなくて、街を守るための機能よ」
そういえば、ダンジョンに潜る前に街壁の宝珠が光っているのを見たな。
あれは魔道具としての機能を発現していたが故の光だったのか。
なんだよ、ただ光っているだけじゃなくて、ちゃんと街を守っていたんだな。
上空から侵入できなくとも、ダンジョンスカーレットバットにそれを理解する知能はないはずだ。
結果的に、何度も上空から体当たりを仕掛けて、弾き飛ばされ続けている。
ジャネットが幾度となく魔法を撃ち、一旦大きく息を吐く。
「ふう、点攻撃ではキリがないか……。シビラさん。僕が風を放てば、あの宝珠は防げますか?」
「おっ、いいわね。街壁は風には特に強いし、魔道具は魔法を吸収するわよアレ」
「重畳。《トルネード》」
ジャネットがシビラの返答を聞いた直後に竜巻を出した。
その風に巻き込まれ、羽をやられたバットが次々に落ちていく。
いいお膳立てをしてもらった、これは張り切らないとな!
「エミー!」
「うんっ!」
俺はエミーとともに剣を抜くと、地面に落ちたバットを次々に切り伏せていく。
こいつら程度なら、闇魔法を持つ前から余裕だ。
「……ん?」
十体ほど倒したところで、街の中からも剣や杖を持った冒険者が現れた。
「よっしゃ全部落ちてるぞ!」
「うちらも稼ぐで〜!」
どうやら、他のパーティーが追加で討伐に参加するようだ。
広い範囲に落ちていった夥しい数の魔物も、これで残らず一掃できそうだな。
「溢れた魔物の報酬を独占しちゃいたい気持ちもあるけど、アタシが見るに多分出てきているのはBかCランク辺りだと思うわ。追加報酬のために立候補した人達ね」
「なるほどな。ジャネットはどうだ? 魔物を落としたのはジャネットだが、報酬のためにもう少し倒していくか?」
「今更あれがレベルへの足しにはならない。今すぐ欲しいものはないし、もらったし……彼らに任せよう」
その返答に、シビラは「いい子すぎる……アタシの娘にしたいわ」など変なことを言いながらジャネットを抱きしめている。
ジャネットはいつもの無表情でシビラに翻弄されていた。
振り払っていいからな、そこのノリだけで喋る駄女神。
「ま、確かに言うとおりだな。俺達も帰るか、エミー……エミー?」
振り返って呼びかけた時、エミーは声も届かないほど遠くにいた。
俺と視線が合った瞬間。その顔がすぐ隣に現れる。
相も変わらず尋常ではない身体能力だな……。
「ん、なになに? どったの?」
「街の冒険者が出てきたら活躍を譲って戻ろうかと相談していたところだ」
「あ、そうなんだね。もう向こうの一角は全部倒しちゃったから、悪いことしたかも?」
いや、別に負い目を感じる必要はないぞ。元々第七ダンジョンは別の担当だしな。
それにしても、剣一つであれだけの範囲を一人で片付けたか。
この辺りの身体能力の高さは、さすがとしか言いようがないな。
剣だけでは、エミーと討伐数を競うなんて無理そうだな。
……分かっている。
ここは、王国で最も人が集まる場所。
冒険者ギルドの職員もいる。
本来【聖者】である俺は、皆を回復させるだけで十分なのだ。
剣を持って魔物を倒しているだけでも、明らかに回復術士としての役目以上のことをしている。
そんなことは、俺が一番分かっている。
分かっていても——闇魔法を使えないのは、もどかしいな。