作品タイトル不明
それぞれの得意分野、四人の力を組み合わせて
ニードルラビット変異種。
こいつらを、外に出すわけにはいかない。
襲い来る魔物に対し、エミーが竜鱗の大盾を黒く光らせた。
あれは【宵闇の騎士】側のスキル。魔物を一身に引きつける能力がある。
「やあーっ!」
エミーは魔物が衝突すると同時に、大剣を振り下ろす。
まだ上層では不要と思ったが、一応闇属性【エンチャント・ダーク】を重ねがけしてある。
あの量相手なら正解だったと思えるな……僅かでも効率を上げなければ、間に合わないかもしれない。
「……ふむ」
エミーの後方で、ジャネットが杖を両手で持つ。
「ちょっと熱いよ。でも気にしないで」
「えっ?」
ジャネットは無言で、あの巨大な火球を出現させた。
エミーの頭上と、その左右。
魔物の群れに投げ込む……かと思いきや、そのままの位置で火球は止まる。
「——計三個のフレアスター維持。なるほどね」
シビラが感心したように頷いたと同時に、フレアスターの光が何度か揺れる。
何事かと思うと、エミーの攻撃の合間を縫って左右と、頭上を飛び越えようとした魔物が火球に呑まれたようだ。
「えっ!? これ私大丈夫!? あれっ!?」
「大丈夫大丈夫。今日は冷えるから、温かいのはいいね」
「そういう問題かなあ!?」
淡々と喋るジャネットと、忙しなく動くエミー。
随分と楽しげなやり取りだが、どちらも熟練した動きだ。
効率的に、奥から来る魔物を仕留めている。
「……! ジャネットちゃんはそのままね! ラセル、後ろに下がるわ!」
唐突にシビラが叫び、シビラとともに後ろへと下がる。
「セイリスの時にも思ったけど、魔物の動きを操作してるわね。一応これも報告済みだけど……」
ジャネットが左右に展開したフレアスター。
「ラセル、両方スフィア!」
「《ダークスフィア》……」
(……《ダークスフィア》)
俺は時間差で闇の球を放ち、シビラが指定した二つの空間に投げた。
場所は、ジャネットのフレアスターの更に外側。
その僅かな隙間にダークスフィアが到着した瞬間、魔法が爆発し広がる——魔物と衝突した!
なるほど、完全にどこが安全かを狙っているってわけか……!
一度に巻き込まれるのを避けるためか、エミーの動きを封じるように一匹ずつ進んでいる。
数が減る勢いを抑えつつ、一匹でも抜け出してくる気だな。
「ふむ」
ジャネットが深呼吸し、エミーの横から杖を差し込む。
エミーが「え?」と突如現れた杖の宝珠に驚く間もなく、ジャネットはここで初めて口頭詠唱した。
「——《フレアスター》」
ぼそり、と小さく呟かれた声と……今までの三つと比べて一回り大きい火球が、エミーの前に現れる。
ジャネットはそれを、攻めあぐねている集団へ遠慮なく投げ放った!
熱の塊が集団を襲い、密集していたが故に逃げ遅れた魔物が多数巻き込まれる。
一気に形勢が変わった。
あちらも待ちに徹するのは避けたいのか、
「そうそう、長引くと面倒だからね。《フレアストーム》」
次の魔法は、ケイティもやっていた広範囲の炎の嵐だ。
一斉に魔物が弱っていくが、あまりに規模が大きい魔法であるが故に、威力はフレアスターに比べて控え目らしい。
正面で宵闇の騎士エミーによる、引きつけ攻撃。
そのスキルの範囲外を通れなくした、ジャネットの魔法。
隙間を埋めるように闇魔法で塗りつぶした、俺の魔法。
ここで敵は、ジャネットの左右に展開している魔法の、上側を狙った。
俺が攻撃をそちらに移してもいいが、左右が空いてしまうかもしれない。
あのフレアスターを飛び越えるよりは楽な方だ、隙を作ることはできない。
「うっし、ここまで弱ればあとはアタシね!」
その様子を見て、シビラがナイフを構える。
シビラは的確に、魔物が飛び出してきた所に陣取って、ナイフで一閃した。
そうか、索敵魔法で敵がどこから来るのか正確に掴めるわけだな。
空を飛ぶにしても軌道修正は上手くないのか、それとも弱っているが故か。
角兎は避けきれず、頭部が一瞬で吹き飛んでいく。
「やっぱり……」
何かしら理解したことでもあるのか、シビラはぶつぶつ呟きながらも的確に魔物を倒していく。
「……ッ! これが最後の三、体……!?」
シビラは再びナイフを振り、もう片方の手で魔法を放ち反対側の兎を燃やす。
上手い同時攻撃だったが、魔物……もしくは『魔物を操る魔王』も最後の作戦を練っていた。
シビラが斬った魔物の影からもう一匹現れ、首なしの死体を蹴って羽を大きく動かした。
「ラセル!」
シビラが叫んだと同時に——闇の柱が、入口で轟音を立てて魔物の体力を奪い尽くした。
「問題ない」
俺は、魔物の死体を確認すると皆の様子を確認した。
怪我はなさそうだが。
「《エクストラヒール・リンク》、《キュア・リンク》。怪我はないだろうが、まあただの疲れ取りだ。ひとまず、一仕事お疲れ様」
広場からの出口が一つだと分かったので、俺は敵が通り抜けた際のことを考えて《アビストラップ》を仕込んでいた、というわけだ。
敵が踏み抜かなければ、発動しない魔法。
飛び越える可能性もあったが、無事に踏み抜いてくれて良かったな。
ま、言うまでもなくこれは 狡猾女神(シビラ) の仕込みだ。
「うーん、【聖女伝説】の究極魔法が服のゴミ取りにぽんぽん使われるの、気分いいわねー。あ、二人ともおっつかれー」
シビラは楽しげに二人の方へと向き直る。
「今日はもちろん、ジャネットちゃんね!」
「え」
「俺もジャネットに一票」
「え? ラセルまで何を」
「私ももちろんジャネット!」
「だから何なのさ、エミー」
何って、そりゃ功労者だな。
数を相手にした際の、空間を埋めるような魔法は攻撃術士の専門分野だ。
だが、シビラ一人でこの広さとあの数を任せるのは、さすがに厳しい。
というか、ジャネット一人でも本当は難しいはずなんだよな……。
全く、頼もしいことこの上ないよ、お前は。
「ジャネット」
「……今度は何」
俺はジャネットの前で、手の甲を見せた。
ジャネットは一瞬目を見開くと、すぐに小さく——同時に、俺にも分かるほど明確に——口角を上げて、軽く打ち合わせた。
第九ダンジョン、まずは第一関門突破か。