作品タイトル不明
第九ダンジョンに関わる、それぞれの役目と考え
大盾を構えたエミーを先頭に、ジャネットとシビラが並び、俺が剣を抜いて後ろを守る。
中に踏み込むほどに薄暗くなるが、決して真っ暗にはならないダンジョンは、まるで魔王が俺達人間を誘っているように感じて不気味だ。
――セントゴダート、第九ダンジョン。
ここ王都で新たに出現した三つのダンジョンのうちの一つだ。
長い歴史を持つ王都セントゴダートで、今までは六つしかダンジョンがなかったのだ。
「シビラ。ダンジョンってのは、こんな勢いで増えるものなのか?」
「んなわけないでしょ、そもそも一度に二つ以上出たこと自体初めてだと思うわよ。それでも年月積もっていけば相当な数になるし、【勇者】だって代も替わる。勇者パーティーだってどの代も同じぐらい安定してるってわけじゃないもの」
「それは身を持って実感してる」
「でしょーね!」
俺の返答に、けらけらと笑うことで応えるシビラ。
なんつーかヴィンスのことに対しては最早今更とはいえ、遠慮のなさが凄い。
いやコイツに遠慮などという感覚が備わっていると考える方がおかしかったな。
シビラだからな。
「それにしても——」
俺は、後ろを振り返る。
先ほどの冒険者ギルド職員……只者ではなかった。
あれがセントゴダートでダンジョンの管理をしている人達か。
正直スライムダンジョンを潜った後だと、過剰戦力に感じるほどだな。
俺が立ち止まり、何を気にしていたかにシビラも気付く。
「ん? ああ、ラセルはあの人達の実力に気付いたのね」
「まあな。魔王とまではいかなくとも、中層に潜れるぐらいの強さは余裕であっただろ。あの職員達は探索側に回らないのか?」
「ラセルは紅茶好き?」
今日はまた一段と話が天高く飛躍したな。
視力に自信はあるが、雲の上は観測範囲外だ。
どこに話があるか視認できんぞ。
ジャネットが意味不明シビラを目の当たりにしてぽかーんとしている。おお、珍しい表情だな。
ちなみにエミーは笑顔だ。無論これは『最初から諦めてます!』という顔だな。
俺は呆れつつも、話を促すように首肯する。
シビラは俺の反応に対し、実に愉しそうに指を立てた。
「じゃあもう一度質問。紅茶を五千回頼むと、必ず一度は毒が出る。ラセルは紅茶、頼む?」
「……なるほど、絶対安全なダンジョン探索の、数千回や数万回のうちの一回。その悲劇が起こる一回をあの人らは警戒しているんだな」
「よろしい」
シビラが満足げに頷いたところで、ジャネットが視線を俺の方に向けた。
「ラセル。シビラさんとの会話はいつもこんな感じなの?」
「こいつの話の飛躍っぷりは割と頻繁にこんな感じだな」
「君も大変だね……」
全くだ。
その台詞を連日聞いている気がする辺り、本当に大変だなと思う。
ホント、我ながらよく付き合ってるものだと思うよ。
「でも、そんな彼らも重要な任務があるわ。入口でなければできないことよ」
「ダンジョンから溢れてくる可能性のある、魔物への対処と連絡だろ?」
「三つのうち、一つはそれね」
ん、他にも二つあるのか?
可能性として挙げられるのならば、やはりあれだろうか。
「他の冒険者が間違って入って来られないようにする」
「うんうん、いいわよ。残り一つは二つ目とやってること自体は変わらないわね」
残り一つ……。
俺が考えているうちに、ジャネットが「あ」と何かに気付いたように声を上げた。
「はいジャネットちゃん」
「もしかして、エマさんはラセルのことを知っている?」
「……いきなりそこに着地できるんだから、ホント凄いわよね」
ジャネットは、どうやら雲の上に飛んでいった話のパスを掴んでしまったらしい。
エマが俺のことを知っている? それが影響することといえば——。
「そうか、エマは俺の 職業(ジョブ) を知っているんだな」
シビラが俺の答えを、ニッと笑って肯定した。
ここでの職業とは【聖者】ではなく【宵闇の魔卿】のことだろう。
つまり、あのギルドマスターは、シビラのことも含めて知っていることになるのか。
「そんなわけで、街の方に関しては心配しなくても大丈夫と理解できたわね。ここで、お仕事の時間よ」
シビラの言葉に、ぼんやり笑顔で話を聞き流していたエミーが頷き、盾を前に剣を構える。
油断しているわけではなく、シビラの索敵を全面的に信頼しているが故のことだろう。
何かが来た、と思ったと同時にエミーが盾を黒く光らせ、同時に地面に叩き付ける。
今のエミーに備わった【宵闇の騎士】の能力は、黒い盾の力で相手を寄せ付けること。
恐らく、何かを捉えて地面に挟み込んだのだろう。
「あっ、これ見たことある魔物……じゃない……?」
エミーの口から出たのは、今ひとつ要領を得ない言い方だった。
ジャネットとシビラが覗き込み、後ろの俺は最後となる。
「ニードルラビットか。……いや、何だこれは」
ジャネットが呟いたと同時に、俺の視界にも魔物の姿が見えてきた。
セイリスの、第四ダンジョンにいた魔物。
シビラが海岸で丸焼きにして、近くの串焼き屋に売り払った、弱い魔物だ。
だが、こいつは明らかにニードルラビットではなかった。
「羽……か?」
ニードルラビットには、何故か背中に鳥の羽が生えていた。
空を飛びそうな見た目の、兎。
意味が分からない。
シビラははっと目を見開き、ダンジョンの奥と入口を交互に見た。
「アタシ達、分岐路は通ってないわよね」
「ああ、一本道だったな。ここらは多少複雑で広くなっているが、横道はなかったはずだ」
「そうね。アタシの索敵にもかかってないし、間違いなくいないわ」
じゃあなんで聞いたんだよ、お喋りしたい年頃か?
何故……何故、か。
ニードルラビット。
ただし羽が生えている。
……羽が生えている、だと?
「シビラ。この羽は一体、何に使うんだ?」
俺が思った疑問は、そこだった。
ダンジョンスカーレットバットは決して強くないが、ダンジョンの外にも出て来られるが故に面倒で恐れられている魔物だ。
同時に、ダンジョンの中であれば、あまり恐れられることはない。
理由は簡単、ダンジョンには『空』がないからだ。
それ故、羽の生えた魔物はそもそも数が少ない。
羽の生えた、バット。
羽の生えた、兎。
「ラセル、分かったわね」
「ああ」
シビラは、顔を魔物の死体から奥へと向ける。
視線の先には、 夥(おびただ) しい数のニードルラビットが、こちらに狙いを定めて赤い目を光らせていた。
セイリスと基本が同個体なら弱い相手だが、如何せん数が多いな……!
広い場所に出たのは失敗だったかもしれない。
「全員、一匹たりとも外へ逃がすなよ!」
「了解!」
「ん」
このダンジョンは、こういう方向で攻めてくるか……!
全く、魔王ってやつはマジでどいつもこいつもいい性格しているな!
ダンジョンが育ち切る前から、ここの魔王は街の住人を襲うつもりだ!