軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

発展し続ける王都の光と影

セントゴダートの街は、本当にどこを歩いても発展している。

古びた孤児院の周りにも年代物の住宅街が並んでいるし、生活に必要十分の店もある。

空き地も、ない。

なぜなら遊ぶ場所には、整備された公園が既にあるからだ。

目の前に広がる、見たこともない遊具で遊ぶ親子連れを横目に、次の区画を目指す。

「完成された街、という感じだな」

「その表現は少し違うわね」

シビラは店の看板を眺めながら、俺の呟きを否定した。

「城壁内部の未完成部分を全て埋めた街であり、現在進行形で新しく替わっていってる街よ。完成形なんてない……常に新しいものを求めて絶えず変化していくの」

常に新しいものを求める、それ故に変わり続ける。

だから皆がこの街の『新しい何か』を求めて移住希望するってわけか。

「アタシは完成とか、完璧とか、そういうのって一長一短だと思うのよね」

「つまり、完成したらそこから発展しないんだな」

「よく分かってるじゃない」

そりゃあそんな表現されたらな。

シビラにとって、この発展した街はきっと『完成されていないから良い街』なのだろう。

目当ての店に入る途中、看板を取り付けている真っ只中の新規店舗と、その店をチェックしているであろう若い女性グループを見かける。

どうやらこれも服屋のようで、エミーとジャネットも看板を覗き込んでいた。

発展する街の需要と供給、なるほどな。

これは移住する人も増えるというわけだ。

セントゴダートのレストランは、俺にはあまり馴染みのない店だった。

こだわりが全くないというわけではないが、食べられたらある程度は何でもいい。

「いらっしゃいませ」

「四名よ。二階の窓の席、空いてる?」

「少々お待ちください」

慣れた様子でやり取りをし、店員の首肯とともに階段を上る。

テーブルは少なく、席と席の間を大胆に取っている。

既に外の喧噪も遠く、食べながら会話をする人も少ない。

また、店内は比喩ではなく暖かい空気に包まれていた。

ジャネットは帽子を脱いで、店内を見渡す。

「随分と居心地がいい店だ。ハモンドのレストランに比べて静かなのは不思議だな。外はむしろセントゴダートの方が賑やかなぐらいなのに」

「あら、気付いた?」

シビラは席に座り、脱いだ手袋で窓を叩く。

「この窓よ。普通のガラス戸に見えるだろうけど」

「普通より厚いのか?」

「はいラセル外れ、回答権一回休みね」

何だよその回答権ってのは。

俺が突っ込む前に、ジャネットが目をこらして呟く。

「これは、もしかしてガラス板が二枚?」

「当たり! 観察力もあるわねー、ラセルも見習いなさい?」

ぐ、別に競うつもりじゃないが、若干悔しくはあるな……。

そもそも競ってるわけじゃないんだが。

「僕だってラセルが最初に言わなければ、ガラスが厚いだけかと思っていたよ。初めて見るものへの知識なんて、誰も持ってなくて当然だ」

……まあ、それもそうか。

それにしても、窓一つでも他の街では見たことのない仕組みだ。

正直、テーブルに並んでいる調味料の数々も異様に種類が多いし、形も独特のものが多い。

細長いガラスの筒状のものが並んでいるが、どうやって使うんだろうな。

何もかもが目新しく、その上で最新のものに次々と変わっていく。

この街にいるのといないのでは、まるで時間の流れが違う。それこそ、知識の水準が変わってしまうほどに。

きっとこの街に住むと、これらの全てが当たり前の物になっていくのだろう。

「あ、昼からフルコース四人ね。後ワインを……そうね、じゃあコレ。ボトルで、グラスは一つ」

シビラは俺達の代わりに注文を取った……いやお前、昼から一人で呑む気満々かよ。

そんなシビラに突っ込みつつも、最初の料理が運ばれてくる。

葉物野菜に、四角いチーズが並んでいるが……形も色も違うものがいくつも並んでいる。

店員が配膳の際に軽く説明をしていたが、どうやら他国のもののようだ。

一つフォークに刺して口に含むと……。

「……へえ、美味いな」

さすがにシビラが薦めただけあって、格段に美味い。

これなら期待が出来そうだ。

最初のサラダも、次に出てきた具のないスープも、まるで食べたことのない味だ。

フレデリカも料理に凝っていたが、ここの料理はそもそも使っている材料が違う、という感じだな。

籠に盛られた焼きたてのパンと、テーブルに並んだ色とりどりのジャムをエミーが嬉しそうに味わうのを眺めながら、俺は一つ質問をする。

「こんな時に話す話題でもないかもしれないが、セントゴダートのダンジョンもあるんだよな」

「雑談も醍醐味よ。ええ、特別大きいのが一つと、小さめなのが二つ。そして当然、ここのダンジョンは既に魔王が討伐されているわ」

だろうな。

勇者パーティーも王都は当然滞在する確率が高いだろうし、その間にこの王都のダンジョンが攻略されていないというのは有り得ないだろう。

俺達は最初アドリアに近いハモンドを拠点に選んだが、選択肢としてはセントゴダートでも構わなかった。

ただ、最初にハモンドの街の広さを実感し、わざわざ遠い王都まで行こうと思わなかっただけだ。

「あ、パンおかわりいる? ここ 無料(タダ) よ」

「嘘っ!? やった!」

ちょっと考え事をしているうちに、目の前からパンの山が一度消えて再び現れたんだが……。

やれやれ、考えるのは食べ終わってからにするか。

それからというもの、見たことのない食材と味に舌鼓を打ちつつ、調味料の類いにも触れていく。

どうやら指で軽く押さえるだけで、魔力で自動的にミルを挽く仕組みらしい。

シビラが驚いていたようなので、どうやらかなり新しいものらしい。

最後のスペシャルスイーツ六種盛りという怪物を一口食べてエミーに渡し、満足のいく食事となった。

「あのー、パンってまだおかわりできますか?」

「可能ですが……その、大丈夫ですか?」

「とってもおいしかったです!」

店員とエミーのいまひとつ噛み合ってない会話を聞きながら、シビラはその勢いに笑い、ジャネットは慣れた様子でブラックコーヒーを口にしている。

「もう少し居るよな。支払いは俺がしておく」

「おっ、気前いいわね! 高いわよ〜?」

ワインの空瓶を指で揺らすシビラに少し後悔を覚えつつ、とはいえマデーラでの素材回収譲渡金を思い出して考え直す。

高い店を紹介して消費するのもシビラなら、収入源を持ってくるのもシビラなのだ。

魔物を倒すだけで報酬が出るとはいえ、多少は払ってやらないとな。

「だから、ちょーっと、ツケていてくれると……」

一階に降りると、会計前の客が店員と何やらもめていた。

「お客様、さすがにそれは」

「現金入ってる財布、多分置いてきちまったんだよ。家に帰ったら、あるんだって」

話の内容を聞くに、どうやら現金を忘れて来てしまったらしい。

その金髪をぼりぼりと掻きむしりながら、長躯の男は大きな溜息を吐いている。

男前ではあるが、よっぽど参っているのか困り顔で覇気が感じられない。

「遅くなるようなら、先にやってもらってもいいか?」

「はい。……お客様、くれぐれも先に帰ったりしないように」

「そんなことしたらもう王都に居られないよ……パーティーにも迷惑がかかる。ああいや、迷惑は既にかかりそうだなあ」

なんとも呑気な独り言を背中に浴びながら、俺は手早く支払いを済ませる。

「フルコースはこれぐらいか。ん? 計算が……」

「うおっ、若いのにフルコースとは」

振り返ると、先ほどの男は俺に興味を示したようだ。

「なあ、ちょっと頼まれてくれないか。俺の代わりに、知り合いを呼んできてほしいんだ」

「代わりに支払ってくれとは言わないんだな」

「そこまでしてもらうわけにはなあ……」

一体何を頼んだかと思えば、なんとコーヒーの一杯だけである。

どうやら話によると待合に時間を潰すつもりで入っただけ、元々食べる予定はなかったらしい。

確かに、人混みを避ける為なら、これほどいい待機場所もないな。混雑時なら店としては困った客だろうが。

「パーティーのメンバーにも知られたくはないだろ? これなら払ってもいいぞ」

「ま、マジかよ……あんた、聖人だな!」

聖人じゃなくて聖者だ、とは言わないでおくか。

「この金額程度で恩に着せようとは思わん」

なんといってもシビラが空けた酒、どうやらフルコース一人分より高かったからな!

あれを不意打ち気味に支払わされた身としては、尚更コーヒーの一杯がおまけに感じられる。

店員に「それでいいな?」と確認し、軽くタグで支払った。

問答しているよりは、済ませてしまった方がいい。

多分あのパンの山を、エミーはすぐに完食してしまうだろう。

「おお……セントゴダートに、まだこんなに人の心を持ったヤツが残っているなんて……!」

「なんだそりゃ、セントゴダートの住人に心がないみたいじゃねえか」

「——いや、ないんだよ」

それまで軽い感じで話していた男が、急に視線を落とした。

「人が増え、知り合いなんてものに街中で出会うこともなくなっちまって……だんだんと、他者に関わらないようになっていってる。道を尋ねても、今や十人に一人返事が来ればマシだろう。それが一番安全なのは間違いないんだが、な」

そうか……この栄華を極めたような街にも、発展した故の影というものがあるのか。

「運勢占いした後に高いモノ売りつけたり、いろいろな。最近はそういった被害を聞かなくなったのは、殆どが無視するからってわけなのさ」

知らない人だらけの、広すぎる街。

誰もが他人という感覚は、ハモンド以上。

そんな中、顔も知らない他者とのトラブルもそれなりにあるのだろう。

「感極まってるところ悪いが、俺も田舎から来たばかりでな。そういう意味じゃ、王都の人間じゃないんだよ」

「そ、そうだったのか。とてもそうは見えないが……。いやしかし、本当に助かったよ。何か礼を」

「だから必要はないって言ってるだろ。ま、礼は受け取っておく」

詐欺の情報料なら、安いものだろう。

それに、あの男は……。

席に戻ると、見事にパンはなくなっていた。

「エミー、もう満足か?」

「さすがにお腹いっぱい。おいしかったぁ」

エミーが立ち上がった姿を、ジャネットが何とも言えない驚愕の表情で見ている。エミーの大食いは見慣れてるだろ?

俺の疑問を察してか、シビラが苦笑しながら近づいてきた。

「あのパン籠、あれから二回来たのよね」

マジかよ。

エミー、明らかに胃袋伸びたよな……。