作品タイトル不明
それぞれの報告と、太陽の女神に会う日のこと
「――それで、結局君は外の掃除をしていたというわけか」
普段表情の薄いジャネットが、それでも明確に口元を緩めて頷いた。
あれからイザベラ達に掃除箇所の点検をしてもらい、大掃除は終了となった。
孤児達には、俺達のことはフレデリカの友人ということで簡単に紹介してもらった。
ちなみにシビラは既にここのガキ共に名前を呼ばれるほど仲良くなっていた。はえーよ。
俺達四人は、来客用の部屋で情報交換だ。
マーデリンは、フレデリカの手伝いに向かっている。
そして今、俺の報告にジャネットが反応を示したところだ。
「確かにああいう子は、下手に他の子と混ぜるよりは誰でもいいから心を許した方がいい。しかしあの真面目一辺倒のラセルが、サボりを持ちかけるとはね」
「なんだ、悪いか」
「いいや? むしろ嬉しいんだよ」
どういう反応かと思いきや、意外だ。
ジャネット自身がかなり真面目な方と思うからか、呆れたりもするかと思っていたが。
「今の方がいい。むしろ、今までが真面目すぎたからね。心の負担を全部押しつけていないかと心配になったこともあるよ」
「お、生意気にも知識の負担を全部押しつけられてきたヤツがなんか言ってるぞ。自分が心配されたことも知らんって顔だな」
俺が言葉を返すと、面白いほど目を見開いて絶句するジャネット。
我ながら、いい返しだったと思う。
「ふふ、ラセルは本当に変わったね。そういうところも含めて、今の方がいい。だけど――」
ジャネットは身を乗り出して、俺の額を軽く叩く。
「そんな生意気なことを言うのなら、せめて僕に知識量で勝ってから言うことだね」
「じゃ、一生そっちの心配はできそうにないな」
「それは実に結構。知識に関して負担に思ったことは本当に一度もない。趣味というか、僕にとっては遊びみたいなものだからね」
一歩踏み込んだと思いきや、もう一歩返されたな。
ま、こういう軽い返しをしてくれるようになってくれただけで今は何よりだ。
……なんて思ってることも、こいつにとっては失礼か。
「話を戻そう。ラセルがルナに心を許してもらえているのは、いい傾向だと思う。どうしても『太陽の女神教』中心地であるここで、ルナの考えは異端だ」
「ああ。とはいえ、話した限りでは普通の会話も十分できるし、根はいいヤツだ」
そうでなければ、掃除の手伝いなんて最初からするはずないからな。
ルナは一見不真面目なようで、箒自体はちゃんと持っているし、最初にジャネットが指摘してから慌てて院内に戻っていた。
もしも本気で反発しているなら、箒自体持たずに外に出ているだろう。
俺が箒で落ち葉を集め始めたのを見て、最初驚いていた。
だが『じっとしている方が疲れないか?』と声をかけると、すんなり頷いて一緒に掃除を始めたのだ。
いつまでもサボりっぱなしとはいかないだろう。
なら、できそうな部分はその場で直した方がいい。
「俺の初見の印象だが、暗黒勇者とやらを信じている部分も、太陽の女神教が自分を幸せにしてくれなかったことへの反発心があるのかもな。むしろ、根が腐っていないことに驚いているぐらいだ」
「ラセル……」
エミーが心配そうに俺を見る。
そうだな、エミーには俺が太陽の女神を信じなくなった話はしている。
ジャネットも……恐らく感じ取っているだろう。
「だから、なんて言うかな……あいつの気持ち、多分誰よりも俺が分かると思うんだよ。つーわけでシビラ」
「ええ」
きっと俺の考えなど理解しているであろう、相棒に提案する。
「ルナは任せろ。ルナ以外は任せた、お前なら全員相手にしてもらうぐらい余裕だろ」
「サービスタイムね! 楽しんじゃうわ!」
実に頼もしい笑顔とともに、シビラは親指を立てた。
これで、ルナの懸念はある程度解消されたな。
「って、それじゃまるでアタシが子供に遊ばれてるみたいなんだけど!?」
「……ただの事実だよな?」
「そんな真顔で返さなくても!?」
「エミーとジャネットも、シビラの面倒を見てくれよな」
「いつの間にかアタシが面倒を見られる子供側になってるんだけど!?」
もちろん冗談であることは、お互いに分かっている。
ガキ共に遊ばれているのはマジだと思うが。
ただ、ルナの相手をするとはいっても、俺だっていつまでも居るわけじゃない。
最終的にルナは皆とも馴染んでほしいところだが……それは俺の頑張りと、あいつの気持ち次第、だな。
「じゃ、子供達の話も終わったところでこれからの予定を決めましょう」
シビラの言葉に、俺達は姿勢を正す。
ここに来た目的は、王都セントゴダート孤児院の世話、ではない。
俺達は、太陽の女神に会うためにここまで来たのだ。
「一応事前に行くわよーって伝えておいたけど、それでもまだまだ順番待ちなのよね」
「太陽の女神とやらは、随分と人気なんだな」
「そりゃまーね。用事が用事だから会談時間は多めに取りたい……のだけど、他の人だって前々からその日って決めて動いてるわけだし、割り込むわけにはいかないわ」
なるほど、無理に捻じ込むのは他の連中にも悪いか。
「じゃあ、具体的にいつになるかは分からないのか」
「そこは決めているわ。来週の昼よ」
来週……!
『太陽の女神への面会』という大きな舞台が、思ったよりも早く訪れることを改めて意識する。
会って何を話すか、相手がどういう反応を示すか……今から覚悟を決めなくてはなるまい。
女神教では、太陽の女神によって俺達に 職業(ジョブ) が授与されている、と教えられている。
ならば、俺が【聖者】になったのも……そして、ヴィンスが【勇者】になったのも、その太陽の女神によるものだ。
女神とは、もっと概念的なものかと思っていた。単なる教えか、大昔の存在だと。
だが、そんなものは目の前の人間味たっぷりの女神の存在で覆った。
——女神は今も、自我を持ってこの世界にいる。
シビラという宵闇の女神が、これなのだ。
ならばシャーロットという太陽の女神も、同じように会話できるはず。
何故、俺が追放されるような事態になったのか。
何故、ヴィンスが愛の女神に攫われるような事態になっているのか。
全てを直接、問い糾す日は近い。
「……しかしそうなると、来週までは予定ナシか」
「んー、そうね。明日以降、どこか行きたい所でもある?」
シビラの質問に、思わずエミーとジャネットにも視線を向ける。
行きたい所と言われたところでな。
「まず大前提として、俺達三人とも王都は初めてなんだ。何があるかということ自体分からん」
「あ、そりゃそーね。んー……基本的に何でもあるわ。例えば王都には立派な武具や服飾の店もあるけど、大通りには露店もあるわ。レストランも酒場も充実している。劇、演奏会、美術館。後は——闘技会はない、ぐらいかしら」
「闘技会?」
「文字通り、大勢で対戦を観戦するというものよ。ただ木剣だろうと命の危険があるから、女王命令で禁止となったわ。あるのは隣の皇帝が治める帝国ね」
なるほどな、確かに大人同士で剣をぶつけ合えば得物が木だろうと危険だろう。
第一、 職業(ジョブ) を得てまで戦いたければ、魔物と戦えばいい。
隣の帝国にはあるということだが……きっとこの国とは違う雰囲気の場所なんだろうな。
興味がないわけではないが、まずは王都だ。
話を聞いて、エミーが俺やジャネットに視線を向けながら、遠慮しがちに手を挙げた。
「え〜っと……服とアクセサリーと、レストランに興味がありまぁす……」
実にエミーらしいチョイスであった。
こういう時は、素直に自分の希望を言ってくれるヤツがいてくれる方が助かるってものだ。
「俺はそれで構わないが、ジャネットはどうだ?」
「ん、僕もそれで構わないよ。空いた時間でぶらぶら露店でも見て回ろう」
というわけで、明日は王都の店を見て回ることとなった。