軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

思いつき女神に巻き込まれ、孤児との交流を深める

「あの子は、ルナ。先月に来たばかりの子よ」

「ルナちゃん……可愛らしい名前ね」

フレデリカが、その名前を自らに刻みつけるように反芻する。

あの黒い少女は、ルナというのか。

「今日は大掃除の日、あの子は真面目に掃除していたかしら?」

「え? ええと……そうですね、ちゃんと箒を持っていましたよ」

「していなかったのね」

「はい……」

咄嗟にフレデリカは誤魔化そうとしたが、すぐにイザベラに嘘を見破られた……ってことは、真面目に言うことを聞かないという認識になっているのだろう。

初対面の印象も、あれだったもんな……。

「お祈りにも参加してくれないし、話す内容も変な子なのよね。来た時からずっとその調子で……。フレデリカから見て、どうかしら?」

「元気がいい、それが子供にとっては何よりだと思います。昼より夜が好きな子だっているでしょうし、何より考え方は一時的なもの。もう少しあの子のこと、知りたいですね」

フレデリカの返答を聞き、イザベラは嬉しそうに微笑みながら数度頷く。

「ええ、ええ。でも私は、あの子自身が良くても、他の子と馴染めないのは良くないと思っているの。本当に変わった子で……手が空いてる時で構わないから、気に掛けてくれないかしら?」

「大丈夫です、少しお話もしましたし。そういうことでしたら喜んで」

フレデリカが了承したところで、ルナに関する話は以上となった。

それにしても、ルナか。

黒が好きとは随分と物好きもいたものだ。

何故そういう考えになったのかは分からないが、この年齢になるまで自分の色が嫌いだった俺からしてみれば、実に興味があるな。

「はいはい、アタシから一ついいかしら」

「ええ、何でしょうか」

シビラは俺達をぐるっと見回すと、ニーッと笑ってイザベラに向き直った。

「その大掃除、アタシ達も参加するわ!」

……というわけで、シビラの独断により到着早々仕事が増えた。もちろん予定にはなかった、シビラの独断である。

まあ座りっぱなしだった分、体を動かした方が気分も晴れるか。

飛び入り参加なので、担当場所は各自、自由である。

いざセントゴダートの孤児院の中を歩いてみると、外から見た印象通り本当に広い建物だ。アドリアの建物がいくつ入るだろうか。

建物の広さに比例するように、子供の数も多い。

賑やかなもので、退屈とは無縁そうな建物だ。

ただ、それは同時にこれだけ『親のいない子』が多いことも意味する。

金持ちだらけの国のようで、その辺りは引っかかるものがあるな……。

「さて、何から始めたものか」

俺は肩を回しながら、一階の間取りを見て回る。

入口すぐは大きな礼拝堂で、その奥に住居区が繋がっている。

広い部屋、狭い部屋、遊び道具がある部屋に本がある部屋。

エミーとジャネットは広い寝室の窓を雑巾で、二人仲良く掃除している。

フレデリカとマーデリンはキッチン周りを他のシスターと連携しながら掃除しているようだ。

そして、シビラはというと。

「君もアタシのこと、シビラちゃんとでも呼び捨てでもいいから、名前を呼んでくれるとと~っても嬉しいわ!」

「えと、わかりました、シビラさん」

「真面目で紳士的! あなた、とっても素敵なモテモテ美男子になるわよ! それじゃ、アタシといっぱい遊びましょ!」

来ていきなりコレである。

「てい」

「ひゃん!?」

軽くシビラの首を小突き、溜息交じりに声を掛ける。

「予想通りの展開だが、掃除するって言いだしたヤツが真っ先に遊ぶ気満々でどうする」

「協力して掃除するつもりだったのよ、そのぐらい分かるでしょ?」

「あれで分かるのなら、俺は今日から回復術士を辞めて読心術士と名乗るぞ」

どこにそう判断できる要素があったのか、小一時間問い詰めたい。

そんな俺達のやり取りは、当然のことながらガキ共にじろじろと見られている。

「ああ、俺はこの無茶振りぽんこつを連れているパーティーのリーダーで、ラセルだ。掃除を手伝うことになったからよろしくな」

返事はないが、俺を見て頷く子が数人。

そこまで悪い感触ではなさそうだ。

「この黒いお兄ちゃん、仏頂面ですぐ世界一可愛いアタシを叩いてくる暴力リーダーだけど、照れ隠してアタシにベタ惚れなだけだから、仲良くしてあげてね」

「一言どころじゃないぐらい多い説明どうも。お礼はチョップでいいか?」

「お礼をくれるというのなら、手作りの甘いケーキを希望するわ!」

肩をすくめて返事を無言で流す。

こんなやり取りも慣れたものである。

「……仲良し?」

「どの辺りがそう見えたんだ……」

そんなやり取りを見たヤツの斜め上の返答に、シビラは笑顔で「よく分かってるわね!」と頷きその子を撫でたり抱きしめたりし始めた。

じろりと睨むも、シビラは余裕の笑みでガキ共は一歩引いた。

あとそこのヤツ、小声で「怖そう」って言ったの聞こえたからな。

やれやれ、掃除をする前から妙に疲れてきたぞ。

やめてくれ、 精神的(こっち) の疲れは【聖者】にとって天敵なんだよ。

「この広い礼拝堂を綺麗にするだなんて、とっても立派! みんなのこと、女神様も見てるわ!」

そりゃまあ今見てるからな。

「きっと最後には、みんなのことを女神様が直接! 頭撫でに来てくれるわね!」

なるほど、お前が撫でたいだけなんだな。

「それと――」

シビラが一瞬言葉を止めたが、すぐに目の前の子供に触れながら首を振った。

「――何でもないわ。アタシと一緒に、楽しくお掃除しましょ! 終わったらきっと、フレっち……フレデリカ先生が、おいしい料理作ってくれちゃうぞ~!」

「わあっ、たのしみ!」

「ふふ、誰が一番掃除が上手いかしら?」

「ぼくが一番だ!」

「あたしだもんね!」

見栄っ張りなのか主張の激しい子たちと触れ合いながら、シビラは俺の方に顔を寄せる。

今度は何だよ。

「————」

シビラは耳元で小さく囁き、顔を離したと同時に手を叩く。

「じゃ、あんたは別の場所担当ね。アタシは今から可愛い天使ちゃん達と、ここで楽しいひとときを過ごすわ!」

「はいはい分かった、お前と一緒にいるとどれだけ大量の仕事を押しつけられるか分かったもんじゃないからな」

「よく理解してるじゃない!」

背中を一発叩かれ、俺はシビラの言われるままに立てかけてある箒を持って外へと出る。

ちらほらと俺の方にも目を向ける子らにも軽く肩をすくめて応え、シビラの方を頭で指しておく。

そうそう、お前らがあの気分屋女神の相手をしてやってくれ。

本当に掃除をするのかというほど楽しげな声色で、シビラは孤児院の子供達をまとめ始める。

泉のように湧き出る子供達の黄色い声を背に受けながら、俺は扉を押した。

——外、ルナちゃんが覗き見てた、気に掛けてあげて。

さっきシビラは、そう言った。

あいつは周りの子を構っている中で、この場にいない子のことを捜していたのだ。

「あ……」

シビラの言ったとおり、その少女は扉を出てすぐ見つかった。

「いい場所だな、俺も一緒にいていいか?」

俺はルナの返事を待つことなく、彼女と同じように箒を置いて壁に背を預ける。

さて、何を聞くかな。