軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

俺の日常が終わり、新たな俺が始まったきっかけの場所

「あいつらは、今ハモンドのダンジョンに?」

俺が翌日シビラから聞いたのは、ヴィンス達の動向だった。

情報収集のために、帽子を被ってギルドに出向いたシビラは、賑やかに話している連中と受付の男から同じ情報を聞いたらしい。

「ええ。装備が整ったからでしょーね、下層のフロアボスを倒すとか豪語していたって」

なるほど、な。ならば今日の行き先はハモンドのダンジョンか。

明確に他のパーティーを省いてヴィンス達と俺達だけになれるチャンスがあるとすれば、中層より下だ。

ハモンドのダンジョン。俺にとってある意味、全ての運命を変えてしまった場所。

上層では弱いゴブリンとレッサータウロスしかいなかったダンジョンは、中層に入った瞬間にその様子を大きく変える。

ブラッドタウロス。

上層のレッサータウロスと近い形状でありながら、赤黒い肉体がどんな成人男性よりも大きい 牛頭(ごず) の魔物。

だが、ブラッドタウロスの最大の違いは、その色と大きさだけではない。油断すると、腕など簡単に切り落とされてしまうだけの、膂力と敏捷性だ。

まだスキルの使い方を覚えていないエミーは、俺のことを何度も守った。

その度に申し訳ない気持ちになったし、攻撃を受けた瞬間は俺よりエミーの方が当然把握しているので、エミーの回復魔法に俺のそれが間に合うことはなかった。

……今から思えば、ヴィンスもジャネットも気が気でなかっただろう。当時は疲労回復など知らなかったし、本当に中層から下で役に立ったことはなかった。

昔のことを考えても仕方はない。

つまり、俺はその勇者パーティー新人四人が攻略していた中層に、術士二人で向かうというわけだ。

「ラセル、その……大丈夫よね?」

様子を窺うように、シビラが俺を見上げる。

……そうか、俺は以前勇者パーティーのメンバーが話題に出た時、シビラに対して当たるように怒ったことがあったな。

我ながら随分と子供じみた八つ当たりだった。

「気にするな、大丈夫だ。以前の俺と今の俺は違う。だが……」

違うのは、俺だけではない。

「危なくなったら助けに入ってくれ。中層のタウロスぐらいなら、シビラ一人でも倒せるだろ?」

今は、同じパーティーに冒険者先輩のシビラがいる。

その強さと対応力の高さは、ずっと戦ってきた俺が一番よく知っているからな。

一緒に戦うのも慣れたものだ。

そして俺は、もう誰かに頼ることを後ろめたいとは思わない。

二人で最良の結果を求めることが、一番なのだ。

俺の返答を聞くと、シビラは嬉しそうに笑った。

「そうよね! ラセルはシビラお姉ちゃんがいないと一人じゃダンジョンに潜れないものね!」

「そこまで言ってないだろ……もう勝手に行くぞ」

「ああっ、待ってってば!」

そして、頼ったらすぐ調子に乗るのであしらい方も慣れたものである。

-

ハモンドのダンジョンは街の北端にあり、街を覆う外壁の一部を伸ばして山腹の一部まで繋いでいる。

その近くには開け放たれた門があり、ギルドのタグを持つ者以外は入れない。

「二名、入るわよー」

シビラは門番に手慣れた様子でタグを見せて、俺も隣に並ぶ。

「分かってると思うけど、剣を使うように。付与も駄目よ」

「言われなくとも」

上層は人数が多く、ダンジョン内部の広範囲にいる。

闇魔法は珍しいというより、存在自体が一切知られていないので、傍目に見たら悪人にしか映らないだろう。

——この魔法が公にできる日が来るのだろうか。

それに、『宵闇の女神』という、人類を陰から救ってきた存在のことも。

俺はふとそんなことを思い、今は考えるべきではないなと首を振って考えを振り払うと、ダンジョンへと入った。