軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

俺とヴィンスの、水面下での一進一退の攻防

さて……寄り道をしてしまったが、結果的に街の安全を守れたので良かっただろう。

ふと、俺は気になったことを呟く。

「そういえば、レベルは上がらなかったな」

最下層まで行って、レベルは14のまま。手応えのあるフロアボスを倒したわけだし、ヴィンスと戦う前に新しい力でも得たかったが、そう上手くはいかないものだ。

俺の言葉に、シビラは溜息を吐きながら笑う。

「あんたね、最上位職のうちの一つである【宵闇の魔卿】ってのは、そう簡単にレベルが上がる 職業(ジョブ) じゃないのよ? むしろあんたが今まで戦った敵が強すぎたの」

そりゃあ、ドラゴンと二度戦ったわけだからな。

あの狼もかなり強い印象だったが、ドラゴンと比べるとどうしても見劣りする。

自分が感覚麻痺している自覚はあるが、それでもあれぐらいは一人で——いや、『宵闇の誓約』で倒せないといけないだろうな。

その上、ドラゴンには心臓というレベルを上げることを可能とするほど特別なものがある。

……まあ、そのうち半分をこいつが不意打ちで持っていくわけだが。

文句を言いたいところではあるが、そもそもドラゴンの心臓を食べるということ自体知らなければ無駄に終わっていたし、セイリスではその心臓を分け与えたことで最後に俺は勝つことができた。

その分の報酬ということなら、まあ別にいいんじゃないか? どのみちシビラが強くなることは、俺の安全に直接関わっているしな。

「……そんなにレベルが上がらなかったのが納得いかない?」

「いや、今まで順調に上がりすぎていたことには納得している。それに、新たな力を得なければ勝てないなど言うつもりはないからな」

何といっても、ヴィンスを相手にする上で職業を理由にすることだけは言いたくない。

勇者という 職業(ジョブ) の恩恵は筋力にも宿る。その上で、俺とあいつの決着に職業を言い訳にしたくないのだ。

可能ならば、不利と分かっていても、この剣で決着をつけたい。

「そ。一応これは言っておくけど、あんたヴィンスのことになると冷静さを失う部分あるから、気をつけなさい」

「分かった。少なくとも俺から攻撃を仕掛けることはない」

「結構。アタシもヤバそうなら横槍入れまくるから、それまでは無茶しないでくれると助かるわ」

「ああ」

ケイティが一緒にいる以上、戦わないという選択肢は恐らく選ばせてもらえないだろう。

あちらも警戒しているから、ああやってマーデリンが再々探索をしているのだ。

俺の知るヴィンスを取り返せるか。

上手くいくかどうかは分からないが、何事も試してみて、最良の結果を引き当てるのみだ。

隣のこいつと一緒に、これまでもそうしてきたからな。

これからも、そうしていくだろう。

-

街に戻る頃には夕日もすっかり沈み、薄暗くなっていた。

隣に並ぶシビラをふと見ると、手を腰に当てて無言で自慢げに胸を張る。帽子のつばの下から、妙に煽るような残念美人のドヤ顔が見えた。

はいはい、今は宵闇だよ。良かったな。

……俺もこのポーズだけで宵闇の時間だからだと理解できるようになっているのだから、すっかりこいつとの付き合いも長いものだ。

「——いやー、ほんと間に合ってよかったっすね!」

俺がぼんやりシビラのことを考えていると、近くで聞き覚えのある声が聞こえてきた。

声のした方を見ると、真っ先にヴィンスの姿が目に入る。ということは……確か、アリアだな。

「ああ、ケイティが用意してくれて助かったぜ」

「ふふっ、もちろんですわ!」

ヴィンスが、一見街を歩くだけの簡素な服装に、拳を数度当てる。

布を挟んでいるというのに、何か固いものを叩くような音がした。

あの音の感じと、会話の内容。

状況から察するに、もしかすると——。

「ファイアドラゴンのインナー鎧、ヴィンスも手に入れたのか」

自分で着た時にも、ローブの下にあるそれを叩いたことがあるから分かる。

ヴィクトリアがハモンド方面から戻って来たことを考えると、恐らくこの嫌な予想は当たっているだろう。

「……アタシの火の魔法は、ちょっと苦しいかもしれない。相当な値段のはずなのに、ケイティはよく金を工面できたわね」

シビラが苦虫を噛み潰したような顔で呟く。

こちらが動いている間、向こうだって動いている。ただ、ケイティの動きがシビラでも全く読めないのが厄介だ。

俺とシビラは、気付かれないように四人の後ろ側にゆっくりと回る。

「何とか、人のいないところであのパーティーと出会えたらいいのだけれど」

「そうだな。人の目があるところで何かしようものなら、周りの連中に何をするか分からない」

「周りの連中 が(・) 何をするかも分からないわよ」

俺が周りの人間を人質に取られることを考えたところ、シビラは周りの男がケイティの味方をすることを考えたってわけか。どっちにしろ最悪だな……。

シビラの笑えない話に溜息を吐くと、連中とどこかで出会えないかチャンスを探る方針となった。

そしてタイミングのいいことに、そのチャンスはすぐに訪れた。