軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

②⑤

クラレンスは額に手を当てて深い溜息を吐いている。

ここ数年、手紙だけのやりとりだけでは不安になった王妃は公務を理由にクラレンスに会いに来たそうだ。

「なら顔は見たでしょう?帰ってください」

「相変わらず冷たいのね。わたくしはこんなに寂しかったというのに」

「もういいでしょう?」

「わたくしの仕事は全て終わらせたわ。今はプライベートよ。固いことを言わないで」

カトリーナは今まで見てきた母親という存在が、自分の母とサシャバル伯爵夫人だけだったため、王妃がクラレンスとオリバーと仲良さげに話す姿をじっと見ていた。

すると王妃がこちらをクルリと振り向いたことで、カトリーナは肩を揺らす。

「ねぇ、カトリーナ……ここでの生活は好き?」

「はい、私は幸せです。皆さんとても優しくて、私には勿体ないくらい……」

「カトリーナ、そう思う必要はないと以前も言っただろう?」

「はい、申し訳……あっ」

「謝らなくていい。カトリーナはカトリーナのままでいいんだ」

「はい、ありがとうございます。クラレンス殿下」

二人の会話を聞いていたオリバーはクラレンスの様子に目を見張り、王妃は優しく微笑んでいる。

「なるほどね。カトリーナのおかげでクラレンスの氷のような心が溶けていったのかしら。愛を学んでくれて、わたくしはうれしいわ」

「なっ……!」

「一緒に食事をして散歩をして、それに彼女に触れてダンスの練習もしていると聞いたわ。カトリーナのために魔法を使ったことも……昔のあなただったら考えられないわね」

「母上、いい加減にしてください。怒りますよ」

「オリバー、クラレンスの相手は頼むわね。カトリーナ、ニナ、行きましょう」

「はーい。僕達も行きましょう。兄上」

「おい、待て……っ!」

王妃は楽しそうにカトリーナとニナの手を引いた。

緊張していたカトリーナだったが、ほんわかした王妃の雰囲気に絆されるようにして話を聞いていた。

クレランスと共にテーブルマナーを学んでいて本当によかったと思えた。

楽しい時間はあっという間だった。

オリバーが「母上、そろそろ時間ですよ」と顔を出したことで、王妃は驚いて声を上げた。

「あら、もうこんな時間なの!?」

「明日もご予定が?」

「そうなのよ!折角、ここまで来たのに城に帰らないといけないなんて残念だわ。カトリーナ、もっとあなたと話したいわ。今度は王都に来て城に泊まっていって。もちろん、クラレンスと一緒にね」

「はい」

頷くと王妃はカトリーナの手を取って包み込むように握った。

「カトリーナ、ありがとう。あの子の側にいてくれて……」

そう言って嬉しそうに笑った王妃を見て、カトリーナも深々と頭を下げる。

「こちらこそ、クラレンス殿下や皆様には感謝してもしきれません」

「まぁまぁ……!ねぇ、ニナ。わたくしカトリーナのことをとても好きになったわ。あなたの見立てだと、あとどのくらいかしら?」

「クラレンス殿下次第かと」

「…………そう。クラレンスったら、あの人に似て奥手なんだから」

王妃はにっこりと笑うとカトリーナを優しく抱きしめて去って行った。

クラレンスと王妃が話している間、オリバーとも挨拶がてら少し話をすると、彼は興味深そうにカトリーナを見てにっこりと笑った。

「カトリーナは素直でとてもいい子なんだね」

「……?ありがとうございます」

「そうだ!母上の話が終わるまでの間、僕がカトリーナに魔法を見せてあげるね」

そう言ってオリバーは火の玉を浮かべたり、空に投げて弾いたりしながら魔法を見せてくれた。

目を輝かせていると、オリバーはカトリーナを「こっちに来て」誘導する手を伸ばす。

しかしそれを阻止するように背後からクラレンスがやってきてカトリーナを抱きしめるように引き寄せる。

オリバーは笑顔のまま固まって、手のひらをヒラヒラと動かした。

王妃は「あらあら」と言って口元を押さえている。

「……クラレンス殿下、どうかしましたか?」

「以前も言ったが俺以外に触れさせるな」

「あっ……そうでした。申し訳ありません」

「わかればいい」

オリバーが楽しそうに「まさか兄上がやきもっ……」と言いかけた時、オリバーの口元が氷で覆われる。

しかしトーマスの時とは違い、一瞬で魔法は解けてしまった。

クラレンスがオリバーを睨みつけている。

王妃は「おやめなさいな」と言うと兄弟喧嘩はピタリと止まる。

二人は再び豪華な馬車に乗って窓から手を振っている。

「また会おうね、カトリーナ」

「楽しみにしているわ」

そう言って、嵐のように去って行った。

クラレンスは二人を見送ったあとに、邸に入ると疲れた様子で椅子に腰掛ける。

カトリーナは側にあったワゴンの上に置いてあるティーセットを手に取り、温かな紅茶を淹れてクラレンスに差し出した。

「ありがとう」

「いえ……」

「母上には何も言われなかったか?」

「はい。とてもよくしてくださいました」

「前々からカトリーナに会いたい会いたいとしつこいくらいに手紙がきていた。ニナにも口止めしなくてはな」

どうやらカトリーナが知らない間に、やりとりがあったようだ。

「仕方ない。また押しかけられては困る。天気も安定してきたことだ。買い物がてら来月には王都に向かおう」

「これでたくさんカトリーナ様の新しいお洋服を買い揃えられますね!」

後ろから話を聞いていたのか、ニナが嬉しそうに手を合わせている。

しかしカトリーナは静かに首を横に振った。

「たくさん服はいただいてます。十分です」

「そんなことありません!王妃陛下や国王陛下にも会いに行きますから、ドレスも新調いたしませんと!ここに来た時よりも随分と健康的になりましたが、それでも少食で心配になるくらいです。クラレンス殿下、行きましょう」

「はぁ……わかった。滞在を手配してもらうように頼まなければ」

「もう頼んでありますのでご安心を」

「……………まさか」

「一週間程の滞在にしましょうね!日程の調整もバッチリです」

「……もう好きにしてくれ」

カトリーナはニナとトーマスとクラレンスと共に王都に向かうことになっていた。

そこでいつも優しくしてくれるナルティスナ邸で働いている人達やクラレンスのためになにか御礼をしたいと思っていた。

それにカトリーナはナルティスナ邸に身を置いてもらっているだけでもありがたいのに給金までもらっている。

(何か、皆様にお礼ができればいいのだけれど……)

買い物に行くと聞いて、カトリーナは今まで溜めていた給金を持って王都に出かけることを決めた。

そして王都の近くにはサシャバル伯爵家もあることを思い出す。

久しぶりにスッと肌が冷たくなる感覚がしたが、大丈夫だと言い聞かせるしかなかった。