軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9 魔法を教わるときの三つのルール

リオンくんが魔法界の有名人になっていた。

その事実がアリアに与えた衝撃は大きかった。

(魔法、続けてたんだ!)

準一級魔術師試験がどのくらい難しいのか、ずっと独学で世間のことに疎いアリアにはわからない。

でも、王宮魔術師でも二級以上という話だったから、大人の中でも極めて上位の力を持つ魔術師でないと合格できない難度だということは推測することができた。

(すごいな)

何の実績もないアリアからすると、少し引け目を感じそうなくらいのすごさだったけど、それ以上に喜びの感情が大きかった。

(ずっとがんばってたんだ)

思いだされるあの日の約束。

アリアにとっては大切なものだったけど、子供の頃の約束だから、リオンくんが忘れて全然違う道に進んでいる可能性もあると思っていた。

だからこそ、彼が同じ道を進み続けていたことがすごくうれしい。

「でも、友達なのに彼の近況を調べたりしなかったの?」

ローレンスさんの言葉に、アリアは手帳にペンをはしらせる。

〈全然前に進めてない状態で知ると、悲しくなってしまいそうだったので〉

「なるほどね」

ローレンスさんは納得した様子で小さくうなずいてから続ける。

「でも、今なら胸を張って会えるね」

〈はい!〉

手帳の言葉を見せて、うなずく。

「彼は今、飛び級での最年少合格を目指して、王立魔法大学の入学試験を受ける準備をしてるらしいよ」

〈王立魔法大学?〉

「王国魔法界の最高学府。ちなみに、今までの最高記録は十五歳だから合格すれば三年も短縮することになる」

〈すごいですね〉

「すごいみたい。まあ、試験自体は僕らの頃の方が難しかったからって言い訳したくなるところもあるんだけど」

〈ローレンスさんも昔、入学試験を受けたんですか?〉

「うん。というか、十五歳の記録作ったのが僕」

〈え、すごい〉

「もっと褒めて良いよ」

アリアはしばしの間ローレンスさんを褒めた。

ローレンスさんはうれしそうだった。

子供に褒められて喜ぶ大人ってどうなんだろうと思うところがないわけではなかったけど、得意分野の実績を褒められるのはそれだけうれしいものなのだろう。

「君はどうするの?」

ローレンスさんは目線を合わせてアリアに言った。

「王立魔法大学の入試、受ける?」

それは途方もなく高い壁であるようにアリアには思える。

座学の勉強はずっとしていたけれど、独学だったし大学の入学試験に通用するとは思えない。

現実的に考えれば、もっと難易度の低いところから始めた方がいいのだろう。

だけど、アリアは困難な状況に挑むことに慣れている。

バカにされるかもしれない。

それでも、最初の目線は高く持たないと、それ以下のところにもたどり着けない。

(友達が約束を守って、上で待ってくれてる。それならわたしだって)

アリアは手帳に言葉を書く。

〈挑戦します!〉

「協力するよ」

ローレンスさんは微笑んでから言う。

「魔法を教える上で守ってほしいルールが三つある」

〈ルール?〉

手帳を見せたアリアにローレンスさんは、指を折りながら言った。

「ひとつ目は、わからないことがあったらどんなことでもすぐに聞くこと。二つ目は自分ならできると信じること。最後に三つ目、とにかく楽しむこと」

ローレンスさんは目を細める。

「守れるかな?」

優しい言葉に、思わず頬がゆるんでしまった。

(どんなことでも聞いていいんだ!)

気づいたとき、アリアは地面を蹴っている。

玄関から屋敷の中に入って階段を駆け上がる。

自室に走って、机に積んである魔法の本を持てるだけ抱えると、ローレンスさんと話していた庭に戻って、どん、と山盛りの本を芝生の上に置いた。

〈わからなかったことなんですけど、こことこことここがよくわからなくて!〉

分厚い本を開いてから、ペンを走らせて手帳を見せるアリア。

ローレンスさんは少しの間虚を突かれた顔をしてから、くすりと口元をおさえて笑った。

「いい質問だね。少し長くなるけどいい?」

〈何万時間でも大丈夫です!〉

芝生に腰を下ろして言うアリア。

ローレンスさんは隣に腰を下ろすと、にっこり目を細めて言った。

「まず、ここは――」

吹き抜ける風。

芝生に積まれた本。

青空の下で、二人は日が暮れるまで時間を惜しむように言葉を交わしていた。

◇ ◇ ◇

ローレンス・ハートフィールドは、誰よりも早く彼女の持つ魔術師としての資質を見抜いていた。

周囲のことを気にせず一心に魔法に向かう集中力。

興味を持ったら、絶対に離さない強靱な知識欲。

魔法をこの世界で一番好きなものとして夢中になっているその情熱。

(楽しいって気持ちが全身から溢れてる)

ローレンスは矢継ぎ早に質問を続けるアリアを見つめて思う。

何より、驚かされたのは魔法に対する理解の深さだった。

非効率な独学での学習とはとても思えない。

いったいどれほどの量を積み上げたのか。

ずっと一人で本に向かい続けたのだ。

貪るように魔法についての知識を吸収し続けた。

そして、彼女の知識欲は今、質問に答えてくれる相手を見つけたことでさらに強いものへと変容しつつあるみたいだった。

〈この部分についての記述がわからなくて!〉

水を得た魚のように夢中になっている表情に目を細める。

(本当に、君に似ている)

重なるのはかつて隣にいた幼なじみの姿。

『ねえ、フレちゃん! 私に魔法を教えて!』

『フレちゃん……?』

『うん、フレンドだからフレちゃん。良いあだ名でしょ』

薄れゆく記憶の残り香。

王国一の修繕魔法使いの欠けているもの。

どんなに直したくても、直せないもの。

しかし、目の前の少女に魔法を教える時間は彼が思っていたよりずっと楽しかった。

どんどんと知識を吸収していく。

伸びやかに成長していくその姿が眩しい。

(期待を超えてくるね、君は)

ポケットで手編みのブレスレットが揺れる。

夢中で本を覗き込む横顔を見てローレンスは微笑む。