軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8 全部が自分の力になるはずだから

生まれて初めて経験する魔法を使った戦い。

アリアは審判が勝ちと判定してくれるまで気を抜いてはいけない、と全神経を総動員して目の前の相手に集中していた。

「いい加減にしにょ!」と赤髪ピアスさんが顔を真っ赤にして怒るまで、振動魔法をかけ続けた。

「ちょっと、審判。判定」

「あ、そうでした」

ローレンスさんの言葉に、リズベルさんが我に返った様子で言う。

「アリアさんの勝ちです」

アリアはよし、と拳を握った。

魔法を使った勝負での初勝利。

しかも、相手は大人の王宮魔術師さん。

想像を遥かに超える結果にアリアの頭の中は幸せでいっぱいになり、脳内では妄想勝利者インタビューが行われていた。

「放送席放送席! 今日の勝利者はアリア・フランベールさんです」

アナウンサーが、アリアに魔導式の拡声器を向けてくれる。

「初めての試合。緊張していたのではないかと思います。試合が始まったときの心境を教えてください」

「そうですね。緊張していました。大人の、しかも王宮魔術師さんが相手だったので難しい試合になるかな、と」

「大金星でしたね。勝てるとは思っていましたか?」

「正直に言うと、無理なんじゃないかとくじけそうになるときもありましたね。でも、客観的に見て可能性がまったくないわけではないと思えたんです。まず私が勝てると信じないと、奇跡を起こすことはできませんから」

「強く信じる気持ちで奇跡を起こすことができたんですね。どうしてそこまで自分を信じ抜くことができたんですか?」

「やっぱり日々の練習のおかげですかね。苦しいときに、がんばってきた時間が自分を支えてくれるんじゃないかな、と」

「今日は祝日ということで、たくさんの子供たちが会場に詰めかけています。最後に、この試合を見ていた子供たちへのメッセージをお願いします」

「世界には二通りの人がいます。私か、私以外か。みなさんも私になれるようにがんばってください」

「今日の勝利者はアリア・フランベールさんでした! 皆様、盛大な拍手を!」

素敵なインタビューだった。

魔法ができるかっこいい大人な理想の自分を思い浮かべて悦に浸っていたアリアは、ローレンスさんに呼ばれてはっと我に返った。

「この氷、溶かすことはできる?」

そうだった。赤髪ピアスの王宮魔術師さんの首から下を周囲の空間ごと凍らせてしまっていたのだ。

アリアはうなずく。

空間に浮かぶ目に見えない何かの振動数を上げるようにイメージする。

氷が溶けて、水滴が浮かぶ芝生と全身ずぶ濡れの赤髪ピアスさんが残った。

「制服ずぶ濡れだね」

からかうような声で言うリズベルさん。

「何か文句ありますか」

赤髪ピアスさんは愛想のない声で言った。

(わたしのせいで風邪をひいたら申し訳ないな)

アリアは、振動数を上げて赤髪ピアスさんの周囲をあたためた。

空気が熱を帯びる。

濡れていた服が急速に乾いていく。

赤髪ピアスさんは驚いたように周囲を見回してから、アリアを見下ろした。

光を放つ魔法式を少しの間見てから、そっぽを向いて言った。

「……ありがとな」

その一言でアリアはうれしくなる。

ツンツンしているけど、どうやら悪い人ではないらしい。

「ギザギザハートの若者と少女の交流……いい」

しみじみと言うリズベルさん。

「別にそんなんじゃないですから」

嫌そうに赤髪ピアスさんが言葉を返す。

「って、いけない! もうこんな時間」

リズベルさんは時計を見て言った。

「早く本部に戻って報告書書かないと。二人とも、帰るよ」

慌ただしく屋敷の入り口に駐めた馬車に乗り込む王宮魔術師さんたち。

「ローレンスさんもありがとうございました! それでは!」

頭を下げるリズベルさんを見て、明るくて素敵な人だなぁ、とアリアは思う。

(わたしもあんな大人の女性になりたいな)

そんな風に思いつつ、馬車を見送る。

「君はこれからどうしたい?」

ローレンスさんの言葉に、アリアは顔を上げる。

〈これから、と言いますと?〉

「世界一の魔術師を目指すには大きく分けて二つの道がある。ひとつは魔法以外のすべてを捨てて、ストイックに上を目指す道。もうひとつは、魔法を楽しんで夢中になってるうちに世界一にたどり着いてるって道」

〈二つ目はちょっと楽そうですし、世界一にはなれない感じがしますけど〉

「それが意外とそうでもないんだよね。むしろ高みにいる魔術師には後者の人の方が多いかもしれない。もっとも、どちらかひとつというわけではなくて両方の要素が混じり合ってるのが現実だから、グラデーションの中でどちらがより強いかみたいな話になるんだけど」

ローレンスさんは言う。

「個人的には、君に後者の道を進んでほしいんだよね。努力してるなんて少しも感じないくらい魔法を好きになって、気づいたら魔法がうまくなっている――そういう道を進んで欲しい。魔法だけでなく、友達と遊んで今しかできない経験もたくさんしてさ。魔法を極めるのも大切だけど、それ以上に僕は君に良い人生を送って素敵な人になってほしいんだ」

〈そんなやり方で世界一の魔術師を目指せるんですか?〉

「目指せるよ。魔術師にとっては人生のすべてが魔法の力になるから。もちろん、世界一を目指すなら誰よりもたくさんの時間を魔法に注ぐのも必要になるけどね」

ローレンスさんの言葉を、アリアは大切に自分の中に仕舞った。

楽しんで、夢中になってるうちに世界一の魔術師になっている。

想像しているだけで胸が弾んだ。

〈楽しい多めで世界一を目指したいです!〉

と紙に書いて伝えると、ローレンスさんは目を細めてうなずいた。

「じゃあ、そっちの方針でいこうか。まずおすすめは学校に入るルートかな。友達を作って素敵な学園生活」

(友達……)

思いだされたのは元許嫁である第三王子――リオンのことだった。

アリアにとって初めてできた友達。

〈最強の二人になってまた会おう!〉

あの日書いた言葉は、今も心の一番大切なところでアリアを突き動かしている。

(もう五年も経ってるし、リオンくんは覚えてないかもしれないけど)

そう思うと、少し心細くなる。

あの時間を大切に思っているのは、自分だけかもしれない。

リオンくんは王子様だし、話していて楽しい素敵な人だから、友達がたくさんできてアリアのことなんて忘れているかもしれない。

(傷つくかもしれないけど、でも――会いに行こう)

考えていても何も進まない。

会ってみないとわからないことがたくさんある。

もし忘れられていたとしても、その後でまた仲良くなれる可能性もある。

たとえ悲しい結末に終わったとしても、それをきっかけにまた新しい魔法と出会えるかもしれない。

出会いも別れも成功も失敗も、全部が自分の力になるはずだから。

(勇気を出して進むんだ)

アリアは手帳に文字を書き込む。

〈リオン・アークライトくんが何をしてるかわかりますか?〉

「第三王子?」

〈そうです〉

「知り合いなの?」

〈わたしは大切な友達だと思ってます。最後に会ったのは五年前ですけど〉

「そっか。公爵家の子だと王室とも距離は近いか」

納得したようにうなずくローレンスさん。

「彼のことはよく知ってるよ。魔法界ではかなりの有名人だから」

〈王子様ですもんね〉

「いや、それは魔法界ではさして意味を持たない。魔術師っていうのは社会常識よりも魔法の方に価値を置いている特殊な人たちの集まりだから。彼が有名なのは、今まで出してきた実績から」

ローレンスさんは言った。

「王宮魔術師団序列二位の《蒼い巨星》に師事。史上最年少で準一級魔術師試験に合格。アークライト王家史上最高の天才。それがリオン・アークライトだよ」