作品タイトル不明
13 責任
その後、バグウェル伯爵家、アストン伯爵家、フィールディング公爵家の三家集っての話し合いが行われた。
文書の偽造、浮気のでっち上げ、セドリックはバグウェル伯爵家が訴えれば罪に問われる。
こういった場合、きちんと王族に訴えを起こし、判決を経て賠償金の支払いが行われる、もしくは体裁を保つために話し合いの上で和解金で済ませるの二択が存在している。
公の場でソフィアはセドリックを捕らえる理由付けとして王族への訴えを起こすことを宣言したが、なにもそうすることが目的ではない。
彼がこれ以上下手なことをしないように拘束したうえで、きちんとした話し合いが行われればそれでいい。
話し合いの場が整うと、ソフィアは話し出した。
和解金の支払いはするにしても被害者の気持ちが一番大切だ。パトリシアはセドリックとの関係維持を強く望んでいる。
結婚は続けるにしても、セドリックの汚名はもはや解消できないほどだ。
これ以上野放しにすることはフィールディング公爵家が看過できない。
しかし、貴族社会から離れ、セドリックがこれ以上問題を起こさないよう監視をつけて生活させるならパーティーを台無しにされたことの賠償金は免除する。
そういう提案をした。
つまりはもうどこにも逃げ場もないし、セドリックは一生パトリシアのものであり続けるということだ。
パトリシアは喜んでその選択肢を飲んだ。子を思う両家の親たちも寛大な措置に感謝し、穏便に和解金の支払額を決め、自分たちの責任で彼らを見張り、関係を安定させることに努めると約束したのだった。
小さな屋敷とも言えない小屋の中で二人きり、使用人も愛想も悪く汚い平民しかいない中で、セドリックは寝ても覚めてもパトリシアが居る生活を送っていた。
部屋は二つ以上あるのに、鍵がかからない。
「あなたが私はかわいそうで、私は周りの皆に守ってもらうべきで、愛されるべきで、かわいくて最高で、大切な存在だって言ったのよ」
その中で、パトリシアは常にセドリックへの思いを言葉にしていた。
「私、なにより嬉しかったんだから。だってそうだもの、当たり前のことだもの。それを言ってくれる人が居なくて苦しんでいたときに言葉をくれたのはあなただった」
「……」
「私ってこんなにかわいくて、こんなにおしとやかで誰もが憧れる女なのに皆嫉妬して言ってくれないから、あなたが言ってくれて救われたのよ」
実家に手紙を書こうと机に座ったのに。向かい側にやることのないパトリシアがやってきて、ひたすらセドリックに言葉を浴びせ続ける。
「私のこと正しいって言ったじゃない、私のこと愛してるって言ったんじゃない。認めてくれたじゃない、あなたはその責任を取って私を愛してくれないと」
「……」
「私をもっと大切にしてくれないと。離れるなんて許されないよ? セドリック、だって私ってこんなにかわいくて――」
言っていることがループし始めて、セドリックの頭の中をぐるぐると回る。
ここに来てから、実家での生活がすぐに恋しくなった。
衣類は平民が着るような薄汚れた服。食事はパンとスープだけの簡素な食事。
やってくる両親達は、お互いのことを見て、きちんと向き合って、と上から目線なことを言い続けるばかり。
もうボロボロだった。身も心も、何もかも。
病弱だなんだと言っておきながら、パトリシアはこの生活にさっさと順応した。
彼女は元気だ、長生きするだろう。
そして一生こうしているのだろう。
「ちゃんと愛してるってあのときみたいに言ってよ、私、あなたを愛しているわ」
「……もう、もうやめてくれ……もう」
「何を? 私はただ正しいことを言っているだけでしょう? あなたが間違っているだけ、私はあなたが大好きなだけ」
何を言っても、どんな反論をしてもパトリシアには無駄だった。
一体どこで間違えた?
両親がセドリックの言うことを聞いてくれなかったこと?
それとも、ソフィアがパトリシアの結婚を止めてくれなかったこと?
それともソフィアと婚約したこと?
何もかも?
後悔しても、今ここで責められる相手は居ない。ただパトリシアがいるだけ。
「あなたが私を認めてくれたんじゃないの。あなたが私は全部悪くないし、私はかわいそうなだけだって言ったんじゃないの」
思考の合間にパトリシアの声が入ってくる。
たしかにセドリックは言った。
彼女が、自分を責める言葉を言ったとき、両親に怒られたと言ったとき、パトリシアは悪くないと言った。
そうしたらパトリシアはセドリックのことを好いて、ありがとう、嬉しいと心から涙を流した。
(そうか……そこからだったんだ。……俺が……この女をそのままにしたんだ……)
家族にどんなことをして怒られたかも聞かないで、なぜ自分を責めているのか何があったのか深く考えもしないで、肯定して、セドリックを好きにさせた。
(間違いは、そこからか……ああ、そこだ。俺が考えなしに、喜ぶから適当を言ったばっかりに)
そうして、パトリシアは楽で苦しみのない道に流されて、それを肯定してくれた人間にすがりついて離さない。
それを与えたのはセドリックだ。
セドリックにも覚えがある。
彼女も何もかも肯定して持ち上げて気持ちよくしてくれた。
そうしてお互いそうすることだけでつながってきた。
だから、こうなった。
そう、はたと気が付いた。
「……」
「だからずっと一緒に居なくちゃいけないの。わかるでしょう? 私のことを愛してくれないといけないの」
「……」
そうしてその自分の安易な行動の結果が目の前で自分を苦しめている。
もう他に目を向ける余地はない、責任を取らなければ。
この小さな小屋の中では向き合うしかないのだ。