作品タイトル不明
12 決着
「お前みたいな奴は一生一人で生きるのがお似合いなんだ!!」
極めつけの台詞を言ったセドリックに、拳を振り上げたパトリシア。
「待ちなさい!」
声を張ってソフィアはパトリシアの背に手を置いた。
「っでも! 許せない、私の全部を認めるまでぇ、許さないぃ!」
ギリギリと歯を食いしばって彼女はそう言った。
それはそれで、感情の方向性が違うと思うが、仕方ない。彼らは最初から最後まで自分のことしか見えていないのだ。
どうしようもないのである。
そこはソフィアが変えられることではない。
「なら、なおさら少しだけ時間をくださいませ。セドリック!」
「な、なんだよ! お前に関係ないだろ!!」
彼はパトリシアを止められて、急に焦った様子で証拠の紙をぎゅっと握って声を荒げた。
「ええ、関係はないかもしれませんわ。でも、わたくし浮気の容疑をかけられたパトリシアの無実を証明するすべがありますの」
ソフィアは、舞台の演者になったつもりで胸に手を当てて声を張った。
「それなのに、黙っていることは家臣貴族を思うフィールディング公爵家跡取りの立場として、出来ないこと!」
「っ、っ~」
「ほんの、偶然だわっ。でもこれも神のお導き! ご覧くださいませ、二週間前、フィールディング公爵家の代理で王城の舞踏会に出席したパトリシアの記録ですわ」
そうして、記録石に触れる。
掲げると高い位置に光の額縁があらわれて、その中には華やかな王城の大ホールに目を輝かせ、頬を染めるパトリシアの姿。
背後に移る王族、記録の端にはちゃっかり日付と場所を大きく記載した紙を持ったロレッタが移っている。
「っは、はぁ?? はぁあ???」
混乱し、狼狽したセドリックは取り乱して疑問の声を上げるだけだ。
「たまたま、バグウェル伯爵に父が命を出したところ、パトリシアの帰省とかぶっていましたの。今まで小さな世界で生きてきた彼女の世界を広げるためにとて提案いたしました!」
「っ、う、うう、うそ、だ」
「貴族のサイン、使用人の証言……そんなものがなんでしょうか。これこそ本物の証拠というもの! この記録だけで納得できないのなら、この記録を見せれば王城の舞踏会に出席していた全員が、パトリシアのアリバイを証明することでしょう」
貴族達の目線は、たかが紙一枚のセドリックの証拠なんかより、記録石から浮かんでくるパトリシアの美しい姿に夢中になる。
「たしかに、私も見た気がする」
「あ、そういえば」
「美しい人が居ると話題になっていたんじゃなかったか?」
そして口々に、王城の舞踏会に参加していた貴族達が声を上げる。
それはたいした数ではないが、その場の人間を納得させるのには十分な数だ。
「パトリシアに話を持ちかけて正解でしたわ。本当に嬉しい」
ソフィアは家臣を思う、優しい主人の顔でその場に居る全員に言った。
「うそだ、嘘だろ! 嘘だ! お前っ、お前! 手紙で!!」
「手紙?」
「パトリシアは屋敷にいるってっ!! 言ったじゃないか!!」
たしかに言った。
しかしそれは過去形だ。今まではそうしていた、しかし、セドリックが動き出したとわかって、彼の目的もわかった。
間違いを犯さないパトリシアをセドリックははめようとしている。
そのために、離婚に必要なパトリシアの悪事を偽装する。
それが浮気にしろ、横領にしろ、でっち上げが必要だ。その時に、彼女がどこで何をしていたのか真実を知られてはまずい。
彼女が誰にも知られない場所にいるか、もしくは、真実を言ってもパトリシアを守って嘘をついていると判断される人間の元にいるか。
その状況がセドリックには必要だったのだ。
そして、その条件に合致して都合が良かったのが、実家での静かな療養。
セドリックがソフィアに本当に療養しているのかと裏を取ったのはそのためだ。
そして、その期間にセドリックが証拠をでっち上げてパトリシアが悪事をしていると偽装するならソフィアがやることはただ一つ。
その間のパトリシアをできるだけ目立たせて、真実を残すこと。
彼には目立たない場所にいると情報を送り、バグウェル伯爵が参加する舞踏会なり社交なりに彼女を連れて行き、完全なアリバイを作る。
そうすれば、彼の主張などなどなんの意味も無い。
それに、加えてセドリックは「屋敷に居るって言ったじゃないか!!」と言ったのだ。
それは、自白に等しい。
「あら、帰省中は屋敷に居る?? あなたの話では、浮気のためにボルジャー子爵家に居ると言う主張ではなかったの?」
「はっ、っあ、っちがっ」
「まぁ、そうですわよね、あなたの浮気の証拠なんて偽装なのだから」
「まっ、まて、違う! 違う!!」
「パトリシアが実家に居てくれないと成立しない、妻を陥れるための策略なのだもの!」
ソフィアは、セドリックを無視してまくし立てた。セドリックが動揺すればするほどその立場はどんどんと悪くなっていく。
いくら否定しようと、ソフィアの証言と証拠を崩すことなどできない。
だってただの事実なのだから、変えようがない。
慌てふためくセドリックに貴族達の向ける視線は変わってくる。
浮気での離婚というのは貴族にとって酷い汚点となるものだ。
それこそ人生が終わってしまうぐらい。
その分、それを偽装しパトリシアの人生を潰そうとしたセドリックはどこからどう見ても悪人。
彼は裁かれてしかるべき罪人。
パトリシアから逃れたいがために、罪を犯して誰もかばうことなどできない一線を踏み越えた。
「我が、フィールディング公爵家の社交の場で、家臣貴族の娘にあらぬ疑いをかけ、周囲を巻き込んでおとしめようとした」
「っ、……ソ、ソフィア……」
「文書を偽造し、民衆を扇動して公爵家の名前に泥を塗ろうとした。……アストン伯爵令息」
「…………」
セドリックは言葉を失い、周りの貴族達からの視線におびえて、周囲を見渡す。
顔は真っ青、額にはびっしりと汗を掻いている。
「これは、立派な問題ですわ。王家に訴えを起こし、正式に裁いてもらわなくては!」
ソフィアがそう宣言すると「アストン伯爵令息を捕らえろ!」とアルバートの声をして見れば、兵士達を連れてきてくれていた。
「まっ、待ってくれ、待ってくれぇ!」
取り押さえられながらも必死に髪を振り乱しながら、どうにかこの場から逃れようとセドリックは抵抗する。
セドリックが浮気の証拠としてあげた書類もアルバートが確保し、ほっとした様子それを手にしてソフィアの元へとやってくる。
「お疲れ様」
「どうってことありませんわ」
兄のねぎらいに、ソフィアは笑みを見せる。
ふと隣に居たパトリシアが走り出して、縄をかけられて連れて行かれるセドリックの元へと向かった。
「……こんなことで、こんなことで私から離れられると思わないで……私あなたを絶対に離さないから」
怒りのにじんだ声でセドリックの縛られた腕をぎゅうっと握って、兵士達は顔を引きつらせて会場を後にした。
それを幕引きにパーティーはお開きとなり、予期せぬ事態だったがこれでソフィアの策は無事終了したのだった。