軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十七話 完成! 馬型サンドイッチ!

剣術大会の当日の朝。

キースウッド総監修のもと、サンドイッチ作りが始まった。

「じゃあ、リオラ嬢は予定通り肉を、そこのオーブンで焼くんだ。少しばかりいつもと違うけど、火加減はむしろ調節しやすいと思うから」

「はい、です。わかった、です」

リオラはビシッと背筋を伸ばすと肉の下ごしらえを始めた。

使うのは鶏肉だった。羽をムシムシとむしって、ガリガリ表面を削って、内臓を処理して。

塩と香草、香辛料で下ごしらえ、そして……、ひょいっとオーブンに放りこんだ。

べちゃ、っと嫌な音が聞こえた気がするが……、キースウッドは聞こえないふりをした。

いちいち気にしていては、胃に穴が開くことを彼は確信していた。

焼けば……、火さえ通っていれば、食べられないことはないはずだ。

自らに言い聞かせて、次に行く。

「肉に関しては形が悪くても問題ない。あとは……」

「キースウッドさん、こんな感じでどうですか?」

やってきたのはティオーナだった。その細い腕に抱えたものを見て、キースウッドは大きくうなずいた。

「いいですね。さすがはルドルフォン伯爵令嬢です」

キースウッドの賛辞に、ティオーナははにかんだ。

もともと、分量さえ間違えなければ、ティオーナは十分に戦力になり得るのだ。問題なのは……、

「パンの方も、もう焼き始めてよろしいかしら?」

そう言って、ミーアが差し出してきたものを見た時……、キースウッドは思わず頭を抱えたくなった。

幸い、生地の方はアンヌが全面的に手を加えたのだろう。きちんとしたものに仕上がっている……ように見えなくはない。

だから、あとは形さえしっかりすれば……、サンドイッチにしやすい形にしてもらえれば良いのだが……。

ミーア作のそれは、前回と同じ馬の形をしていた。

――四角くしろって言ったんだが……。

いや、幾分か成長の兆しも見られるのだ。きちんと中まで火が通るように平たく作ってあるし、大きさも常識的なパンの範疇にはいるものになっている。

けれど、やはり問題なのはその形だった。

……なにせ馬である。胴体部分も妙にリアルに作ってあるから、微妙に細い。

そんな形でどうやって中身挟むんだよ! と、思わずたたきつぶして、生地の状態に戻したくなるが……。

ワクワク顔で返事を待つミーアには、さすがにそれは言いづらい。

国家外交的な観点はもちろんのこと、ミーアが一生懸命作った形跡が見えるそれをつぶすことは、キースウッドとしても気が引けることだった。

しかし、このままでは確実に中身がズレてしまう。かぶりついた時に中身が飛びだして切ない思いをしてしまうことは確実だ。

――とすると。

「フォークロード嬢、すまないが、アンヌさんといっしょにホワイトソースを作ってもらえるかな? 材料は……」

「あ、大丈夫です、読んだこと、ありますから。アンヌさん今から言うものを……」

クロエの指示で、素早くアンヌは材料をそろえていく。

もともと、クロエの知識はキースウッドに負けないぐらいのものがあるのだ。

正しい知識(生肉とか珍味ではなく、断じて、そういうマニアックなものではなく)を引き出してあげさえすれば、彼女は十分に戦力になるのだ。

――よし、そのソースを 糊(のり) 代わりにして。

ミーアのパンの最大の問題は、中に挟んだ肉と野菜が落ちてしまうことだ。だから、キースウッドはソースを使って、中身を固定しようというのだ。

焼き上がってきた馬型パンにたっぷりソースをぬり、その上に野菜を。さらにその上にソースを塗って肉を挟んで……。

「よし、完成だ……」

こうして、キースウッド苦心の作、馬型サンドイッチは無事に完成したのだった。

すべての作業を終えた時、キースウッドのもとにミーアがやってきた。

「ありがとうございましたわ、キースウッドさん。助かりましたわ」

ミーアからのお礼を受けて、キースウッドは小さく頭を下げた。

「もったいないお言葉です。シオン殿下にお伝えしておきます」

従者の手柄は主人の手柄、従者への賛辞は主君への賛辞。だから当然、ミーアの言葉はシオンへの物だと、キースウッドは思っていた。

しかし、

「いえ、シオン王子にではありませんわ。あなたに感謝いたしますわ、キースウッドさん」

ミーアは真っ直ぐにキースウッドの目を見つめて、

「あなたのおかげで、こうしてお弁当を作ることができましたわ」

そう言って、輝くような笑みを浮かべた。

――ああ、なるほど。こうやって相手の心を掴んでいくってわけか。

そんなミーアを見て、キースウッドは内心で感心した。

普通、貴族は従者に頭を下げたりしない。プライドが許さないからだ。

けれど、ミーア姫は、そんなつまらない常識にとらわれない。

素直にお礼を口にする。

長く貴族社会に浸ってきたキースウッドにとって、それは、新鮮な驚きだった。

――シオン殿下の前に出会っていたら、仕えていたかもしれないな。

キースウッドは知らない、ミーアが腹の中でなにを考えているのか……。

――あんな奴にお礼を言うなんてまっぴらですわ!

などと、実に心の狭いことを考えているなど想像もしない。

実のところ、前の時間軸ではキースウッドにも十分痛い目に遭わされていたのだが、そこはそれ……。

――従者の罪は主君の罪。すべてあいつが悪いんですわ!

実に貴族的かつ常識的な思考をミーアがしているとは、夢にも思わないキースウッドだった。