軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百十八話 忠臣からの差し入れ

さて、ところ変わってダンスパーティーの会場。

一時、浮足立った客たちも一応の落ち着きを取り戻し……、されど、ソワソワ不安そうな顔を隠すことはできなかった。

そこに、息を切らしたアンヌが戻ってきた。

「ルードヴィッヒさん、ミーアさまは……?」

「ああ、お疲れさま……。なにかあったのかい? ずいぶん時間がかかっていたようだが……」

ルードヴィッヒはアンヌの姿を見て、小さく首を傾げた。

すでに、アンヌに呼んできてもらった近衛は会場の入り口に待機している。なにかあれば、すぐに中に押し入ってこられるよう手配済みだが……、すでに会場内は落ち着きを取り戻している。サンクランドの兵も秩序だった警備を行っているため、そうそう出番があるとは思えなかった。

――会場の警備はランプロン伯の担当だろうか。さすがに、よく訓練してあるようだ。しかし……。

それより、気になっていたのは、アンヌのことだった。

近衛によれば、会場に向かえ、と伝えた後、アンヌは城外に走って行ってしまったという。いったいどうしたのか、と心配していたのだが……。

「あの……、ミーアさま、ダンスで喉が渇いたんじゃないかって思って……」

そう言って、アンヌは抱えてきた瓶を差し出してみせた。

「ラフィーナさまにゆかりのある宿屋さんに、ジュースをもらいに行っていました」

額に光る汗をぬぐいつつ、アンヌは笑みを浮かべた。

「えっと、パーティー会場のものも、大丈夫だとは思ったんですけど……」

そのアンヌの気持ちは、ルードヴィッヒにもよく理解できた。

エイブラムの飲み物に毒が入れられていたのだ。もしかしたら、ほかの飲み物にも入れられているかもしれない。もしも、それを運悪くミーアが飲んだりしたら……。

そんな危惧がわずかでもあるならば、と、アンヌはわざわざ城外にまで走っていったのだろう。

「君は本当に気が利くな、アンヌ嬢」

ルードヴィッヒはその忠義に感心すると同時に、若干の羨望を込めて、アンヌに言った。

彼女のしたそれは、自分には思い至らない配慮だったからだ。

――ダンスが終わった直後の出来事だったから、喉が渇いているかもしれない。でも、パーティー会場のものを口に入れるのは避けるべき状況。それを考慮したうえで、ミーアさまの必要をきちんと理解して動ける。彼女は立派な補佐役だ……。

会場を出がてら、ミーアが無防備に、パクリ、サクリ、とやっていたことは、見ていなかったルードヴィッヒである。まぁ、見ていたら、見ていたで、独自の解釈をつけてしまいそうではあるが……。

ルードヴィッヒの言葉に、アンヌは照れたように笑って首を振った。

「ミーアさまに相応しいメイドになるには、まだまだです」

それから、ジュースの瓶を見て……、

「お喜びいただければ良いのですけど……。私にできるのは、このぐらいのことしかありませんので……」

「いや、それで正しいのだと思う。我々ができる最善をもってお仕えすれば、きっとミーアさまの力になることはできる。ミーアさまは、我々がなしたことを、きちんと活かして計画の中に組み込んでくれる。そういうお方だ」

ルードヴィッヒは、クイッとメガネを押し上げて言った。

「これからも、お互いにミーアさまを支えて、頑張ろう」

「ルードヴィッヒさん……、はい! これからも、よろしくお願いします」

アンヌは笑みを浮かべて、頷いた。

そうして、忠臣同士、連帯を深めつつ……。

「それで、ミーアさまのもとへは、申し訳ないが、君だけで行ってもらえるだろうか? 私とアベル殿下とは、どうやら、ここを動けそうもない」

「それは、犯人を外に出さないため、とか、そういうことでしょうか?」

「もちろん、それもある……が」

ルードヴィッヒはあたりを見回してから言った。

「今は落ち着いているが……ここは、少し危険だ」

「というと?」

「君に近衛を呼んできてもらったことからもわかると思うが、いつまた先ほどのような恐慌状態になるかわからない。サンクランドの民にとって、エイブラム陛下は精神的支柱。今はサンクランドの貴族も衛兵も落ち着いてはいるが……。なにかあった時には、それを静められる者が必要だ」

それから、ルードヴィッヒはアベルのほうに目を向けた。

「できれば、アベル殿下にも安全な場所にいてもらいたいのだが……」

「それは無用な心配だな、ルードヴィッヒ殿」

アベルは苦笑いを浮かべて言った。

「少なくとも、君よりは荒事に慣れているつもりだし……、君だってミーアにとっては大切な臣下のはず。君だけがこの場に残るというのは道理に合わない。なにより、無用な争いごとで血が流れるのは、ミーアも望んではいないはず……」

肩をすくめつつ、アベルは言った。

「失礼ながら、帝国の平民である君より、レムノ王国の王子であるボクのほうが、声を届かせるには向いていると思うけど……」

そのおどけた様子に、ルードヴィッヒは苦笑して、

「と、まぁ、そういうわけで。ミーアさまのもとへは、アンヌ嬢一人で行ってもらえるだろうか」

「はい。わかりました」

アンヌは頷いて、会場を出ようとする。そこに、

「ああ、そうだ。一言だけ、お願いできるだろうか?」

現在、騒動の渦中にある主君のもとに馳せ参じることができないのが、わずかばかりシャクだったルードヴィッヒは、ミーアにメッセージを送ることにする。

「ミーアさまに、伝えてくれ。どうぞ、御心のままに、と。後のことは我々がなんとかしますから、と」

アンヌは、それを聞き、小さく頷いた。

「わかりました。必ず、ミーアさまにお伝えいたします」

そうして、アンヌはミーアたちのもとに向かった。

途中でキースウッドたちと合流できたのも幸いし、無事に王の部屋まで到着。

そうして、話が一段落するのを、じっと待っていたのだが……、しばらくして、ミーアが軽く咳き込むのを聞いて大慌てで部屋に入った。

「失礼いたします。ミーアさま」